検索エンジンに“コミュニケーション”をプラス
—リンクとユーザの両面からwebページとユーザを同時に評価—

コンピュータ理工学部 インテリジェントシステム学科 河合 由起子 准教授

リンクとユーザの両面からwebページとユーザを同時に評価

図

 google やyahoo! などの検索エンジンを使っていて、調べものと関係のないことが検索結果の上位に出てきたり、思うような結果がなかなか出てこなかったりと、不便を感じたことはありませんか? また、webページの内容で分からないことを、その場で気軽に聞けたらいいのにと思ったこともあるかもしれません。こうした今の検索エンジンにはない、新しい機能を持った次世代検索エンジン「つながる検索」※1を開発された河合由起子先生。「つながる検索」とはどのような検索なのか、また今後の展開について話していただきました。

※1 つながる検索はhttp://klab.kyoto-su.ac.jp/~mito/index-j.htmlで公開されている。共同で研究を行っているNTTレゾナント(株)は「ペチャクチャ検索」という名前で公開している。

よき隣人が良質な情報を教えてくれる

 “検索”というと、インターネット上で検索エンジンを使って調べることをイメージしがちですが、私たちは日常的に生活の中でも必要な情報を探しています。何かを調べるというと、辞書を使う、インターネットを使う、図書館へ行って本を調べると、いろいろな道具を使うことがまず思い浮かぶかもしれません。でも、道に迷ったとき、地図が見つからなくて、近くを通りかかった人に聞いたおぼえはありませんか。欲しい服が見つからないとき、おしゃれな友だちに聞いて、一緒に探しにいったこともあるかもしれません。進路に迷っている人なら、大学案内を取り寄せたりオープンキャンパスに行ったりする方法もありますが、まず先生や先輩に相談する方が一般的ではないでしょうか。

  人とのコミュニケーションは、あまりに日常的すぎて、情報を得る手段としてあまり意識されませんが、実は私たちはコミュニケーションを通して多くの情報を得ています。これはつまり、現実(フィジカル)の世界で行われている“検索”だといえます。そこで、検索エンジンやSNS、掲示板を使ったインターネット(サイバー)空間で情報を獲得する際にも、フィジカル空間に実在する人とコミュニケーションを活用できるようにしようと、「つながる検索」という新しい検索エンジンを開発しました。

人に聞ける次世代検索

 つながる検索サービスにログイン※2すると、今見ているページ上に自分のアバター(分身となるキャラクター)が表示されます(図参照)。さらに、同じページを別のユーザが見ていれば、そのユーザのアバターも表示されます。チャットバーを開くと、閲覧ページにコメントを残すことも可能です( 図中右側のウインドウ)。このチャットバーを使って、たとえば、参考書を調べているあなたが「この参考書のオススメポイントを教えてください」と質問すれば、このページを見ている別のユーザのうち、その参考書について詳しいユーザがいれば「解法がとても分かりやすいですよ」といった答えをすぐにもらうことができるわけです。

※2 つながる検索のサービスには、オープンIDによるログインが可能です。オープンIDは、ユーザが実在することを確かめるための手段のひとつ。googleやyahoo! のIDを持っていれば、新たにアカウントを発行してIDやパスワードを入力しなくてもユーザ認証ができます。

 SNSやツイッターと大きく違う点は、もともと所属しているコミュニティではなく、たまたま同じページを見ていたユーザ、つまり自分の興味や関心と近いユーザとつながることができ、その場(ページ上)ですぐにコミュニケーションできるところです。個人的なつながりがないからこそ、気軽な質問がしやすいという面もあります。もちろん質問をするだけでなく、ユーチューブなどでスポーツ観戦をしながら、あるいはアイドルのコンサートを観ながらと、同じ趣味あるいは興味をもつ、ユーザ同士で感動を分かち合うこともできます。

 画面右下に薄く表示されたアバターがいるのが分かるでしょうか。実はこの人は、過去にこのページを見ていた人なのです。薄いアバターをクリックすると、そのユーザが現在見ているページに瞬時に移動でき、コミュニケーションをとることができます。また、移動せずとも、今見ているページと、そのページを過去に見ていたユーザが移動したページという2つの異なるページを介しても、過去に見ていたユーザとコミュニケーションできるのです。

 また、コミュニケーション(チャットバーのコメント)のログは、後から同じページを見た別のユーザも閲覧できますから、同じ疑問を持ったユーザがいた場合、コメントを見てその疑問を解決できます。

 コミュニケーションがとれるだけではありません。つながる検索のツールバーを使って検索を行うと、通常の検索結果の横にそれぞれの“ページの閲覧度”が表示されます。これは、知識や関心の高いユーザから各々のページが実際にどれだけ見られているかが分かる機能です。また、ユーザのアクセスランキングによる検索結果も見ることができます。

つながる検索のアルゴリズム

 検索に必要なウェブページの重みづけは、googleで用いられているPageRank という検索アルゴリズムが主流です。PageRankは、多くの良質なページにリンク( 参照)されているページは良質であるという仮定に基づき、ページ間のリンク構造によって、ページの重要度を決めています。リンク構造を用いるということは、膨大な文書の内容解析を不要とするため、瞬時のランキングが実現できるのです。つながる検索では、このページのリンク構造だけでなく、ユーザの関係性も加えることにしました。つまり、多くの良質なユーザに閲覧( 参照)されているページは良質であり、良質なページを閲覧( 参照)したユーザは良質である、という仮定に基づいています。

 簡単にいうと、各ページは、他のページからのリンクだけでなく、ユーザの閲覧履歴も用いて評価されます。実際には、一定時間が経過したアクセスの評価値を減らしたり、評価値の高いページを多く閲覧しているユーザや、自分と同じページをよく見ているユーザを自分と興味が近いユーザとして評価するなど、評価方法の工夫が必要になります。もちろん、本サービスの特徴であるチャットのコミュニケーション内容も評価対象とします。

 さらに、このようにページのリンクの関係性と、ユーザの閲覧行為やコミュニケーションにより発生した関係性の両方を同時に扱うことで、ページだけでなくユーザも同時にランキングすることができるようになります。たとえば、「AKB48」で検索すると、リンクの関係性とユーザ間の関係性からページがランキングされるだけでなく、AKB48に関して評価値の高いユーザ(アバター)も同時にランキング付けできるのです。

今後の展望

 今後は、この研究を応用して、緊急時の情報発信に役立てたいと思っています。つながる検索の技術を使えば、地震があったときに、京都市役所のホームページを過去に何度かアクセスしていたユーザに対して、京都の震度や被災状況、避難場所などの情報を発信するなど、ユーザとページの関係性から、それぞれのユーザにとって必要な情報を配信することが可能になります。ブラウザを見ることができる状態であれば、どのページを見ていたとしても、つながる検索のチャットバーに情報を流せば簡単に知ることができるわけです。

 授業など、一つの課題に何人かで取り組むときにも役立ちます。メンバーそれぞれのアバターを登録しておけば「いまこのページを見ている」と言わなくても、互いが調べているページを簡単に行き来できますし、チャットで相談もできます。さらに、モバイルへ応用することでさらなる普及を目指しています。

インターネット上での発言の重みを意識してほしい

 私たちは、個人が手軽に情報を発信できるネット社会に生きています。ここでは、簡単で自由に書き込みができますが、その発言が全世界に公開され、発言されたデータは“記録”として永久的に残すことができることを、どれぐらいの人が意識できているでしょうか? ツイッターやSNSなど、閉じられたコミュニティ内で発言しているつもりでも、コピー&ペーストは簡単ですから、いつどこで誰が全世界にオープンな情報にするか分かりません。公開されれば、検索にもひっかかってきますし、発言によっては思いもよらないことで他者を傷つけるだけでなく、自身も不利益を被る可能性があるということをきちんと考えておく必要があります。こうした点を理解しつつ、楽しみながらインターネットを使って、知識や興味の共有をしてほしいと思います。

コンピュータ理工学部 インテリジェントシステム学科 河合 由起子 准教授

プロフィール

博士(工学)。同じ情報でも、人によって感じ方は異なるし、必要な情報も異なる。それにも関わらず、誰にでも同じような情報を提供している現在の情報検索技術の限界を引き上げたいと、personalization(個人適応技術)をテーマに、嗜好(志向)情報に基づく情報推薦や検索を専門に研究している。人を豊かにして、人格形成にも役立つコンピュータを開発するのが夢。鹿児島県立鹿屋高等学校OG。

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