The Future 大学院からのキャリアステップ

大学院での挑戦が、ジェネリック医薬品を世に出す仕事につながりました。

工学研究科 生物工学専攻 博士前期課程2012年度修了

奥村 蓉子 東和薬品株式会社 研究開発本部 臨床開発部

ジェネリック医薬品(後発医薬品)を製造・販売する東和薬品株式会社で働いています。入社4年目で、入社時から臨床開発部という部署で仕事に携わっています。ジェネリック医薬品とは新薬(先発医薬品)の特許期間などが過ぎた後に他の製薬会社から同じ有効成分で、効き目、品質、安全性が同等であることを条件に国から承認されている薬のことです。ジェネリック医薬品が国から承認されるにはさまざまな試験が義務付けられており、そのひとつとして新薬と効き目や安全性が同等であることを証明する「生物学的同等性試験」のデータが必要となります。この試験は、健康な成人に新薬とジェネリック医薬品を交互に投与して一定時間ごとに採血を行い、血液中の薬物濃度が同等に推移するかどうかを評価します。

採血などの医療行為を伴う他、薬を投与した後の副作用の発現にも注意する必要がありますので、医療機関に委託して実施しているのですが、私は試験の計画・立案から国へ提出する申請資料の作成までを担当しています。具体的には、生物学的同等性試験を正確に実施できるよう綿密に計画を立て、協力いただける医療機関を選定します。そして、医療機関と試験内容について打ち合わせを行ったり、サポートを行いながら試験を実施します。最終的には得られた試験データをまとめて国への申請資料を作成し、申請後も審査や調査などに対応しています。私の所属する臨床開発部は、当社が開発した高い品質のジェネリック医薬品が新薬と効き目や安全性が同等であることを確認する部署なので、国からの承認というゴールが見えた時にやりがいを感じます。これまでに10品目以上を担当しており、これからジェネリック医薬品として世に出ていくのが楽しみです。

STEP1

主体的・能動的に考察する力が身につきました。

高校時代に生物の授業が好きだったことから、京都産業大学の工学部生物工学科(現:総合生命科学部)に進学しました。大学では中田博教授の講義を受けるうちに免疫学やがんに興味を持ち、3年次の分属時に免疫糖鎖生物学を専門とする中田教授の研究室を選択しました。学部だけでは卒業論文を書くまでに研究に費やせる時間は実質一年くらいしかありません。私は、中田教授の下でもっと学びたい、せっかく取り組むなら一から自分で考えて実験手法を組み、何かを発見できるような大きいテーマに挑戦したいという強い思いから大学院進学を決めました。大学院では、女性特有の病気である子宮内膜症と卵巣がんの検査方法をテーマに研究しました。卵巣がんは自覚症状が現れにくく、末期になって見つかることが多いと言われています。また、現在の検査方法では、子宮内膜症と卵巣がんとの区別が難しいという課題があります。そこで早期に正確に診断できる検査方法を確立しようと、研究に取り組みました。検査方法の確立までは届きませんでしたが、より子宮内膜症と卵巣がんを区別する検査方法への可能性を見出すことができ、これが大きな自信につながりました。

STEP2

問題提起して解決策を探り、行動する力がつきました。

大学院では、自分で考えることを強く意識しました。学部の時は、講義も研究もどちらかといえば受け身ですが、大学院では中田教授も自分で考えなさい、調べて分からなかったら聞きなさいというスタイルだったので、自然と主体的・能動的に考察する力がついたと思います。同じ研究室には10人以上の先輩や同級生がいましたので、分からなければ教えてもらい、また論議する機会も増えたことで、相手に伝える力もつきました。週一回のセミナーでは、自分の研究に関連する論文について考察した内容を発表していたので、プレゼンテーションの能力も高まったと思います。自分で考える力がつくと、一日のスケジューリングが上手になりました。まず朝に研究室で準備すること、実験の空いている時間にやることなど細かく予定を立てることで、一日が無駄なく使えるようになりました。一つの失敗が研究にかけた何時間もの時間を無駄にしてしまうこともあるのですが、こうした失敗がほとんどなくなりました。また、中田教授の研究室はOBやOGが多く、定期的にバーベキューやスポーツなどをします。先輩方のお話を聞くこともとても良い刺激になりました。

STEP3

より高度な職種への可能性が広がりました。

大学院に入って研究者としての経験が深まる中で、進路として製薬業界を考えるようになりました。大学院で病気に関連する研究を経験したことや、同じ研究科から製薬業界に進んだ先輩方に話を聞く機会が増えたことで、さらに興味が広がりました。また、中田教授が薬学部の出身で、いろいろと話を伺うこともできました。私は、薬を通して病気を治し、健康につなげることで誰かを笑顔にしたいという思いから、製薬業界を目指しました。さらに、新薬と同等の効き目であることはもちろん、飲みやすく、扱いやすいジェネリック医薬品への取り組みに魅力を感じ、東和薬品に就職を決めました。就職活動は、学部生と一緒でしたが、研究職や技術職となるとやはり周りには大学院生が多かったです。学部卒でもこうした職種において大学で得た知識を活かしたり、応用したりすることは不可能ではありません。しかし、実際に手を動かし、自ら考察して研究を進めた大学院での経験は、研究職や技術職といったより専門性の高い職種への可能性につながったと実感しています。

The Message

大学院は心身ともに成長できる場。大学で基礎を学び、大学院ではそれを応用する知識や技術を磨くことができます。また、大学院はこういうことを知りたい、こういうことをもっと学びたいという自分の考えを受け入れてくれる場でもあります。そのため、まずは自分の考えを持つこと、そして知的好奇心や自主性を示すことが大切です。自分の関心のある分野で専門性を深めたいのなら、大学院へ進むことをお勧めします。私が学んだ中田教授の研究室では、分からないことや困ったことがあるといつも教授や先輩が助けてくださいました。また、他の研究室との交流もあるため、色々な年齢層の方々とも関わる機会があり、より学問的、知的な経験が深まると思います。