研究紹介

理学研究科 物理学専攻 諏訪雄大准教授 インタビュー

「物理でみる宇宙と宇宙でみる物理」

宇宙現象に物理とコンピューターでアプローチ

アイザック・ニュートンが地面に落ちるリンゴと落ちてこない月の違いから万有引力の法則の着想を得たというのは有名なストーリーです(注:創作だという説もあり、真偽は定かではありません)。ここで重要なのは、地上と宇宙空間で同じ物理法則が働いていることの発見であり、そこに端を発する様々な物質の間に普遍的に存在するある種の規則性の理解です。このようにして、地上から遠く離れた物質が物理学の対象となりました。その後も宇宙を研究することで様々な物理法則が発見され、人類の自然観は刷新され続けてきました。一方、地上での実験・観察を通して発見された物理法則を宇宙の現象に適用することで、宇宙像もまた日進月歩で更新されています。このように、物理学の発展と宇宙理解の深化は相補的なものなのです。
 このような背景のなか、私はさらにコンピューターシミュレーションを組み合わせることで、未解明な宇宙の現象の背景に働く物理法則の理解を目指して研究を進めています。特に、星の死について様々な物理を用いてアプローチしています。
 星の寿命にも限りがあることがわかり、その一生の様子が物理を用いて計算できるようになったのは20世紀半ばのことです。星の内部で炭素や酸素といった我々の体を成り立たせている元素が合成され、一生の最後に起こす大爆発によって宇宙空間に放出されることで地球の種となりました。したがって、星の一生を理解することは、私たちの起源に迫ることにつながっているのです。かなりの部分が解明されてきた星の一生の中で、人類がいまだ明らかにすることができていないのが、星の死です。特に、死の瞬間に引き起こされる大爆発、超新星爆発がどんなメカニズムに駆動されているのか、人類がいまだ見つけることのできていないとても重要なパズルのピースです。
 私自身がこうした星の死やその後に興味を持ったのは高校生のときでした。特に、一部の星が死んだ後に残すブラックホールについて不思議に思い、通っていた高校のカリキュラムにあった小論文ではブラックホールについて自分なりに調べたものをまとめたのを覚えています。そのときに読んだ本から東京大学の佐藤勝彦教授のことを知り、東京大学に進学し大学院では佐藤教授の研究室に入ることを目標としました。その後、とても幸運なことに希望通りの道に進むことができ、佐藤教授や研究室の仲間たち、そして世界中の友人たちとの共同研究を通して、星の死について深く勉強し、さらに世界初となる独自の研究へとつなげることができました。

星のグランドフィナーレに迫る

宇宙で起こる現象を理解するには多種多様な物理を使いこなす必要があります。超新星爆発においては、基本相互作用とよばれる4つの力(重力、電磁気力、弱い力、強い力)がすべて重要な働きをおよぼします。そのため、素粒子物理学というミクロスケールの物理から一般相対性理論というマクロスケールの物理についての深い理解が不可欠です。違う見方をすると、たった一つの天体現象を異なる物理を用いて解釈したり、異なる観点から見たりことで新しい情報を得ることが可能であることを意味しています。
 星の寿命はその質量によって数百万年から百億年ほどにもなりますが、その死が始まってからは急速に物事が進みます。爆発の成否が決まるのはわずか1秒足らずです。まさに悠久の時間を過ごしてきた星の生涯のグランドフィナーレです。そのような時間スケールで宇宙空間の現象が変化することは通常ありません(星座や天の川の位置が1秒なんて短い時間で変わることはないですよね)。なにか劇的なことが起こっていることは明白ですね。しかし、真に何が起こっているのかはまだわかっていません。
 超新星爆発が起こったあと、そこには何が残されるのでしょうか?半径わずか10kmほどの球体の中に太陽質量(2×1030kg)以上の物質のつまっている中性子星やさらに重いブラックホールが残されると考えられています。このような天体は、地上実験では実現することの困難な超高密度・超強重力という極限物理的な環境が実現されています。そこにはまだ人類の理解できていない物理法則そのものやあるいはそのヒントになるような情報が隠されていることが期待できます。どのようにそうした情報を取得すればいいでしょうか?ここで活躍するのが、精密な理論計算と観測データです。既存の物理を用いて理論とデータを詳細に比較し、その乖離が見えてきたところにいま人類が知っている物理の限界があるのです。そのためには、既存の物理を用いた精密計算が不可欠です。いま、わたしは宇宙の現象についてスーパーコンピューターを用いて精密に計算する研究を進めています。この先に新しい物理の発見が待っていることを期待して。

     (筆者の主要著書・論文・訳書)
超新星爆発シミュレーションの動画。色はエントロピーを表していて、赤いほどニュートリノによって加熱されて高温になっていることを意味する。

研究が好きですか?

黒板

よく言われることですが、勉強と研究は似ているようで全く異なる知的活動です。勉強はすでに過去の先駆者によって明らかにされた事実を学ぶことです。その一方、研究はこれまで誰も見つけることのできなかった事実を自らの手で明らかにしていくことです。勉強は得意であっても研究が苦手な人もいますし、逆に勉強には興味を持てなくても研究に邁進できる人もいます。大学の学部時代に行うことは勉強ですが、大学院では研究を行うことが主になります。もちろん、研究をするときも完全に0から始めるわけではありません。すでに先駆者によって明らかにされた事実をスタート地点として未踏のテーマに切り込んでいくため、研究を始める前にある程度の勉強は不可欠です。
 したがって、大学院に進むかどうかを検討するときにぜひ考えてみて欲しいのは、「自分は研究という活動が面白いと思えるのか」という点です。実際にはやってみないとわからないということはままありますが、ただ単に学部の延長線と思って大学院に進むと期待はずれだったり不満足な結果に終わったりする可能性もあります。大学院に進む前に少しでもいいので自分の好きなことが勉強なのか研究なのか、検討してみてください。
 また、大学院では主体的に情報を集めることが求められます。研究は明らかにしたい問題設定が自分の中で定まってはじめて前に進むものだと思うので、指導教員から指示されることを期待するよりも、自分が研究したいテーマや手法を貪欲に探してみてください。迷った時には指導教員を相談役として積極的に活用してもらえればと思います。
 少し厳しいことばかり書いてしまいましたが、もしこの文章を読まれた後でも大学院に進みたいという気持ちが強く残っている方は、歓迎します。自然界の前ではわたしたちは等しく教え子です。共に自然から多くを学び取りましょう。

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