サギタリウス賞

「水泳を通して出会った人へ・・・」

経営学部 経営学科 3年次生 木澤 瞳(きざわ ひとみ)

審査員講評

 3歳から17年続けている水泳を通じてのさまざまな出会いの記録である。そしてその出会いが、つねに著者の精神的成長にプラスに機能してきたことを感謝しようという気持ちが伝わってくる。高校時代に荒廃した水泳部を立て直すべく副キャプテンとして奮闘し、高校引退試合では個人・リレー・団体で優勝したこと、大学入学後水泳サークルのキャプテンの言葉で入部を決め、合宿最後の夜に先輩に生クリームパイを投げて感謝の気持ちを表したこと、などの様子が爽やかに描かれている。クラブやサークル離れが進んでいるといわれるなか、高校時代の水泳部や大学時代の水泳サークルなど部活動を通じて、集団のなかで個人として何をなすべきかを絶えず問い続けてきたことは、これからの職業生活においても大きな資産になると思う。これからも水泳が取り持つ縁を大切にしてほしい。

作品内容

「水泳を通して出会った人へ・・・」 木澤 瞳

 私は3歳からずっと水泳をやっている。今、20歳の私は水泳歴が17年だ。始めたきっかけは、兄が水泳をやっていたので、それに憧れるという簡単な理由が始まりであった。もちろん、中学・高校の部活は水泳部で、今は京都産業大学の水泳サークルに所属している。私の青春すべてが「水泳」なのだ。

 私は水泳を通じて、さまざまな人と出会ってきた。その中でも特に感謝をしたいのは、高校時代の水泳部の先輩・同期・後輩のみんなと、今の水泳サークルのみんなだ。水泳をずっと続けていて、楽しい思い出ばかりではない。辛くて、途中で何度も辞めようと思ったことがあったが、この人たちのおかげで今も水泳を続けられているといっても過言ではない。この人たちには「あきらめない力」、「仲間の大切さ」を教えてもらった。

 高校入学の頃、私はもちろん水泳部に入るつもりであった。しかし、私が入学した高校の当時の水泳部は廃部寸前であった。クラブの雰囲気は最悪なものだった。それは、練習を個人個人でやっていて、クラブの先輩後輩はもちろんのこと、同じ学年の仲間とのコミュニケーションが全くといって、なかった。まとまりがなかったのだ。ただみんなが自分の好きなペースでダラダラ泳いで、泳いだらさっさと帰るといったものだった。このような状態では全く面白くなく、部活自体を辞めようか悩んでいた。そんな中、練習メニューを自分で考えて泳ぐだけでは、飽きていたので先輩に思い切って一緒に練習をしても良いか尋ねてみた。もちろん、良い返事が返ってきた。それからは一緒に練習をすることになり、徐々に1つのメニューでみんなが泳ぐようになっていた。少しずつ部員同士のコミュニケーションが増え、練習の合間や、以前は練習後すぐ帰宅していたのだが、プールサイドで夕日が暮れるまで喋るようになった。

 その後、幹部交代となり、私は副キャプテンとなった。キャプテンと共に、さらにより良い部活にしようと、さまざまなことを試みた。たとえば、幽霊部員が多かったため、学校の廊下で会ったときなど、喋りかけたりして、その人が気軽に練習に来やすくした。私が1年生のときに1番寂しかったことは、仲間とのコミュニケーションが全くなかったことだった。だから、新しく入って来てくれた後輩には同じような想いをして欲しくなかった。そこで後輩が楽しめる雰囲気作りも、徹底的にキャプテンと共につくっていった。単に場を和ませたり、喋りかけることだけであったが、差は歴然であった。一生懸命、練習に励み、練習後はみんなで楽しく談話…というのが当たり前の部活にいつの間にかなっていた。

 私の高校引退試合のとき、個人・リレー・団体で優勝をした。私が入部したての頃はリレーも組めない人数だったために、リレーや団体で優勝など出来ないと思い込んでいた。それがまさか、自分の引退試合で実現して、とてもうれしかった。表彰式から帰って来た私よりも先に後輩が泣いて迎えてくれた姿は今でも忘れられない。そのときにもらった色紙は宝物だ。高校時代ほど、水泳を辞めようと思ったことはなかった。一生懸命泳いでも泳いでも、なかなか良い記録が出ず、泳いでいても楽しくはなかったからだ。しかし、あきらめずに続けて本当に良かったなと思っている。私は高校時代、アルバイトもやらず泳いでばかりの生活だった。周りの友達はバイトをし、お金もたくさんあったので、欲しい物を好きなだけ買ったり、たくさん遊びにも行けたりして、私はうらやましかった。しかし、私はそういう友達よりも貴重で今しか出来ない経験をしたと自信を持っている。このような経験を一緒にしたり、あきらめずに続けるという素晴らしさを教えてくれた、先輩やキャプテン、私を信じてついてきてくれた後輩に「感謝」を伝えたい。

 現在所属している水泳サークルのみんなにも感謝したい。先ほども述べたように私の高校時代の水泳生活は最高の形で幕を下ろした。このまま心の中に良い思い出としてしまっておきたかった。だから大学生では違うスポーツをしようと思って、たくさんのサークルに見学にいった。しかし、いまいちどれもピンとこず、やはり、水泳サークルが気になったので、イベントに参加してみた。当時のキャプテンに良くしてもらったが、違うスポーツがしたい!という思いも捨て切れなかった。だからどのサークルに入ろうか迷っていた。そんな中、水泳サークルのキャプテンに「キャプテンやから言うんじゃないよ。でも大学生活で何か1つ打ち込めるモノを持つべきだ。そのほうが充実するし、自分自身も成長出来るから。だからサークルに入ってみたら?」と言われた。初めから暖かく迎えてくれたキャプテンにこのようなことを言われ、とても感動した。この人についていこうと思った。悩んでいる背中をポンと押してくれた気がした。その後、私はすぐに水泳を続ける決心をしたのだ。

 このサークルで1番思い出があるのは、昨年の合宿だ。私たちの学年が幹事をした。幹事を自分たちでやるからには、みんなが合宿を楽しめるように、何度も幹事で集まり計画を練った。1秒も無駄にしないスケジュールを組んだ。このサークルは今年卒業をした先輩が作ってくれたもので、まだ歴史は浅い。その先輩たちは学生生活最後の合宿であり、最後の夏休みであった。最高の思い出に…と、普段の生活では味わえないイベント考えた。それは、合宿最後の夜に、その先輩たちを外へと連れ出した。プレゼントがあると言って、みんなに後ろを向いて立ってもらった。「せーの」の合図で振り返ってもらい、生クリームのパイを投げた。最初は先輩たちも訳が分からず固まっていたが、笑いが発生すると、そこから先輩たちの逆襲が始まった。気が付けば全員が生クリームだらけになっていた。そのとき、泣き出した先輩がいた。この先輩は、自分がサークルの幹部をやっていた頃、幹部ならではの悩みを抱えていた。いったんはサークルを離れたものの、この合宿には参加してくれた。途中で辞めかけたけど、このサークルの一員であることがうれしくて泣いていたのだ。その先輩の言葉に、生クリームを顔にたっぷりつけながら、みんな泣いていた。そして、この合宿は大成功に終わった。

 人と人との出会いは、何かの縁だとよく言われる。このサークルは水泳経験者もいれば、未経験者も多数いて、それはさまざまだ。このサークルでなければ出会わなかった人もいるのだなぁと思うと、これも何かの縁だと実感する。サークルに入るか入らないか迷っていた私を迎え入れてくれた、あのキャプテンには感謝してもしきれないと思う。この先輩は私が尊敬する人の1人である。

 そもそも先輩に対して生クリームのパイを投げるという行動は、先輩たちのことを好きでいなければ出来ないし、先輩たちも怒らずに受け入れてくれたのは私たちのことを好きでいてくれたからだと思う。相当な仲間意識がないと失敗に終わっていたと思う。何の根拠もないが、このサークルの仲間意識はとても高いと胸を張って言える。みんながこのサークルが大好きだ。そんなサークルを作り、このような仲間意識にしてくれた先輩たちの意志を継いで、今幹部として私はサークルを運営している。1人1人の気持ちが人の心を動かすことが可能で、それが仲間だと教えてもらった気がする。サークルのみんなに「感謝」している。

 私は今、3回生で就職活動の準備を始める時期だ。まずは仕事のミスマッチを防ぐために、自己分析を行う。今まで自分がどのようなことを思い、行動をしてきたかを振り返るものだ。自己分析をやっても、水泳のことばかり頭に浮かんでくる。それだけ私の今までの人生に水泳は欠かせないのだろう。今まで水泳を通じて出会った人、私に水泳を続けるチャンスをくれた人…この人たちと出会わなければ、今の私はいないのかもしれない。高校の水泳部のみんな、サークルのみんな、ありがとう。

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