優秀賞

「持たない暮らし」

外国語学部言語学科 4年次生 金村 弘之

審査員講評

 自分自身の小学校以来、現在に至るまでの具体的な経験をもとにして、物に捕われずに、人との「共有」を中心とした生活を若者らしく生き生きと描いている。しかも、その過程を通して、自身がどのように変化し、成長してきたかを押え、主題の「省エネ」の本質を捉えている。大切なことは身近なところ、その地域共同体、人と人との繋りの中から心を共にして「持たない暮らし」を目標にし、自己の主体性を保ち、生きていく流儀、姿勢を保つことである。「断捨離」という今の流行語も使っているが、それよりか「必要なものを必要なだけ」という心構えである。孤立せず、独善に陥らず、人と調和しながら落ち着いた生活ぶりがされている。文章はこなれて、構成も整っている。なお、段落はこれでよいが、一行を空けてはいけない。また、口語的表現は避け、重みのある文章を目指してほしい。

作品内容

「持たない暮らし」金村 弘之

 我々の身の周りにはモノが溢れかえっている。国の発展と共にモノは増え続け、本当に無くてはならないものはわずかではないだろうか。不必要な物を背負い過ぎてしまっているような気がする。瞬く間に誕生する新商品や驚くほどの新機能は、不便知らずの私たちにとって一瞬の刺激に過ぎない。これからは増えすぎたモノを減らし、「共有」していく時代である。
 私のような若者がこういったことを言うと、年配の方は首をかしげるかもしれない。「お前のような年代は大きな欲望を抱え、何でも手に入れようとする時期だ。」と。しかし、豊かな時代に育った私にとって欲望の矛先は大きく異なる。その欲望はモノを通じた「人との繋がり」であり、「共有」である。これには私の幼い頃の経験が大きく影響している。私が幼年期を過ごした田舎街は地域と共に家庭があり、子供は地域全体で育てるというスタイルであった。小学校入学時には隣のお兄さんの体操服のお下がりをもらい、それをまた近所の子供が使うというリユースが当たり前であった。冠婚葬祭の際には、近所で必要なものを持ちよりそれで済ませる。幼いながら「無駄のないシステムだな」と感じていた。また、そのような体操服を着ることで、守られているような気がして、私は少し嬉しかった。私の家は、中学入学と同時に市内の新興住宅地に引っ越した。かつてのような香ばしい街並みではなく、新築が立ち並び、どの家庭も共働きであった。それまで当たり前にあった地域の助け合いやお付き合いなどはほとんどなく、以前のような「共有」はひとつも存在しなかった。サイズの合わなくなった洋服も、近所の子供に渡ることもなくクローゼットに溜まっていき、行き場を失った遊具はガレージの隅で埃を被っていった。快適な住宅だけれど、だんだん物に囲まれてゆく生活に私はどこか違うような気がしていた。
 大学生になった現在、私が実践している省エネ活動は、「持たない暮らし」、いわゆる「断捨離」である。必要なものだけを必要な分だけ購入し、不要になればリサイクルショップや友人に譲る。めったに使わないものが必要になった時は、知り合いの私物を借りる。こうすることで、無駄なゴミを出すことなく出費も抑えられ、地球にも財布にも優しい、とても基本的なエコライフを実現できるのである。私はこの言葉を意識して以来、下宿しているアパートの荷物を本当に必要なものだけを最小限に保つようにした。まず、クローゼットを開け、洋服を処分した。2年以上着ていないものが40着ほどあり、そのうち半分は後輩に譲り、残りは下取りに出した。その後も、本棚、キッチンなどあらゆる所にある不要なものを友人に譲り、行くあてのないものは処分を決め、私の部屋はかつてないほどすっきりしたものになった。不要になったモノを人にもらってもらい、喜ばれることはとてもすっきりとした嬉しさがある。幼い頃に当たり前に行っていたことが、今改めて実践されたのである。
 「断捨離」を始めてしばらくすると、私は自分自身のある変化に気が付いた。物欲が無くなったのである。それまでの私は、衣服やインテリアなど凝りに凝っており、とにかく物欲が絶えなかった。しかし、シンプルライフを開始して以来「これは本当に必要なのか」「自分の身の丈に合ったモノなのか」と自問自答するようになった。ブランドや流行ではなく、本当に自分自身が必要で、長く使えるものにしか興味が向かなくなった。これは私にとって大きな変化であり、良い傾向であった。また、心にも大きな変化があった。私は自他共に認める完全主義者であり、人間関係や日々の生活に思い悩むことが多かった。全ての物事がうまく運ばれていなければ、不安になってしまう。何事も中途半端に済ますことができず、自分のキャパシティーを超えてしまうこともしばしばあった。しかし、今ではすべてのことが「まあ、良いか。」で全て片づけられるのである。今では毎日が本当に身軽である。これは、単に私がおめでたい人間になったわけではなく、脳の思考回路までもが、シンプルに働くようになったのだと思っている。このような私のライフスタイルは、日々のブログに画像と共に書きとめ、ネット上に公開した。話題のブログを発掘するブログランキングでは徐々に順位を上げ、遂に1位を獲得することができた。その後、学研社から出版される書籍に何度か私と私のライフスタイルが掲載されることとなった。このように、ブログや書籍によって私のライフスタイルが世の中に発信され、共感されることは非常に嬉しいことであった。しかし、ここまでは単なる自己満足にすぎない。私は今後、こうして得た「持たない暮らし」を究極の省エネとして世間に紹介、拡散していきたいのである。
 私の考える「持たない暮らし」の基本は「必要なものを必要な分だけ」、そして「共有」である。この「共有」ということは、この先の生活の中でとても大きなポイントになってくる。モノをシェアするということは、もちろん一定のルールやモラルも必要不可欠である。しかし、最も大切なことはその人どうしの間に信頼があるということである。世の中にシェアが広がれば、それだけ人と人の間に信頼が広がっているということである。人と人との繋がりから無駄のない快適なライフスタイルが実現できる。私はそのようなスマートライフを多くの人に共有し、拡大していきたいと思っている。

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