優秀賞

「めざせswing professor!!」

文化学部国際文化学科 3年次 後藤 アイ子(ごとう あいこ)

審査員講評

 スイングしなけりゃジャズじゃない、アメリカの音楽はわれわれの心に明るい躍動感を運んできた。1960年代にベニー・グッドマンやレッド・ニコルスの伝記映画を観て、あるいはFENの放送を聞いてジャズのすばらしさに目覚めた人も多かった。わたしもその1人なのだが、残念ながらそれ以上の知識を得ようとはしなかった。今でもCDを適当に聞いている。
 後藤さんは、スイング・プロフを目指している。ジャズの研究者として多くの人に身近な音楽としてジャズを聴いてほしいと願っている。ジャズの歴史や奏法の移り変わり、演奏家のこと、曲想、いろいろ知りたいことはある。自分も演奏する後藤さんは、楽器を操りながら、われわれの知りたいことを懇切丁寧にわかりやすく、ジャズを楽しむ術を教えてくれるのではないだろうか。夢はきっと叶う。めざせ swing professor!

作品内容

「めざせswing professor!!」 後藤 アイ子

1.スイングしなけりゃ意味ないね!

♪It don’t mean a thing if it ain’t got that swing
 Doo wah, doo wah…
 Don’t mean a thing, all you got to do is sing
 Doo wah, doo wah…
 It makes no deff’rence if it’s sweet or hot
 Just give that rhythm everything you got

 It don’t mean a thing if it ain’t got that swing
 Doo wah, doo wah…♪

「細かいことなんか気にしないで、感じたままにスイングして歌えばいいんだ♪」という、この英語の詩はアメリカの代表的な音楽、ジャズの名曲“It don’t mean a thing (If it ain’t got that swing)”の一説です。スイングとはジャズ特有の軽快なリズムのことで、多くの人々を魅了してきました。また、私もその一人です。私の将来の夢はswing professor!ジャズを研究して、このすばらしい音楽を多くの人が身近に感じられるよう活動していくことが目標です。

2.San Franciscoでの出来事

 今年の夏休み、私の将来に対する考えがはっきりしたものになりました。学校のインターンシッププログラムでアメリカのサンフランシスコで過ごした1ヶ月間は私に自信と課題を与えてくれたからです。
 私はアメリカ文化を専攻し、アメリカの大衆文化の代表ともいえるジャズに強い魅力を感じていたため、アメリカへ留学したいという気持ちは以前から持っていました。しかし、留学して何を学びたいかというはっきりとした目標や自信がなかったのです。サンフランシスコで過ごした1ヶ月間、拙い英語力でしたが、長い時間をかけて根気よく訴えかけたら、相手に自分の気持ちは伝わるものだという自信を身につけました。そして1ヶ月間のインターンシップを無事に終えた達成感は何にも代えがたいものになりました。
 また、実際アメリカで生活してみると観光旅行では見えてこなかった一面を発見することができました。まず、アメリカが世界で一番の先進国だというステレオタイプのイメージは覆されました。家で使う洗濯機や炊飯器は何十年も昔から使っている古い型のもの、携帯電話は日本でもうお目にかかれないようなモノクロでメールの使えないものばかりだったのです。日本にいると、次々と新しい商品が紹介され、流行のものを持っていないと恥ずかしいと思うことがありますが、コマーシャルや雑誌に翻弄されて生きているのだなということを痛感しました。日本の商品は常に改良が施されているので消費者にとっては使いやすく、世界に誇れるメーカーがたくさんあります。アメリカが不便だと感じることも多々あったので、決して日本社会を否定したいのではありません。しかし、消費大国アメリカが電化製品を何十年も大切に使っていたことは私にとって衝撃だったのです。
 それから人種差別に関しても大きな発見があり、矛盾と憤りを感じずにはいられませんでした。サンフランシスコは西海岸で2番目の都市ということもあって移民の多い街です。特にアジア系とヒスパニック系が目立って多かったように思います。人種差別があることは理解していましたが、有色人種であるマイノリティは力を合わせて人種差別を撤廃しようとしていると思っていました。それなので、日本人の上司たちが「あの道を越えると黒人がいっぱいいる危険な場所だから行くな」、「黒人は頭が悪いから難しいスポーツはできないんだよ」と言って黒人を公然と差別していることは戸惑いを隠せませんでした。そして何より黒人と道端ですれ違ったときに怖いと感じている自分に絶望しました。頭でいけないことだ理解していても、気持ちがついていかないのが現状でした。
 このように今までの知識と現実の違いを目の当たりにして、アメリカ文化を研究するためにはアメリカでしばらく生活することが一番なのではないかという結論になりました。講義や本のように何かを通して間接的に学ぶのではなく、直接自分で感じて、考えて得たものは大きいはずです。

3.アメリカに留学して学びたいこと

 留学してからは、もちろんジャズについて研究をしていきたいと思っています。アメリカはジャズ誕生の地というだけあって研究も盛んに行われており、日本にはないジャズ学部も存在します。そしてストリートパフォーマンスやフェスティバルなど音楽を身近に感じられる環境があるのでジャズを研究するには最適だと思います。またジャズは人々の生活の中から生まれたものなので、アメリカで生活をして初めてわかる関連性なども発見できるはずです。実際、アメリカでジャズのライブを見ると、日本人の聴衆とは全く違う派手なリアクションして、自由に体を動かしながら聴いていることに驚きました。
 ジャズの大きな特徴にはインプロヴィゼイション(即興演奏)があります。楽譜にとらわれない自由なインプロヴィゼイションのおかげで、ジャズは他の音楽より演奏者の意図や時代の流れを表現しやすい音楽といえます。よって、ジャズの歴史を追っていくとアメリカの歴史まで見えてくるのです。例えば1930年代、大恐慌で希望と活気を失っていたアメリカに元気を与えたのは軽快なダンスミュージックでもあるスイングジャズでした。また1960年代、公民権運動やキューバ危機、ヴェトナム戦争泥沼化などアメリカ社会が混沌とした時代には、その怒りや苛立ちを爆発させたような既成概念を打ち破るフリージャズが誕生しました。そして時代によってスタイルは変われども、根底にあるインプロヴィゼイションはアメリカの個人主義と自由を重んじる考えに通じるものがあります。ジャズはアメリカ社会を映し出す鏡です。ジャズという大衆文化を切り口にしてアメリカの価値観、歴史、経済などに目を向けていきたいと思っています。

4.なぜジャズなのか…?

 なぜここまでジャズに執着し、魅力を感じているかというと、私もジャズミュージシャンの端くれだからです。きっかけは小学校の部活動でジャズのバンドに入ってアルトサックスを吹き始めたことでした。現在でも日本でジャズを演奏している小学校は1、2校しかない大変珍しいものなので、そのような環境に恵まれたことを嬉しく思っています。しかし小学生の私はジャズが何かを全く知らず、ただカッコいいから参加しているという具合でした。ジャズの楽しさを知って、虜になってしまったのは中学時代からです。幸い、中学校のジャズオーケストラ部の先生もとても熱心で私たちに多くの演奏機会を与えてくれ、ステージで演奏する快感を教えてくれました。味を占めた私たちは、中学校のOGを中心にして高校時代もジャズのビッグバンドを結成しました。初めて学校という枠から離れて活動すると、練習場所や運営など問題点は次々と沸いてきましたが、社会に出る第一歩として忘れられない思い出です。部活動の場合、誰でもバンドに受け入れてきましたが、独立してからは協調性のないメンバーにレッドカードを出し、相手が友達といえども厳しい宣告をすることもありました。バンド運営を円滑にするためには、人間関係が大切だということを学びました。大学入学後、現在はジャズを中心に演奏している同志社大学軽音楽部に属しています。このクラブは「The Third Herd Orchestra」という毎年全国大会で上位入賞をするビッグバンドで有名なので、高校生のころから憧れていました。今年の春、「The Third Herd Orchestra」や、その他関西の大学のビッグバンドが集まってライブをする「大阪城 JAZZ FESTIVAL」の実行委員会に参加して、音楽の新たな発見がありました。企画を練るため参考に一昨年前のアンケートを読むと、「若い学生たちのジャズ演奏を聴いて元気をもらった!」とか「仕事でストレスが溜まっていたけど癒された!」とか「楽器を演奏できるようになりたいと思った♪」という感想があり、音楽がリスナーに与える影響の大きさに気がつきました。これまで演奏者としてステージを楽しむことはありましたが、リスナーへの気配りを怠ってきたことを反省しました。音楽の大前提はまず演奏者が楽しむことですが、独りよがりの自己満足では持ち味が台無しです。音楽には人を元気づけたり、幸せにしたり、心を豊かにするパワーがあります。もっと人々の生活に音楽が身近に感じられるよう、ジャズのイベント企画をしたり、自分自身が演奏活動をしたりすることも今後の目標です。ただただ研究に没頭する内向的な研究者ではなく、音楽のパワーを使って人の役に立つ活動ができる外向的な研究者になりたいと思っています。

5.おわりに

 私の将来の目標は固まってきましたが、アメリカの大学に入学し、研究者としてその後も進学とするとなると経済的な問題が浮上してきます。京都産業大学を卒業してからは、これ以上親の脛を齧りたくないので、卒業後は就職して留学資金を貯めなくてはなりません。最初は就職することを前向きに考えられませんでしたが、今は社会を知る良いチャンスだと捉えています。社会の厳しさを知っている現実的な教授は私の憧れです。様々な経験をすることで人間は大きく成長するものだと思うので、就職を自分の成長に役立てたいと思っています。まだ漠然とはしていますが、留学に役立つよう英語が身近にある職業に就きたいです。
 今回このエッセイを書くことで、自分の将来のビジョンがさらに明確なものになりました。一度就職した後に留学して、研究者になることは並大抵のことではないと思います。しかし、強い意志と目標を持っていればきっと夢は叶うはずです。めざせswing professor!

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