家族企業の視点から振り返る戦後の日本経済

開催日時 2015年5月27日(水)15:00〜18:00
開催場所 京都産業大学 第二研究室棟 会議室
報告者 沈政郁 (Jungwook Shim)(本学経済学部准教授)

概要

家族企業研究の背景

 経済学や経営学では、伝統的な視点として、「所有と経営の分離」が広く受けいれられてきた。しかし、1999年に家族企業(Family Firm)は世界的にみて、上場した企業を代表する支配的企業形態であるという研究が発表された。それを境に、所有と経営の分離とは違った視点、すなわち、家族企業という視点からの研究が盛んになった。

戦後の日本経済の成長

 日本では1956年から1973年までの平均実質経済成長率が9.1%であり、1974年から1990年までのそれは4.1%であった。また、上場市場の歴史としては、1949年に第一部株式市場が再開され、1961年には第二部株式市場が新設された。そして、1949年と1961年 ~ 1964年という2つの時期に多くの企業が上場した。
 この2つの事実を合わせると,戦後の日本経済の成長を牽引してきたのは,1949年と1961年 ~ 1964年に上場した企業であり,それらの企業の特徴を理解するのが大事であるといえるだろう。

家族企業の視点

 ここでは、家族企業を『創業家一族が10位大株主の中にいるか、または最高意思決定ができる地位(社長・代表権付き会長)にいる企業』と定義する。
 ここで、先の二つの時期における上場企業の家族企業と非家族企業の割合を観ていくと、前者では約30%、後者では約60%が家族企業であり、所有と経営の分離を前提に議論されてきた既存の研究とは異なる仮説を見出すことができる。すなわち,戦後の日本経済を牽引してきたのは家族企業,特にその中でも創業者経営企業ではないかという視点である。

業績比較

 そこで、家族企業と非家族企業の業績を比較してみると、家族企業の業績の方が高かった。次に、家族企業の中に創業者経営を含むと家族企業の業績が過大評価される可能性があるので、家族企業の中から創業者経営を除いて比較を行ったが、それでもなお家族企業の業績の方が高かった。また,創業者経営は家族企業と非家族企業に比べて圧倒的に高い業績を示していた。

業績変数: ROA, Tobin's Q, Sales growth

結論

 日本の家族企業は、非家族企業よりも優れた業績を示していたことが分かった。
 また、家族企業という視点から日本の経済成長率を再考察すると、企業家精神(Entrepreneurship)が大きな役割を果たしていたと言える可能性があり、やはり今後日本が経済成長を続けてゆくためには,若くて新しい力を育ててゆくことが大事であるといえるのではないだろうか。

 以上の報告に基づいて、質疑応答及び討論が行われた。

そこでは

  • これからの日本で、企業家精神 (起業家精神も含む) をどうやって育てていくかが日本の将来の発展の鍵となる。
  • 家族企業であれそうでない企業であれ、Innovationを起こすためには、創造的破壊の様な精神構造が必須であり、今の日本には,Product InnovationよりもProcess Innovationが先ず必要である。

 といった意見が出され、活発な議論となった。


  • 発表の様子

  • 討論の様子
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