サギタリウス賞

「親への手紙」

経営学部 経営学科 4年次生 尾野 清志(おの きよし)

審査員講評

 本学の「寮」は多数の学生が生活する「寝ぐら寮」ではなく、人間形成の場としての「教育寮」として位置づけられている。寮生活でめぐり会った友人や身についた社会性、キャプテンを務めたサークル活動、大学のイベント参加、実務体験のインターンシップ、異文化体験の留学生チューター等、さらには優秀な学業成績の取得と、誰からも羨ましく思われる充実した学生生活が看取されるが、筆者はそのような学生生活の実現に対する親への感謝は忘れない。追伸文は余計であるが、筆者を包む広い心を持った家族愛、筆者への慈愛に満ちた親心に対するストレートな心からの感謝の言葉が新鮮だ。

作品内容

「親への手紙」尾野 清志

 朝夕と昼間で寒暖の差が大きい今日この頃ですが体調はお変わりないでしょうか。

 大学のキャンパス内では木々も徐々に色づき始めキャンパス全体が賑やかな時期です。それと共に神山祭に向けて学生の顔にも賑やかさが映える季節です。

 今日は今まであまりゆっくりと話す事のできなかった私の大学生活を伝えたいと思います。私は大学生活で本当に多くの貴重な体験をさせて頂きました。その基になったのは寮生活でした。でもその寮生活を勧めてくれたのはお父さんでしたね。寮生活ではお父さんの言うように多くの人達と出会うことができたと思います。その中で協調性を身に付けたことや視野の広がりがあったことは大切な宝です。また2年目には寮に班長として残る事になりました。アルバイトをしないのでお父さんとお母さんには金銭的に迷惑をかけてしまいました。ですが班長として人の成長をサポートするという事の難しさとやりがいを体感したこと,12人の班長で様々なイベントや課題に取り組んで得た達成感は何ごとにも代え難い経験です。さらには寮生活での実績もあり,野球サークルでは45人の部員をまとめるキャプテンを2年間任されました。高校時代は毎試合ごとにレギュラーかどうかで一喜一憂し,お父さんやお母さんが試合を観戦に来てくれた日に出場機会が無い時もありましたね。それに比べてキャプテンは人を動かす側の立場です。勝ちを得る為には時に嫌な役回りに徹しなければならない時もあり,自分には向かないのかと思いました。ですがチームの意識と雰囲気作りをする事で,最後の大学内の大会で優勝することができました。さらにまたオープンキャンパスのスタッフとしての活動もありました。この活動にはかなり力を注いできました。その為に夏休みはあまり帰省の期間が確保できないとお母さんにいつもいい訳をしていましたね。けど本当に楽しくてやりがいのある活動でした。自分達と同じように受験という人生の一つの関門を乗り越えようとしている人達に対して,またそれをサポートしている保護者に対して,自分達の大学生活の舞台となっている京都産業大学をよりリアルに,より分かりやすく伝えるという事は本当に難しかったです。ですが何よりも毎日の活気ある楽しい大学生活は口に出して言うとそんなものかと自分でも感じてしまうからです。そこで少しでもよりリアルに,より分かりやすく伝える為に色々と工夫しました。学内クイズを作ったり,小話や小道具を持ち込んでみたりもしました。お父さんやお母さんが見たことの無い一面かも知れません。相手の立場になって考えるという事,大勢のスタッフを動かしていく事,活動スタッフの意識を伝えていくことなどは,全てにおいてできたとは言えないのですが,勉強になった日々でした。他にもインターンシップで山梨の農家に行った話や,留学生チューターとして異文化交流した話もしたいところですがこれはまた次の機会にとっておきます。  やはりこの辺りで勉強の話も少しはしないといけないかなと思います。勉学の方では本当にお父さんの影響がかなり大きいと思います。会社の社長として日々奮闘している姿を直ぐ近くで見ていたことは経営学部の勉強で本当に活きました。周りの友人が苦手としている経営学の理論では家の会社ではこの活動に当てはまる事だなと考える事ができました。経営情報という実感のわきにくい分野においても家の会社ではあの分野に活かすことができるのではないかと考えることでより深く学ぶ事ができました。このように身近にどんな参考書や教科書にも負けないリアルな教科書があったことで無事に単位を修得できただけではなく,成績優秀者として2回も表彰を頂くことができました。でもあの賞の半分はお父さんのものですね。もう半分はテスト前になると勉強のオーラを出してくれた寮や学部を問わず時に協力し,時に競争した寮時代の仲間だと思っています。

 これらの本当に貴重な体験や学びをもって大学生活を終えて社会人として新しい一歩をまた踏み出そうとしています。内定先の会社では全国のどこに配属されるかは分かりませんが,どのような地域に行っても仕事を覚えて,しっかりと学び,弱音を吐かず頑張っていくつもりです。いつかはお父さんに負けないような社会人として経営者として仕事に取り組みたいと思います。またさらにお母さんのように地域や福祉の活動にも関わっていけたらと考えています。

 最後になりますが私は残り5ヶ月の大学生活を卒業研究や資格取得,さらには思い出作りにと忙しなく過ごしていこうと考えています。社会人としてスタートする前の今の時期だからこそ,今までの人生で本当にお世話になってきた事をひしひしと感じています。

 小学生の時には持病の喘息が出る度に病院へ連れて行ってもらいました。中学校の時には反抗期の私をしっかりと受け止め,本気で叱ってくれました。高校の時には毎日野球部の練習に出かける私に勉強しろとは言わず,お弁当を作って見送ってくれました。浪人中の1年間も勉強の話題は極力しないように気を使ってもらい温かく見守ってもらいました。大学に入ってからも長期休暇の度にいい訳をしては帰省しない私に「少しでいいから顔だけは見せてね。」と大学生活を自由に進む私の背中を押してくれました。

 このように振り返ってみると本当に普通の親子のように接してきてくれたのだと,本当の親子なのだと改めて実感しています。養護施設で生活していた私を里子として小学5年生の時から家族として暮らすようになって12年目になりますね。18歳の時に養子になった事も一つの新たなスタートでした。また私が社会人1年生として踏み出す今年がちょうど出会う前の期間と家族になってからの期間とが年数で逆転して家族としての新しい1年目になるとは偶然のようでどこかで神様が仕掛けた必然なのかもしれません。社会人になるとはいえまだまだ迷惑をかけたり,幼稚な事で相談することもあると思います。だからこれからも厳しく叱って下さい。しっかりと口を挟んでください。本気で喧嘩してください。けれども今までよりは自分達の時間を大切にしてください。今までよりは自分達の思いを大切にしてください。今までよりはもっと楽しんでください。そして見守っていてください。12年間ありがとうございました。これからも今まで以上によろしくお願いします。

追伸。お米が無くなったので送ってください。

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