研究紹介

経済学研究科 経済学専攻 寺崎友芳教授 インタビュー

「経済学を使って都市問題を分析する」

都市経済学とは何か

私の専門の都市経済学は、都市や地域が抱える諸問題を経済学の手法を使って分析し、問題の原因を解明したり、処方箋を提示したりする学問です。日本の大都市では、混雑、日照、環境、治安、そして最近では保育所不足や介護施設不足などの問題がクローズアップされています。一方、地方では中心市街地の空洞化、限界集落といった問題が課題となっています。都市経済学では、こうした地域に根差した身近な諸問題を研究対象とします。

例えば、通勤電車の混雑は、誰しもが嫌な思いをしています。これを経済学で分析すれば、利用者は、「満員電車に乗るか、あるいは少し早めに起きて満員電車を避けるか」という選択において、「満員電車に乗って不快な思いをするコスト」と「睡眠時間を削って少し早く起きるコスト」を比較して判断していると見なします。しかし、満員電車に乗ることは、本人も不快ですが、同時に、1人多く乗車することで既に乗車している人全員の混雑度を少しだけ増やしています。この「自分が乗ることで他人の混雑度を増やしている」というコストは、「満員電車に乗るか、早起きするか」という個人の選択においては考慮されていません。経済学では、自分が負担するコストを私的限界費用と称し、自分の行為によって増える他人の負担(外部不経済といいます)を考慮したコストを社会的限界費用と称しています。渋滞や混雑が発生している状況においては、社会的限界費用が私的限界費用と大きく乖離しているために混雑時に利用者が交通サービスを過剰に消費している市場の失敗が生じていると考えます。

では、どうしたら解決できるのか?といえば、混雑時に料金を上乗せすることで私的限界費用を社会的限界費用と等しくなるまで引き上げることで社会的な便益が改善されます。いわゆる混雑料金です。シンガポールや香港、ロンドンなどで導入されたことがありますが、日本では、昼間専用の回数券など限定的にしか導入されていません。ICカードやETCが普及した現在、技術的には混雑料金制度を導入することができるようになっています。課題は、利用者に対して混雑緩和というメリットが享受できる仕組みを提示することで、研究者はこの問題を真剣に考え、運輸事業者や行政、利用者に訴えていかなければならないと思っています。

私は大学院時代に、こうした通勤電車の混雑による疲労や不快感を全駅間の混雑率と各駅の家賃相場のデータなどを使って金銭換算をする実証研究を行ってきました。

一方で、人が集まることは、混雑という負の側面のほか、フェイス・ツー・フェイスのコミュニケーションがとりやすくなることで都市全体の生産性が増すという集積の経済と呼ばれるメリットもあります。これも、オフィス賃料や地価のデータから推定することができます。この集積の経済は、IT・グローバル化の進展によって弱まっていくという見方と逆に強まっていくという見方があります。集積の経済というメリットが時代とともにどのように変わっていくのか実証分析することも継続して研究しています。

日本における地域間格差の特徴

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東日本大震災直後の石巻市街地(筆者撮影)

東日本大震災直後の石巻市街地(筆者撮影)

日本の地域間格差の最大の問題は、経済格差ではなく、人口や企業の東京一極集中にあります。東京都市圏(東京への通勤・通学圏)の人口は3000万人を超えており、世界最大の都市圏となっています。東京で暮らす人は高い所得の対価として長距離通勤・通学を強いられています。私は、拙著『革新する保守―良いアベノミクス、悪いアベノミクス―』(扶桑社新書)の中で「東京圏の住民は、世界の大都市の住民の中でも不幸な方に属すると評価することもできる。実は疲弊しているのは地方ではなく東京圏のサラリーマンなのである」と表現しています。

東京一極集中が進んだのは、許認可の権限が中央官庁に集中していることや日本人がフェイス・ツー・フェイスのコミュニケーションを他国以上に重視していることにも起因していますが、原因の一つには、大阪圏の地位低下があると私は考えています。かつては、大阪は天下の台所であり、経済力では東京圏を凌駕していました。しかし、1970年代頃から大阪圏の経済的な地位は顕著に低下しています。

原因はいろいろ指摘されていますが、私は、日本の国土計画において大阪圏が東京圏と同様に開発を抑制する地域として指定されてきたことや、大阪圏の地方自治体が過去の地位に安住して、分配ばかりに執心し、成長戦略を真剣に講じてこなかったことを指摘しています。今、ようやく関西の自治体は成長戦略に舵を切ったところです。

「人と同じことはしたくない」「自分のことはお上ではなく自分で決める」という関西人の気質は、現在進行しているIT・グローバル化とマッチしています。「他社がやってるからうちもやろう」とか「お上の指示だからやってみよう」などという東京圏の気質では不確実性の大きいIT・グローバル化の時代では生き残っていけません。大阪圏の再興こそが、東京一極集中の是正に繋がり、ひいては日本経済全体の復活に繋がると確信しています。

今、私は、労働統計や国勢調査などを使って関西圏の女性就業率の低さの要因分析をしています。関西圏の女性就業率は、東京圏どころか他のどの地域と比べても低くなっています。その原因を究明し、女性就業を阻害する要因があるのであれば、そうした障害を取り除き、やる気のある女性が働きやすい地域にすることが、関西経済復権の第一歩になると考えています。

地方創生に欠かせない視点

これまで、日本の地域間格差は、中央で集めた税金を地方に補助金や交付金として分配したり、高速道路、港湾、空港、工業団地などの社会資本を地方に重点的に整備したりすることで格差を是正してきました。しかし、政府債務がGDPの2倍を超えた今、中央政府に地方に分配する余力はなくなってきました。また、グローバル化が進んだことで、企業は地方を超えて新興国に生産拠点を設けるようになりました。こうした財政悪化とグローバル化の進展によって地方は自立を余儀なくされています。

私は、休みの日になると車や電車を使って日本の地方都市を訪れます。地場企業の経営者や市役所、経済団体から話を聞くこともあります。すると、同じような条件の地方都市でも、中心市街地が衰退し、街全体に活気のない都市もあれば、魅力のある中心市街地をリノベーションし、外国人観光客も訪れるようになった都市もあることに気が付きます。地方でも二極化が進んでいると実感しています。

地域の特徴を活かして差別化、ブランド化に成功した都市は、交流人口を維持することができます。一方で、他の都市の真似をして不釣り合いな施設を作った街はうまくいっていません。全国一律ではなく、地域固有の自然、文化、歴史、技術を活かした街づくり、人づくりができるか否かがポイントとなっています。

難しいのは、技術や人々の嗜好、競争環境は常に動いており、差別化の源泉が日々変わっている点です。こうした困難さはあるものの、データとフィールドワークから自分の住む街の強みと弱み、そして課題と解決策を見出すプロセスについても今後の研究課題としていきたいと考えています。

大学院で経済学を学ぶ意義

インタビュー風景

私は、大学卒業後、政府系金融機関に就職した後、企業派遣として修士課程で学び、その後、夜間の博士課程で学位を取得して研究者となりました。働きながら学ぶことは大変でしたが、実務の中で多くの企業経営者や官公庁の方と接することで、日本経済や地域経済が抱える課題を把握することができ、それが研究の原動力となりました。また、大学院で学んだ分析手法を使って、地場企業や地方自治体に対して再開発・イベントの経済波及効果や交通需要予測などについて情報を提供することができました。

心持ち次第で、実務は大学院での研究に活かせますし、大学院での研究も実務に活かせます。本学の大学院経済学研究科は、日本で初めて通信制講座を開講しました。学生はもちろん、社会で活躍されている方々にも、今一度、学問的なアプローチの手法を身に付けていただき、そこで得られた知見を学問の世界や社会に還元していただけることを楽しみにしております。

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