京都産業大学キャンパスマガジン サギタリウス 2016 Jul. Vol.72

先生と一緒に、驚きの世界を見に行こう! Hello New World! 経済学部 松尾 美紀准教授 「大学卒業者が裕福になる」という経済学の定説に疑問を持ったことから、研究者の道へ。経済格差の原因の一つである教育格差に着目し、人的資本の蓄積の観点から経済発展に関する研究を行う。 経済の語源は“ 経世済民” 世を経め(おさめ)民を済う(すくう) 個人の知識や技能に差があることが、裕福な人とそうでない人を生み出す原因の一つ。どうすればみんなが豊かになれるのでしょうか。未来の経済発展にもつながる政策のヒントをご紹介します。

1 実際に世の中で起こっている動きを数式で表し、モデル化。

  • 皆さんは「人的資本」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?これは人が持つ知識や技術を、経済を成長させる「資本」と捉える考え方です。経済学では、人的資本が高い人は仕事の生産性が高く、その結果得られる賃金も高いと考えます。人的資本は基本的に教育によって蓄積されますから、教育格差は所得格差の一因となりえます。そのため、家が貧しく教育を受けられない子どもは裕福になることが難しく、親子何世代にもわたって貧困から抜け出せない、いわゆる「貧困の罠」に陥ってしまうのです。

    ではどのような教育政策を行えば、人々の人的資本を高め、豊かな社会へと導くことができるのでしょうか。政策を考える際には、まず経済現象を数式でモデル化し、さまざまな政策を行った場合の効果を予測します。実際に国が行う政策は失敗が許されませんから、経済学者がこうしたモデルで試行錯誤し、その結果から最適な政策を提言する、というのが経済学研究の目的の一つなのです。

  • 計算式で埋めつくされた、先生のノート

2 「貧困の罠」をモデル化し、未来を変える政策をここから生み出す。

それでは次に、私が実際に行った研究を具体的に紹介しましょう。まず前提として、人的資本は教育によって形成されます。その教育に対し、人々は生活必需品を買ったうえで余ったお金を向けることから、「教育は贅沢品」と考えることができます。そこで、この特徴をモデルに組み込むことによって、「貧困の罠」が生じるメカニズムを示しました。
この結果は、実際の経済現象をうまく説明しています。貧困の罠に陥った場合、自力で脱出することは不可能なので、このモデルを活用し、政府による介入の必要性や方法を考えなければなりません。

また、このモデルは大学生レベルでも理解できるほどシンプルなので、応用が可能です。例えば、先進国の社会階層の固定化や貧困国での児童労働といった経済問題に幅広く用いることができます。
そこで、現在は貧困国での児童労働問題の解決に向けた政策分析をしています。児童労働は、法律で禁止しても初等教育を無償化しても、なくなっていないのが現実です。こうした政策はなぜ効果が薄いのか、どうすれば児童労働がなくなるのか。これらを理解するためにも、モデル化によるメカニズムの解明が必要なのです。

3 児童労働の最大の要因は「貧困」。豊かな社会の実現を目指して。

児童労働の場合、教育に投資する余裕がないことだけでなく、親が教育を重要視していない、子どもに教育を受けさせるメリットを感じていないことにも原因があります。児童労働をなくすには、費用面の支援だけでなく、子どもが教育を受けることに対して親が満足感を得るような政策を実施しなければならないと推測されるのです。そのため、私はまず現在の経済現象を数式で表し、その上で人的資本を蓄積していけるような政策を検討していきたいと考えています。政策を提言するのは簡単なことではありませんが、そうすることでゆくゆくは世界の経済発展に貢献していきたいと思います。

松尾先生のハマりもの!

招き猫集めにもハマっています!

2年ほど前に野良猫を拾ってから、すっかり猫好きに。うちのニャン太くんは、食い意地がはっている男の子。私に甘えてくるのですが、もう何もかもかわいいんです!(笑)経済学の話はもちろん、猫の話をしたい学生さんも、ぜひ研究室に遊びに来てくださいね。

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