産学協働人材育成ネットワーク(JCEN:Japan Cooperative Education Network)設立準備研究会

『これからの人財育成を真剣に考える -企業と大学がやるべきこと、できること-』

日時 2011年9月9日(金)14:00〜17:50
会場 日本教育会館8階805号室

登壇者

趣旨説明/パネル・フロアディスカッション パネリスト

京都産業大学経営学部准教授 松高 政氏

問題提起/パネル・フロアディスカッション パネリスト

厚生労働省職業能力開発局キャリア形成支援室長 浅野 浩美 氏
文部科学省高等教育局視学官 鍋島  豊 氏
経済産業省経済産業政策局産業人材政策室総括補佐 梶川 文博 氏
国分株式会社人事総務部長 小木曽泰治 氏
朝日新聞大阪本社生活文化グループ 記者 諸麦 美紀 氏
敬愛大学事務局長 兼 キャリアセンター長 高田  茂 氏

パネル・フロアディスカッション 司会

成城大学事務局就業力育成支援室 長尾 繁樹 氏
新潟大学教育・学生支援機構キャリアセンター准教授 西條 秀俊 氏

総評コメント

特定非営利活動法人産学連携教育日本フォーラム代表理事 宮川 敬子 氏

司会進行

京都産業大学全学共通教育センター准教授 松尾 智晶 氏

開催報告

2011年9月9日(金)、日本教育会館(東京都千代田区)にて、企業と大学が真に協働し、社会的・職業的自立に必要な能力を備えた人材育成推進ネットワーク(JCEN)の設立準備研究会を開催した。大学・企業・行政が一堂に会して人材教育に関わる課題を三者協業の下で改善・解決することを目的とし、行政からは経済産業省、厚生労働省、文部科学省の3省、企業は25社、大学は22校が参加され、率直で熱心な議論を交わす機会となった。

 研究会は3部構成で実施された。

 第1部は研究会の趣旨説明が、松高政氏(京都産業大学経営学部准教授)よりなされた。研究会の目標として(1)産学連携の『面』としての広がりを追究する、(2)若年労働力の質的・量的増加をはかる、(3)大学の教育力について再考する、(4)採用活動・就職活動について再考する、(5)中小企業の人材育成と大学との協業可能性を考える、(6)諸外国レベルの産学協働人材育成プログラムを開発する、等が挙げられた。その上で本会は、産・官・学のまさに協業の下、具体的な活動につなげてゆく点に新規性があるという強調がなされた。

第2部は、パネリスト6名からそれぞれに問題提起がなされた。概略は以下のとおり。

浅野 浩美 氏(厚生労働省職業能力開発局キャリア形成支援室長)

「大学生等を日本の将来を担う人材に育てるために」

本会の趣旨に照らして(1)キャリアコンサルタントのあり方、(2)大学生の就職支援、(3)既卒生、未就業者の就職支援等が、当省の関わる領域として挙げられる。課題をすり合せ改善につなげるためにも、本会のような動きは必要。今後に関しては引き続き情報共有を深めてゆくと同時に、大学との連携においては「新卒応援ハローワーク」「大卒・高卒就職ジョブサポーター」をさらに推進してゆきたい。

鍋島 豊 氏(文部科学省高等教育局視学官)

「大学・短大における就業力育成への期待〜産学協働の推進による取組を〜」

厳しい雇用情勢の下、地域別・文系理系別等の就職に関する課題と各大学・短期大学の特徴を踏まえた上で教育課程内外を通じた「社会的・職業的自立」に全学的に取り組む方向性を推進している。就業力育成支援事業の推進を「大学の就業力向上プラン」としてまとめ、4月には大学設置基準の改正も行なった。今後は、評価の仕組みと地域を巻き込んだ持続的取組とする点を考慮してゆきたい。

梶川 文博 氏(経済産業省経済産業政策局産業人材政策室総括補佐)

「今後のわが国経済を支える人材と大学教育への期待〜社会人基礎力や産学協働教育等を通じた人材育成の必要性について〜」

日本の経済的地位が国際社会で低下する中、当省では産業界に必要な人材育成を目的とし、(1)グローバル人材の育成、(2)安定より成長に関心の高い人材の育成、(3)中堅中小企業と若手人材の接点作り等、幅広い施策を展開している。今後さらに「産学協働教育」の推進、当省が定義した「社会人基礎力」の育成・評価プログラムの展開に尽力し、企業側の理解を得る活動を強化してゆきたい。

小木曽 泰治 氏(国分株式会社人事総務部長)

「企業側からの問題提起」

創業300年の食品卸である当社は「自主自律・環境対応力・対人関係力」が求める人材像であり、人事の最優先テーマは「人材の強化・育成」となっている。「人材」「人財」「人在」「人罪」等社内ジンザイは多様であるが、現状は厳しく、少なくとも「人材」「人財」であることが望まれる。家庭には躾とキャリアの節目におけるフォローを、大学には社会情勢に関心の高い学生の育成を、企業には育成型人材採用を期待したい。日本の将来を担う次世代の人材育成を共に推進してゆきたい。

諸麦 美紀 氏(朝日新聞大阪本社生活文化グループ 記者)

取材テーマは非正規労働、派遣問題、2008年には年越し派遣村であり、その後就職活動・採用活動にも範囲を広げた。取材現場で意欲高い中国人留学生と日本人大学生のギャップ、転職を前提に就職先を決めたり転勤を絶対拒否する学生に出会った。一方就職活動の長期化で疲弊する学生も目立ち、日本社会の人材育成に強い危機感がある。20代〜30代女性のメンタリティが学生と似ており、人のことを気にし過ぎ横並び意識の強さがみられること、インターンシップが採用直結型になることの是非などについて現在関心がある。

高田 茂 氏(敬愛大学事務局長 兼 キャリアセンター長)

グローバル展開企業出身のビジネスマンが、千葉の私立大学で事務局長兼キャリアセンター長を拝命し、感じている違和感と意見を申し述べる。キャリアセンターの人が就職活動に携わる学生の苦しみや辛さ、乗り越えたときの成長を見ているか、専門的な職業知識がどれだけあるか。国内TOP30大学とそれ以外の大学教育の違いは人間力養成に軸をもつことではないか。キャリア教育がブーム化している点に強い危惧がある。勉強の楽しさと意義を体感し後の自発的な学びに直結する、インターンシップなどプログラムの開発工夫が一層求められる。

第3部はフロア・パネルディスカッションとして、司会の長尾 繁樹 氏(成城大学事務局就業力育成支援室)、西條 秀俊 氏(新潟大学教育・学生支援機構キャリアセンター准教授)による進行の下、第2部の問題提起に対するフロア参加者からの質問と応答が展開した。議論テーマは以下の5点であった。

  1. インターンシップが採用直結になることは悪いことではないが、いくつかの留意が必要。時期、学年、目的などを再考し、より教育効果の高い内容となる可能性がある。初年次の実施により大学で学ぶ意欲を高めたり、海外同様に若年層に対する効果的な企業広報の一環としての在り方も今後検討されてゆくことが望ましい。
  2. 育成型採用活動に関して。既存の就職活動プロセスを見直し、企業の素の姿を学生に見せる工夫でフィットするかどうかを判断させることが効果的ではないか。不合格にするための採用活動プロセスではなく、合格するためのテクニックではなく、企業と学生双方がWin-Winの関係になる、「素の、人と人との出会いと会話」によって決まる採用を推進してゆきたい。不合格でも学生に納得感を与えるようなやり方を工夫したい。
  3. 中堅中小企業と大学生との出会いを促進し、就職につなげてゆく活動は意義深い反面、学生の視野を広げる難しさもある。それを超えるためには大学の科目の中で財務理解なども含めた上での「相互理解」の場を増やす、社会性を高める体験を増やしてゆくことが成果につながると考えられる。現状でも大学と経済界をつなぐ一定の役割を、行政が果たしてゆく方向性がみられる。インターンシップの新しい形、とリームワークスタイル・プロジェクト、ジョブシャドウプロジェクトなど新たな試みを継続展開することが望ましい。
  4. グローバル化進展の中で、グローバル対応可能な人材とは何かと再考すれば、グローバルルールに適応出来ると同時に日本人特有の資質が重要であると考えられる。人材輩出は教育の成果であるとするならば、(1)個からチームワークに重点をおいた科目の運営、(2)キャリアカウンセラー(コーオプスタッフ)の学生に対してモチベーションを高めるやり方で関わる、(3)他社に配慮出来る日本人の資質の美点を伸ばす教育的工夫、などを考慮することが望ましい。
  5. 就職することそのものに、興味をもっていない学生が増えていることが実感される。しかし、行政施策や大学での就職活動支援などの取り組みが『過保護』でかえって学生の自律性を損なっている可能性があることも考慮すべきである。重要なことは、『就業力育成支援事業』はトップグループの学生のためのものではなくマジョリティ学生のためのものである、という点であり、特に2:6:2:の6、そして下位の2の学生に対してのケアを忘れてはいけない。

今後の活動について

総評コメントとして、我が国コーオプ教育の中心的推進者である宮川 敬子 氏(特定非営利活動法人産学連携教育日本フォーラム代表理事)より提言が行われ、高田 茂氏(敬愛大学)よりまとめの言葉があり、閉会した。

総評コメント

特定非営利活動法人産学連携教育日本フォーラム代表理事 宮川 敬子 氏

1997年のインターンシップに対する『三省合意』形成をきっかけに、15年間推進活動を続けてきた。しかし今後変化の激しさが一層増す社会情勢を考慮すれば、教育は大学と企業と社会とが連携し上意下達型でなく、サッカーチームのように1人1人が現場で判断出来る力をもつ総合的な人材育成をはからなければいけない時代に入った。人材育成の方法としてコーオプ教育は100年前から欧米で進展しており、近年アジアではタイの台頭が目覚ましい。コーオプ教育推進のためには、大学・企業ともにイマジネーション(創造力)を働かせてもらうことが肝要であり、魅力的なプログラム開発にまい進していただきたい。またインターンシップが採用直結型になることに関して15年前は時期尚早だと考えていたが、現状では状況に合わせて柔軟に対応して良いのではないかと考えている。大学に合わせた形での、今後の本会での大学同士、大学と企業同士でのご検討を期待する。

まとめの言葉

高田 茂 氏(敬愛大学事務局長 兼 キャリアセンター長)

本会の趣旨は、企業、行政、大学が連携して若者の人材育成を強力に推進してゆく、ということにある。机上論ではなく具体的な情報交流を果たし、グローバル人材から、マジョリティ学生にも夢のある10年後を描けるようなキャリア教育を考えてゆきたい。

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