入賞

「私の心の支え」

経営学部 ソーシャル・マネジメント学科 2年次生 吉岡 知美

審査員講評

 一人のアーティストの作品が、人の心を変え、人生を変える力を持ちうるのだということが、ひしひしと伝わってくる作品でした。「です・ます」調で書くのは、比較的難しいのですが、吉岡さんの「きむ」や部員達に対する感謝、それから吉岡さん自身の優しい気持ちを伝えるのにふさわしい選択だったと思います。段落ごとの構成も、とてもうまくされていました。
 難を言えば、そこが「です・ます」調の難しいところなのですが、文末に同じような言い回しが続いたため、少しぎこちない印象を与えるところがありました。また、この文章の中で鍵となる、吉岡さんが部活や家庭の中でぶつかった問題についてもう少し丁寧に説明されていたら、より読者に訴えかけるものになっていたでしょう。

作品内容

「私の心の支え」吉岡 知美

 私が好きなアーティストは詩人・小説家であるきむです。きむは本名を木村行伸といい、現在まで「思い描く世界に」という作品集を始めとし、様々な作品を出版しています。私が今回の題材にきむを選んだ理由は辛かった時に私を救ってくれたのがきむの詩で、私に前向きさを与えてくれたからです。私と同じように、一人でも多くの人がきむの詩に出会い、勇気やパワーをもらうことができたらいいなと思い、ここに記そうと考えました。

 私がきむの詩に出会ったのは高校一年生の冬でした。高校時代、私は野球部に所属し、マネージャーをしていました。夏の暑い中、一日中グランドを駆け回る上に、力仕事も多く、過酷な状況でした。漫画やテレビのようにお茶を作っておしゃべりしていたらいいというマネージャーの姿はそこには全くありませんでした。平日は授業が終わったら一秒の時間ももったいないということで、更衣室まで走って行かなければならず、休日も一日中練習がありました。そして体育祭や文化祭といった学校行事にも満足に参加できる環境ではなく、もちろん女友達と遊ぶ時間もありませんでした。私と同期にマネージャーがいなかったということもあり、「この部員を支えられるのは私だけだ」という意識と、逃げ出したくないという負けず嫌いな性格だけが当時の私を支えていました。幸いなことに、部員との仲は良く、悩みを打ち明けることができるような関係の人もいました。

 しかしやはり限界がきたのです。自分たちがクラブに慣れたことと、仲良くなったことから、口調がきつくなりました。そして部員たちは自分でできることまで私に頼むようにもなり、私の存在って何だろうと疑問に思うようになりました。またその頃、家族との関係も良くなかった私は精神的に追い詰められ、「なぜこんな思いをしてまでここにいるのだろう」と、そんなことまで考えるようになりました。そしていくら部員達と仲が良くても、不満を言うほどの関係ではありませんでした。

 そんな時、学校帰りにふと立ち寄った雑貨屋さんでたまたま目に止まったのがきむの詩でした。ポストカードに写真が載せてあり、その上から詩が書かれているというタイプのものでした。そこには、恋愛ものから、友情、人生観など様々な種類の詩が自由に書かれていました。私は一瞬にしてきむの詩の虜になり、食い入るようにそのポストカードを眺めていました。その時私の中の何かが取り外され、気持ちがすごく楽になりました。詩が頭に焼き付けられ、私は家に帰っても忘れることができませんでした。

 きむの詩と出会ってしばらく経ち、私はいくつかの詩を集めだしていました。普段は机に大事にしまっておき、自分が辛くなると、その詩を見て勇気をもらうということが習慣になりました。その詩を見ると、「後ろを向くのではなく前向きに生きよう。私だけで悩んでいても仕方がない。自分の気持ちを伝えよう。」と考えられるようになっていったのです。そして私はきむの詩に勇気をもらい仲の良かった何人かの部員に今の心境を伝えました。野球部は大好きだけど体力的に辛いこと、最近の部員の態度についての不満、同期のマネージャーがおらず、居心地も悪いこと、家庭の問題、そして辞めるか迷っていること。部員はゆっくり頷きながら最後まで聞いてくれ、「お前はこの野球部に必要やから。一人やのに入ってここまで頑張ってくれて本当に感謝してる。」と言ってくれました。その瞬間迷っていたことがすごくちっぽけに、また、私の肩の荷がすっと降りたことを感じました。「本当に話して良かった。」そう感じた瞬間でした。私は結局最後までマネージャーを続け、何もやり残すことなく野球部を引退しました。一緒に汗を流し、一緒に笑いあい、悔しがり、涙を流した最高の仲間ができました。もし、きむの詩に出会っていなければ、私は途中で諦め、野球部を辞めていたかもしれません。部員に話すこともなかったかもしれません。部員たちと素晴らしい関係を築き上げることもできなかったと思います。その他にも、友達と喧嘩した時、彼氏とうまくいっていない時、様々な場面においてきむの詩は私を支えてくれました。きむの詩は私の高校生活において、なくてはならない存在でした。

 私と同じようにきむの詩に勇気づけられ、元気をもらったりした人はたくさんいると思います。今回、私の好きなアーティストというテーマを聞いた時、一番に思いついたのがきむでした。人を幸せにしたり、感動させたり、人の心を惹きつける力のある人は立派なアーティストであると思います。

 最後に今私が一番好きな詩を紹介します。「何かから逃げたってしょうがないよ 逃げた分だけ 逃げた時間だけ悔いになるだけで 絶対追いつかれるで 逃げずに立ち向かえ そして答えを見つけろ」です。嫌なことから目を背けてしまうことは誰にでもあると思います。でも、逃げたところで、その場凌ぎにしかなりません。私はこの詩のように嫌なことにも自分から立ち向かい、乗り越えて行きたい。そして、何事にも納得のいく答えを導き出したい。今でもきむの詩は私の元気の源なのです。これからも私のように少しでも多くの人の心にきむの詩が届けばいいなと思います。

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