Pick up 研究室(物理科学科)

「トポロジカル物質の単結晶育成」 瀬川 耕司研究室

自然まかせの結晶育成、人の手でどこまで変えられるか

私の専門分野であるトポロジカル物質とは、特定の元素や結晶構造を含めば良いというものではなく、理論計算に基づいた予測があって研究が成り立っています。実験家としては自由度が減ってしまっているところもあるのですが、ほとんどの物質合成には石英ガラス管封じが必要になり、そこをいかに簡単に、かつ確実に行うかの技術開発も学生と一緒に行っています。

研究の手法としてはそこまで特別なものではないのですが、うまく条件がはまればものすごくきれいな結晶が勝手に育ってくれます。できあがったみごとな結晶を見ると神秘性を感じることもあります。結晶育成は自然の言う通りにしかならない側面が強いのですが、成長時の条件操作などで、少しでも人間の手で変えられるところがないか、も追究していきたいと考えています。

「原⼦核ハドロン物理」 新⼭ 雅之研究室

素粒⼦(ミクロの世界)の研究から謎多き宇宙の原理に迫る

皆さんは「初期の宇宙はビッグバンという大爆発だった」という話をご存知でしょうか?ビッグバンの頃の宇宙は恒星の内部等よりもはるかに高温で素粒子の生成と消滅が繰り返されていたと考えられています。その後、宇宙が膨張し冷えるにつれて素粒子の1つであるクォーク同士が結びついて陽子や中性子が生まれ、さらに陽子や中性子が結びついて原子核が創られました。ミクロの世界での物理現象の研究は初期宇宙での物質創生を調べることに繋がります。また、宇宙の誕生から存在し、現在も宇宙を満たしていると考えられている「暗黒物質」が未知の素粒子なのか、その正体を明らかにすることで宇宙の成り立ちを理解する事ができます。私はこれらの謎に興味を持って、加速器という施設を用いて素粒子・原子核の実験研究を行っています。

素粒子・原子核の実験では新しい技術を応用して実験装置を作ったり、装置を自分の手で組み立て動かしたりしてゆくという、理論計算とはまた異なった面白さがあります。また、新たな実験装置のための基礎技術は実社会での応用に貢献していると思います。そして、自分が立てた仮説に対して実験結果という形で自然が答えてくれる瞬間が実験物理の醍醐味です。

「構造物性物理学」下村 晋 研究室

物性が大きく変化する相転移から物質の本質に迫る

物質の性質をミクロな結晶構造の視点から解き明かす「構造物性物理学」が私の専門分野です。結晶は原子や分子が規則正しく並んで結晶構造を形成していますが、その結晶構造の変化をX線回析・散乱実験により調べています。実験は大学の実験室だけでなく放射光施設(Photon FactoryやSPring-8)でも行っています。放射光施設では、物質の動的な性質や磁気的な性質を調べたり、新たな実験手法の開拓を行ったりもしています。実験を通して物質の性質の謎に迫ることができたときが心躍る瞬間です。
私が特に興味を持って研究しているのが「相転移」です。相転移は物質内で起こる「革命」とも言える現象です。身近な相転移の例として、水が氷になったり水蒸気になったりする現象があります。このような、液体が固体になったり気体になったりする相転移のほかに、固体の中で起こる相転移もあります。例えば、超伝導状態が現れるのも相転移の一種です。また、磁気的な性質や電気的な性質が劇的に変わる相転移もあります。相転移は基礎科学的な興味の対象となっているだけでなく応用上も極めて重要な現象です。
物性物理学は現在でも実験・理論の両面から発展し続けており、その知見はさまざまな分野に応用されています。このことから、物性物理学を学ぶことは幅の広い進路選択につながるといえるでしょう。

「地球温暖化抑制に貢献する再生可能エネルギー研究」大森 隆 研究室

電気化学的手法で地球温暖化の抑制に挑む

私の研究テーマは、電気化学的な理論・技術を用いた地球温暖化を抑制するためのエネルギー技術の開発・発展です。研究対象のメインは次世代エネルギーである水素です。
具体的には、再生可能エネルギー、特に太陽光由来の電力を活用した水電解による水素製造の研究をしています。また水素の貯蔵法の開発にも着手。その1つとして、水素を吸蔵・放出できる水素吸蔵合金の製造・評価を行っています。研究の1つのゴールは分散型水素製造システムの実現です。再生可能エネルギーを用いた水電解による水素製造を各地で行うことで、大規模集中型の火力発電や原子力発電とは異なるエネルギー形態を生み出したいと考えています。
さらに、CO2を有効活用するための研究にも取り組んでいます。CO2を電気化学的に還元すると、いろいろな工業原料の出発物質である一酸化炭素と水素が生成できます。また、「金」はあらゆる金属の中で最も電力を必要とせずにCO2を還元できることが分かっています。このメカニズムを解き明かし、金以外の代替材料を見つけることで、省エネルギーかつ低コストでCO2から一酸化炭素と水素を生成する方法の確立を目指しています。
加えて近年では、宇宙物理・気象学科の先生と一緒に「人工的な気候改変技術によって地球を冷やす」という新たな視点での研究(ジオエンジニアリング)にも挑戦しています。
学生の皆さんには、私が行う分散型水素製造システムの開発に向けた研究、CO2の電気化学的な還元に関する研究、ジオエンジニアリングの研究に参加してもらっています。環境問題の中でも最重要課題である地球温暖化の解決に向けて、多彩な切り口から取り組める研究室です。

「物質のNMR研究」伊藤 豊 研究室

物質のなかに広がるミクロな世界を見渡す。

スピンとは素粒子の自転のことで磁石の働きを持ちます。電子も原子核も小さな磁石であり、そのスピンが電波を共鳴吸収するのが核磁気共鳴NMR。水分子の陽子スピンの共鳴を使う人体の断層写真技術MRIと同じ原理を用いて、物質の原子スケールの微視的な電子状態、特にスピンの時空間相関を研究しています。
対象は、超伝導体、半導体、磁性体などセラミックスから金属まで幅広く扱っています。超伝導になりそうな磁石や半導体のちょっと変わった性質をNMR独自の観点から実験しています。私自身、素粒子・原子核・宇宙の分野にも興味を持っており、星間物質などにも研究室の守備範囲を広げようと思っています。

「統計力学」齊藤 国靖 研究室

数多くの粒子の集団的な運動や物性を解き明かす学問です。
近年、粉体・コロイド・泡など身の回りにある粒子の統計力学が注目され、絶えずエネルギーが出入りする「非平衡状態」の研究が盛んに行われています。
この研究室で取り組んでいるテーマの1つは、身の回りにある粒子の振動状態の解析です。例えば、数十万、数百万の粒子の振動はどのように説明できるか。これを理論計算と数値シミュレーションで導きます。
こうした理論・数値研究のメリットは応用の幅が広いこと。抽象的なモデル化ができるので、さまざまな粒子に対応可能です。山の斜面の土砂崩れや、食品・薬品の製造工程をシミュレートするなど、防災から産業まで、活用できる分野はいくらでもあります。
これら「非平衡物理」の研究はまだ新しい分野であり、だからこそ今までにない研究を学生と進めていけたらと思います。

「ソフトマター物理学」岩下 靖孝 研究室

物理学には「物の性質」を探究する“物性物理学”という分野があります。普段よく見聞きする「気体・液体・固体」という物質の三態は、実は非常に曖昧なもの。物性物理学ではさらに複雑な物質や状態に踏み込みます。中でも研究が盛んな分野の一つが「ソフトマター」です。難しくいえば「液体と固体の性質を併せ持つ柔らかい物体」ですが、実際には液晶からゼリーまで日常の中に広く存在する物質でもあります。
ソフトマター物理学では「中間のサイズの構造」が重要な役割を果たしています。分子・原子の「ミクロ領域」と、われわれが目で認識できる「マクロ領域」の中間を「メゾスコピック領域」といいますが、物質の中にあるこの領域のサイズの構造がソフトマターの性質を特徴づけているのです。私の研究室では微粒子を手掛かりに、新たなソフトマターを生み出す研究を行っています。特に今、注目しているのが「砂」です。具体的には「せっけんのような性質を持った新しい砂」をつくることができないか、試行錯誤をしているところです。
そもそもせっけんでは界面活性剤という、水分子と油分子がくっついたような性質を持つ分子が油を包み、水に溶かし込んでいますが、同様のものが砂でつくれないかと考えています。研究が進めば、原油が流失した海にまいて海水と分離させることができたり、地震による地盤液状化現象の防止に役立つようなものができるかもしれません。原子や分子と違い、物質を構成する単位を自在に制御できる利点を生かし、新たな物質をつくり出せるこがこの分野の醍醐味だと思います。

「ハドロンおよびハドロン多体系に関する理論研究」物理科学科 山縣 淳子 研究室

「質量」の真理に挑みます。

世界で最も小さい単位「クォーク」が結び付いたものが「ハドロン」です。このハドロンに働く強い力が、物質の「質量」に関わっていると言われています。
「質量とは何か?」ーーその問いが私の研究の中心にあります。例えば、同じ個数の原子でつくったアルミニウムと鉄の塊は、体積がほとんど同じなのに質量が倍も違う。何が質量を生み出しているのでしょうか。
そのヒントは、原子よりもミクロの世界、原子核の中に分け入ると見えてきます。原子核は原子の質量の99.9%以上を担っていて、その内部は超高密度の状態。原子核は陽子と中性子からできていて、さらに陽子と中性子は素粒子「クォーク」からできています。
ところが、陽子の持つ3つのクォークの質量を全部足しても、陽子の質量の1%にもなりません。陽子の質量(ひいては身の回りの物質の質量)の残り99%は、実は陽子・中性子の中でクォーク同士をくっつける「強い力」にあると考えられています。強い力は、自然界に存在する4つの力の1つで、残りは「電磁気力」「重力」「弱い力」があります。従って、強い力の解明こそが「質量の謎」に迫る鍵になるのです。
私が研究しているのは、陽子や中間子など、クォークからできている粒子「ハドロン」です。ハドロンが原子核に飛び込んだとき、原子核とハドロンの間にどんな力が働いているのか。これを理論的に調べ、また理論研究の立場から実験の提案をしています。例えば、茨城県の大強度陽子加速器施設(J-PARC)では、炭素原子核に反K中間子をぶつける実験を行っていて、私はその理論解析を進めています。
目的は、理論的に予想されている反K中間子と原子核の間の強い引力を検証することです。反K中間子は宇宙に浮かぶ半径10kmの原子核「中性子星」の内部にも出現すると考えられているので、中性子星内部の状態を再現することにもつながります。

「f電子系化合物 の電子構造の 理論的研究」物理科学科 山上 浩志 研究室

宝探しのような研究です。

ランタノイド系列(原子番号57から71の元素の総称)やアクチノイド系列(原子番号89 から103 の元素の総称)の物性の研究をしています。周期律表を思い浮かべてください。周期律表は、後ろに出てくる元素ほど重くなる傾向にあります。ウランやプルトニウムなどはアクチノイド系列に含まれ、重元素といいます。
日本原子力研究開発機構、京都産業大学、東北大学、大阪大学が共同で研究を行い、世界で初めてプルトニウム化合物のフェルミ面の観測に成功しました。私が担当したのは「相対論的バンド理論」によるフェルミ面の実験結果の解釈。プルトニウムを構成している5f電子が結晶中を動き回っていることを直接示すことができた、という成果になります。
また、大型放射光施設「SPring-8」の放射光を用いて、ウラン化合物の5f電子状態の直接観測にも成功しました。バンド構造とフェルミ面を観測したのですが、これにより電子状態における統一的な理解が一気に進展し、長年の謎であったウラン化合物の超伝導構造の解明が進むと注目されています。
私はウラン、プルトニウムなどのアクチノイド化合物の電子構造と磁性に関する理論的研究を行っていますが、その基本にあるのは、これからのエネルギー問題です。原子力を安全に活用するためには、重元素化合物の性質を徹底的に解明することが重要です。ウランやプルトニウムについての基礎研究はまだまだ不十分で、分からないことがたくさんあります。また、将来の廃炉に向けた材料研究も重要です。
「SPring-8」は兵庫県にある巨大な大型放射光施設。日本国内で非密封の放射性物質を光電子分光法で測れる唯一の施設です。
提供:国立研究開発法人理化学研究所
現在、私は日本原子力研究開発機構の放射光先端物質電子構造研究グループのリーダーを務めています。私自身の研究は理論ですが、SPring-8 の施設を使い、グループでは実験も行っています。私の研究室では、こうした実験をする機会もありますし、大型計算機を駆使して理論研究をしてもらってもいい。
世界を変える可能性がある、宝探しのような研究ができる研究室です。そういうところに興味を感じたら訪ねてきてほしいですね。

「計算物質科学・ナノサイエンス」物理科学科 内田 和之 研究室

電磁気学の常識「V=I R」が通用しない
ナノサイエンスの不思議に迫る

炭素がサッカーボール状に組み合わさったフラーレンや筒状のカーボンナノチューブなどナノスケールの物質は、マクロスケールの物質とは異なる興味深い性質を示します。中高時代に学んだ電磁気学、例えばV=I R(電圧=電流×抵抗)は、ミクロやナノの世界では通用しないのです。電気の流れる速さや滞留は、原子構造をほんの少し変えただけで劇的に変化します。その性質がどのような理由で現れるのかを量子力学を通して明らかにすることを目指しています。

「単層カーボンナノチューブの 作成・分離・生成とその応用」 物理科学科 鈴木 信三 研究室

微小な最先端マテリアル、単層カーボンナノチューブの正体を探り可能性に挑む

未知なる素材に対する2つのアプローチ
研究室において現在、4年次生と取組んでいるテーマは、(1)金属的/半導体的な性質を持つ単層カーボンナノチューブの作製、分離精製及び濃縮、(2) 多孔質ガラス上への単層カーボンナノチューブの作製と応用の2つです。カーボンナノチューブとは、炭素原子が六角形の網目ネットワーク構造を作り筒状になった炭素ナノ構造体であり、直径は1~数nm(1nmは1mの10⁹ 分の1)、長さは数百nm~数μm(1μmは1mの10⁶ 分の1)のものが一般的です。

作製から取組んでこそ明らかになる真実
研究テーマ(1)では、さまざまな太さやねじれ方のカーボンナノチューブが存在する理由について、学生が自らの手で作製、分離精製、濃縮まで行うことで理解しようとするもの。現在、多くの研究室が市販のカーボンナノチューブを実験などに利用していますが、どういった条件のもとに作られたのかが明らかでないと、結果の信憑性が疑われます。カーボンナノチューブを研究室内で作製することには、それを利用した実験結果の信頼度を高める狙いもあるのです。

高品位ディスプレイの実現の可能性
(2)の研究は、イメージとしては微小な穴の空いたガラス板の上にカーボンナノチューブを生やす試みです。これが成功すると全ての光を吸収する完全黒体の作製につながる可能性もあります。また輝度の高いディスプレイや熱伝導に優れた放熱板に応用できるかもしれないと期待しています。これらを研究する醍醐味は、学生自らがモノを作る喜びです。パソコンでのシミュレーションに終始せず、自分でモノを作る喜びは何物にも代え難いものです。また、いずれの研究も物理的だけでなく化学的な手法も利用して進めていきます。物理や数学の基礎を身につけた学生が化学にも興味を持ち意欲的な学びに結びつけていけば、研究者としての将来に役立つ財産となるはずです。
カーボンナノチューブの作製から分離精製、濃縮までを行うことで理解が深まる
変化の様子を肉眼で観察できるのも、この研究の醍醐味
カーボンナノチューブ(単層、先端が閉じたもの)の模型
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