Pick up 研究室(数理科学科)

「多重ゼータ値の研究」田中 立志 研究室

ゼータと木をテーマにした数学の基礎研究

田中研究室の主たるテーマは数論です。学部生の間は、リーマンのゼータ関数やベルヌーイ数を学ぶケースが多いですが、ほかにも初等整数論、超越数論、保型形式、数え上げ組合せ論などをテキスト(※)に沿って学ぶことがあります。⼤学院⽣になると、荒川恒男 & ⾦⼦昌信『多重ゼータ値⼊門』を読破した後で徐々に本格的な「研究」へとシフトしていきます。⽥中研究室で修⼠号を取得した⼈は2023年6⽉現在で4⼈います。それぞれ優れた研究成果を挙げてくれました(※)
私自身の専らの研究テーマは多重ゼータ値の代数的理論です。リーマンゼータ値とは、リーマンゼータ関数の整数点での値のことで、正の整数のべき乗の逆数の無限和などのことを言います。1+1/2+1/3+1/4+1/5+…=∞、1+1/4+1/9+1/16+1/25+…=π^2/6、などです。このリーマンゼータ値を「多重化」と言われる一般化をしたものが多重ゼータ値です。かの有名なEuler(1707ー1783)も2重ゼータ値を研究していましたが、計算機が発達したのち、1990年頃から多重ゼータ値はとても盛んに調べられるようになりました。近年では、多重ゼータ値の研究は多様な広がりと奥深さを見せています。かく言う私も2017年ドイツに研究滞在している間に、多重ゼータ値と密接に関係する根付き木写像というものを新たに見つけました。学部生や大学院生のみなさんが多重ゼータ値や根付き木写像やその周辺分野に興味を抱き、その宝探しのような研究に参⼊してくれると嬉しく思います。

※ゼミで過去に使用したテキスト

  • J.H. Silverman『A Friendly Introduction to Number Theory』
  • J.P. Serre『数論講義』
  • 荒川恒男、伊吹山知義、金子昌信『ベルヌーイ数とゼータ関数』
  • 成嶋弘『数え上げ組合せ論入門』
  • 塩川宇賢『無理数と超越数』
  • 小島定吉『離散構造』
  • 高木貞治『初等整数論講義』
  • Henrik Bachmann『Multiple zeta values and modular forms』

※修士論文のタイトル

  • 『Wordの組み合わせ論的性質に関する研究』
  • 『双対公式導出問題とq-多重ゼータ値の積分表示について』
  • 『多重ゼータ値の山本積分の代数的解釈, およびt-多重L値の定義と代数的定式化』
  • 『多重ゼータ値の関係式の根付き木写像を用いた解釈と考察』

「曲線や曲面の構造研究」緒方 勇太 研究室

曲線・曲面の構造や構成法を解明し、ものづくりに応用

私は微分幾何学が専門で、曲線や曲面など曲がったものの数学的な解析を行っています。微分幾何学を用いた曲線・曲面の研究では、それらのパラメータ表示を用いて、微分方程式を導出したり解いたりすることで、曲線・曲面の構造や構成法について明らかにしていきます。曲線・曲面の研究の有名な応用例の1つが高速道路の設計です。「曲率」という曲線の曲がり具合を考えることで、事故が起こりにくい高速道路の構造を導き出せることが知られています。
また、私は燃料電池や半導体デバイスなどに用いられるカーボンナノチューブを対象にした共同研究にも参加しています。カーボンナノチューブは炭素で構成された非常に小さなチューブ状の物質で、その中に存在する曲線や曲面の構造を微分幾何学的に明らかにしようと試みています。このように、建築や材料化学など多彩な分野の方々と共同して、ものづくりに応用できる可能性を持っているのが曲線や曲面の研究です。
近年、曲線・曲面の研究で欠かせないのがパソコンでの3D描画です。手描きだけで解析するのが難しい曲面を3D描画することで、数式だけでは理解するのが難しい複雑な構造を視覚的に理解でき、研究の糸口が見つかります。そのため研究室の学生にも、Python(パイソン)やMathematica(マセマティカ)というプログラミングを使った研究テーマに取り組んでもらい、実践的に学んでもらっています。

「確率論」難波 隆弥 研究室

ランダムウォークの性質が極限定理に与える影響について

私の専門分野は確率論で、中でも大学院在籍時代から強く興味を惹かれているのが「ランダムウォーク」と呼ばれる対象です。 多くの人がイメージしやすい「コイントスにおける裏と表が出る確率」を例に解説すると、理論上では表、裏が出る回数の比は1:1となるはずですが、実際に数百回コイントスを繰り返してみると、表、裏が出る回数の比は1:1とならず、バラつきが生じます。この結果を表が出たらプラス1、裏が出たらマイナス1のように数値化して数直線上にまとめると、ランダムな軌跡が観測されます。これはランダムウォークの典型例の1つです。興味深いことに、ランダムウォークを長時間眺め続けると何らかの法則性が垣間見えることがあるのですが、私はそのような法則を見出す研究を続けています。ランダムウォークの極限には興味深い法則が現れるはずだという確率論の思想に則り、ランダムウォークを考える環境や条件をどんどん取り替えてより複雑な検証を行い、「極限定理」の秘密に迫りたいと考えています。こうした研究の先には、幅広い分野への応用が開かれます。例えば、ランダムウォークに加えて確率微分方程式と呼ばれる概念を知れば、株価の変動を詳しく調べることができ、経済学や金融工学、数理ファイナンス等の分野の発展に深く寄与する学びが得られます。

「パターン形成の数理解析」西 慧 研究室

「雪の結晶」や「動物の模様」を数式で描いたら

雪の結晶や木の枝分かれ、動物や魚の体表パターンなど、模様や形が自然と生まれることを不思議に思ったことはありませんか?
こういった時間変化する現象の多くは微分方程式で書かれ、その解として模様や形が表現されます。つまり、方程式や解の性質を調べることで、模様や形の背後にある “数学的な仕組み” を明らかにできるのです。
現象に応じて様々な方程式がありますが、特に自然界で見られるパターン形成のモデルとして幅広く利用されているのが「反応拡散方程式」。
計算機の父として知られるアラン・チューリングによって提唱され、以来、斑点や縞模様、枝分かれのようなパターンから、進行波やスパイラル、時空間カオスといったダイナミックに変化するものまで、実に多くのパターンが現れることが分かっています。
その中で特に注目しているのが、パルスやスポットのように空間的に局在化したパターン。数値シミュレーションでは自発的に動き回る様子がみられますが、複数個が集まったり環境からの影響を取り入れたりすることで、生き物のように多彩な振る舞いを見せます。
そのメカニズムを調べるため、力学系理論の観点からその数理構造を調べています。数学的な理解が深まれば、目で見ている複雑な現象の本質や一見異なる現象の共通点も見えてきて、また新たな現象を予見することも可能になります。

「代数学とその応用」村瀬 篤 研究室

暗号技術を支える数学界の女王・整数論を追究

素数とは「2」「3」「5」など、「1」と「その数自身(2なら2)」でしか割り切れない数を指します。つまり、それ以上は分解することができない整数の元素。整数や素数の性質とはどんなものか、それを支配するのはどんな法則なのか。これらを研究するのが「整数論」と呼ばれる分野で、理論の美しさや純粋さなどから“数学の女王”とも呼ばれています。
「数とは何か?」を理解するためには、数を構成する素数の性質について考えることから始まります。例えば「素数は無限に存在する」ことはユークリッドの『幾何学原論』にも記されていますが、「どの程度あるのか?」という問いに対する答えは見つかっていません。さらに「双子素数と呼ばれるペア素数も無限に存在するのか?」「ゼータ関数に対するリーマン予想は正しいか?」など、この分野には解明されていない難問がいくつもあります。どんなに計算を積み重ねても途中で予期しない変化が表れることは多々あり、数に宿る規則性を正確に捉えるのは容易ではないのです。
これだけ聞くと難問だらけに思えますが、それだけ挑み甲斐がある分野ともいえます。大規模な研究プロジェクトまで立ち上がっているメルセンヌ素数は、何万桁にもなる大きな素数を発見する手段として有効で暗号技術と深い関係があります。純粋数学としての面白さはもちろん、社会貢献にもつながる非常に革新的な分野なのです。

「リーマン面の変形理論」志賀 啓成 研究室

変化に富むリーマン面を多角的に考察する。

高校までに習う関数のグラフを思い浮かべてください。たとえば「x2+y2=1」のグラフは円ですが、このx、yを「複素数」に置き換えたグラフが「リーマン面」です。複素数は、1や2といった「実数」と2乗すると0未満になる「虚数」を組み合わせたもので、「リーマン面」は本来は四次元空間でしか描けないグラフになります。
複素数を用いて数式のグラフを描いてドーナツを2つつなげたようなリーマン面を作ることができます。その数式の係数を変化させると、形はドーナツを2つつなげた同じようなものでも物性が異なるもの、リーマン面でいうと解析的性質が違うものが観察されます。数式を変えるとどんな性質を持ったリーマン面に変わるのか、その間にはどのくらいの「距離」があるのか、それはどういった意味を持つのか……頭のなかに膨大な数式とリーマン面を描いて考えを巡らせながら、リーマン面を多方向から考察します。多様な性質を持つリーマン面を追究することは、宇宙の果てに思いを馳せるようなもの。果てしない試行錯誤と探求は純粋数学の真の面白さと言えます。

「確率解析」重川 一郎 研究室

ランダムのなかにも実は法則性がある? 証明する“カギ”を求めて。

テーマは、ランダムな事象の中に法則性を見いだす「確率論」。なかでも「確率過程」に注目した研究を行っています。
確率過程とは時間とともに変化していく確率のことです。代表的な例でいえば、コインの表が出たら前に進み、裏が出たら後ろへ進むランダムウォーク。これを長い時間をかけて見ると結局スタート地点に戻っているケースが多いのです。このように、一見ランダムに見える事象の中にも長い時間をかけることで一種の法則性が見えてくるものがあります。
この研究室では、その法則性を探し出すために「半群」や「生成作用素」といった数学的ツールを用いてさまざまな事象を解析していきます。関係ないように思えるツールでも、実は密接に関連していることは多々あります。新しい扉を開く“カギ”を探し続けるような感覚で、カチッとはまった時の喜びはこのうえないもの。応用すれば株価の分析などにも役に立ちます。
高校で習う微分・積分も生かすことができるので、数学を応用して何かを成し遂げたい人にはおすすめの学問です。

「可換環論、環の表現論」中嶋 祐介 研究室

宇宙の謎も解き明かす? 環論で特異点の性質に迫る。

「環」と呼ばれる特別な集合について研究しています。環とは足し算・引き算・掛け算ができる集合のことで、たとえば整数全体の集合や、多項式全体の集合がこれに当てはまります。
この研究室では、環の性質を知ることからスタートします。そして環論をベースに、基本的な研究対象となる多項式を使ってさまざまな計算を試し、「この方程式からどんな図形が現れるか」「その図形はどんな性質なのか」を考えていきます。たとえば私が注目している「特異点」はその試行錯誤のなかで現れる対象の1つです。特異点とは図形上の尖ったり交わったりしている部分のことで、いわば“図形のアイデンティティ”。図形の性質を知るうえで避けて通れないものです。この特異点を理解するために、対称式や不変式といったさまざまな多項式への理解を深めていきます。
「ブラックホールも宇宙の特異点」といわれるように、特異点について突き詰めていくと宇宙の成り立ちに関する研究にも応用できる可能性があります。さらに、環論だけでなく表現論や組み合わせ論といった他の分野ともつながっていくところに面白さがあります。見た目が全く違うものでも数学的な性質をひも解いていくと、実は同じ構造をしていることもある。そんな発見に出会えたら「数学って楽しい!」と感じてもらえるはずです。

「数学教育・数学教員の養成」長瀬 睦裕 研究室

数学をいかに教えるか」を考える数学教育学が研究テーマです。
2022年度から高校で導入される「探究型授業」は生徒自身が主体的に課題を見つけ、解決策を導くというもの。数学であれば新しい定理を発見し、その証明に挑戦します。
また、身の回りにあるささいな疑問から社会問題までを、数学を道具として用い、解決の糸口を探ります。
とはいえこうした学びは高校生にとってハードルが高く、サポートする教員側も試行錯誤しながら指導するしかありません。
そこで研究室では次世代の教員養成を目指し、学生が「探究型授業」に挑戦。あわせて専用の教材開発にも取り組みます。
テーマ決めから手法のヒントまで、生徒を導くために必要なことは何か。教師と生徒、両方の視点を持てる大学生の立場だからこそ、「探究型授業」に新しいアプローチを取り入れることもできると思います。
この研究室での実践的な学びを通して、一緒に未来の授業の在り方を考えていきましょう。

「微分方程式と変分法」渡辺 達也 研究室

「なぜこんな形をしているのか」「なぜこのような現象が起こるのか」。世の中のさまざまな現象にまつわる疑問は、実は数学を使って説明することができます。私の研究室では、微分方程式を用いて、身近な現象を数学的に解析していきます。
方程式といえば、一般的に未知の“数”を解として求めるものですが、微分方程式では“関数”を求めます。状態は変化を伴い、関数で表されるので、微分方程式を解くことで、現象が「どのように変化するか」が見えてきます。
例えば、やかんを火にかけるとどのくらいの速さで熱が伝わるかといった熱伝導や、物体が落下するときの空気中の抵抗力、感染者数や実効再生産数からウイルスの広がり方を算出するなど、おそらく皆さんが想像されるよりずっと身近なところで微分方程式を活用できます。
さらに「変分法」を用いて、微分方程式の解の存在や安定性を示す試みにも挑戦していきます。変分法とは、汎関数(関数の関数)を最大・最小化する手法であり、微分方程式を解くために有効なツールの一つです。変分問題に書き換えることで、これまで解けなかった微分方程式の解を導き出すことができ、より複雑な現象を解析することが可能になります。
大学で学ぶ数学は、「限られた時間で正しい答を求める」ことを目的とする高校までの数学とはひと味違う面白さがあります。真剣に取り組めば、数学に関心を寄せるみなさんが、これまで積み上げてきた学びの一つのゴールとなるはずです。方程式を解いた先には何があるのか——。
一緒にその答えを探しましょう。

「結び目理論」数理科学科 山田 修司 研究室

「不思議だな」と思える人は、数学に向いています。

私の専門は「結び目理論」というものです。これは位相幾何学(トポロジー)の一種で、ひもの結び目を数学的に表現し、研究する学問です。現代数学の中では、非常に珍しい「対象が目に見える」ものなので、学生もなじみやすいのではないかと思います。
例えば、この分野のわかりやすいモデルとしてよく挙げられる「ボロミアン環」は3つの輪による結び目です。3つ絡むとしっかりとつながれるのに、1つでも抜けたらほかの2つは離れてしまう。これ以外にも、8の字に結んだり、水引のように結んだり、ひもの結び方はいろいろあります。
結び目理論というのは「この結び目とその結び目は同じものか?」を証明する学問です。ひもを曲げたり動かしたりすると、結び目の形は変わります。しかし、どんなに形が変わっても同じ結び目である、これはほどけないと証明するのは、実は非常に難しいことなのです。なぜなら「できないこと」を証明しなくてはならないからです。
そのため、結び目理論では「これができたとすると矛盾が起きる」ことを証明していきます。結び目の形を数値化したものを不変量といいますが、その不変量をできるだけたくさん用意していくことによって、不可能を証明する。
結び目理論の代表例「ボロミアン環」。3つの輪を組み合わせたもので、イタリア・ボロミアン家の家紋から名が付いた。
「なぜそんなことを研究しているの?」と思われるかもしれません。結び目理論はゲノム解析に用いられるなど実学への応用もできるのですが、研究の動機自体は、シンプルに「面白いから」です。例えばオイラーの多面体定理というものがあります。紙にさいころのような正六面体を描いて、その頂点と辺と面を数えてみてください。正六面体なら頂点が8、辺が12、面が6。これで「点の数−線の数+面の数」を計算すると、必ず「2」になります。 同様に八面体や三角すいでも、この計算に当てはめると解は必ず「2」になります。不思議でしょう? これを実際に手を動かしてやってみて、頭の中に「なぜ?」がたくさん浮かぶ人は、数学に向いています。不思議だと思うから解明しようという気持ちになるのです。そんな人は、私の研究室に来てほしい。もっと数学を楽しめるステージを用意しますから。

「数理ファイナンス」数理科学科 伊藤 悠 研究室

ランダムな現象を記述する微分方程式
〜ラフパス解析の視点から〜

私が研究しているラフパス解析は、滑らかさの度合いの小さな関数に関する微積分学の理論で、確率微分方程式と呼ばれるものにその起源を持ちます。大雑把にいうと、微分方程式とは、未知関数とその導関数および独立変数を含む方程式といえ、確率微分方程式とは、ランダムなゆらぎが加わった微分方程式といえます。自然界の多くの現象には様々な形でランダムなゆらぎが入っています。その典型例はブラウン運動と呼ばれるランダムな粒子の動きに由来するもので、このようなランダム性は、確率論の言語によって定式化され、数学もしくはもっと広く数理科学の研究対象となります。確率微分方程式の理論はランダムな現象を解析するための強力な手法を提供し、統計学、物理学、生物学、工学、経済学などといった諸分野にも応用されていますが、ラフパス解析は従来の確率微分方程式の理論に新たな視点を与え、従来の理論では解析できなかったような対象にまで応用範囲が拡がり更なる発展が期待されています。
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