研究紹介

理学研究科 物理学専攻 山縣淳子准教授 インタビュー

「原子核 〜わずか2種類の粒子が紡ぐ多彩な世界〜」

原子核には、宇宙の歴史が刻まれている!

皆さんの周りにある物質をどんどん細かく砕いていくと、原子と呼ばれる、半径が 10-10 m 程度のとても小さな粒子が得られます。例えば、最も身近な物質である水は水素原子と酸素原子からできています。これら原子はさらに分割できて、原子の「コア (核)」である原子核と、原子核の作るクーロンポテンシャルに束縛された電子に分けられます。地球上に存在する物質は全て、原子核と電子に分けることができます。原子核は原子よりもはるかに小さく、半径は 10-15 m 程度です。しかも、原子核はさらに分割できて、プラスの電荷を持つ陽子と電荷を持たない中性子というたった2種類の粒子の組み合わせで、核力と呼ばれる相互作用に基づいて作られています。私の研究テーマはこの原子核で、原子核を舞台に展開されるダイナミクスを研究しています。

原子核には、我々の宇宙の歴史が刻まれています。我々の宇宙で、陽子と中性子が初めて出会ったのは、宇宙の始まりとほぼ同じ頃、ビッグバンが起きた直後です。ビッグバンの持つ莫大なエネルギーから陽子と中性子が宇宙の中にたくさん生成され、ビッグバンから数分後 に重陽子 (陽子と中性子が1個ずつ束縛した原子核) やヘリウム原子核、そしてごく微量のリチウム原子核ができました。最初の元素 (原子核中の陽子の数で分類した原子のこと。それぞれの元素では化学的性質が同じ。水素、ヘリウム、リチウム、…) の誕生です。次の出会いのタイミングは、最初の元素が集まってできた恒星の内部です。数千度以上の高温となる恒星の内部では、原子核同士が衝突・融合し、鉄原子核までが作られました。それよりも重い原子核、例えば金、銀、鉛などは、質量の大きな恒星がその一生を終える時に起こす超新星爆発や中性子星(半径10km程度の大きさで、太陽と同じくらいの質量を持つ)の合体などの超高エネルギー反応で作られました。そうして宇宙に放出された様々な種類の元素が集まって、我々の太陽系、そして地球が構成されたのです。つまり、皆さんの周りにある物質や皆さん自身は、宇宙のかけらなのです。

私は、宇宙における元素合成への興味から理論原子核物理の研究をスタートしました。卒業研究でビッグバン直後の元素合成をテーマに選んだのですが、研究を進めていくうちに、陽子と中性子が作り出す原子核について深く探っていきたいと考えるようになりました。

原子核を使って、宇宙を支配する力を理解する!

黒板

私は、原子核を舞台に展開されるダイナミクスを研究しています。

原子核の構成要素は陽子と中性子で、それらを結びつけるのは核力です。今日では、陽子や中性子はハドロンと呼ばれるクォーク束縛状態 (3個のクォークからなるバリオンと、クォーク・反クォーク対である中間子に分類されます。ただしクォークは「クォークの閉じ込め現象」により単独では取り出せません。陽子や中性子はバリオン) の仲間であること、核力はクォークの動力学である量子色力学 (Quantum chromodynamics、QCD) にあること、そして任意のハドロン間に核力を一般化した強い相互作用が働くこと、が分かっています。強い相互作用の全貌はまだ殆ど明らかになっていませんが、現在 J-PARC (茨城県東海村) をはじめとする国内外の様々な施設で高精度のハドロン実験が進められており、強い相互作用の世界が押し広げられている段階です。

私は、これらのハドロン実験と相補的な関係にある「原子核中におけるハドロンの性質の理論研究」を行っています。原子核は非常に高密度な状態です。原子核は小さな「実験室」であり、この実験室の中でハドロンがどのような性質を持つのか興味があります。原子核中では、ハドロンには陽子や中性子との強い相互作用が働き、その性質が変化したり、ハドロン自身が原子核の新しい構成要素となったりします。これらの振舞いを、カイラル対称性の自発的破れなど、量子色力学の性質と照らし合わせながら、理論的に予言したり・実験結果を再現したりします。私は、非相対論的・相対論的波動方程式を数値計算で解き、実験で直接観測される反応断面積を求め、実験結果と比較しています。私が特に注力しているのが、K-中間子を原子核に束縛させた、いわゆる K-中間子原子核です。地球上では自然に存在しない状態ですが、宇宙にある中性子星の内部で、その非常に大きい質量の謎の一旦を担うと思われています。K-中間子と陽子・中性子の強い相互作用は大きな引力だと、長年予想されていました。そして最近、J-PARC から K-中間子原子核のシグナルと思われる実験データがいくつか発表されました。現在、その実験データの解釈を実験研究者と共同で行っています。

核力を含む強い相互作用は、電磁気力・重力などと同様に、宇宙の始まりからずっと我々の「そばにある」力の一つです。この宇宙を支配する力の一つをこの手で明らかにできる、これが私の研究の魅力であり面白さです。

大学院で研究に没頭してみよう

インタビュー風景

大学院に進学するとそこから研究がスタートします。学部の間に様々な知識を身に付け、「面白い」「なぜだろう」「知りたい」という分野を見つけてください。もちろん、進学後に新たに興味を持つこともあるでしょう。そして、周りの人とたくさん話をしてください。研究は一人ではできません。多くの人との関わりの中でアイデアが生まれたり、問題の解決策が見えたりしてくることもあるでしょう。

大学院では、研究に没頭できる本当に楽しい時間を過ごすことができると思います。数値計算を行うための数式化を行い、ソースファイルのバグ取りをし、無事に計算結果が出てきたら、色々な角度から正確さを検証し結果を考察します。そして、国内外の研究会で成果発表を行い、他の研究者と議論をかわします。研究は、うまく行かないこと壁にぶつかることは普通です。その時、「なぜだろう」と食らいつくことができるのは、知識の有無ではなく情熱だと私は思います。「知りたい」と思う気持ちをぜひ大切にしてください。今、自分が興味のあることに没頭してみませんか。

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