京都産業大学キャンパスマガジン サギタリウス 2014 Oct. vol.65
Voice of Sagittarius 京都産業大学の先生を徹底解剖!総合生命科学部 遠藤 斗志也教授 細胞を構成する細胞小器官(オルガネラ)研究に取り組む。主なテーマは「タンパク質の一生とミトコンドリアをつくる仕組み」について。メタボや老化に負けない身体をつくるため、大活躍する器官とは?
Voice1 若さを保つ秘訣は、細胞にあり!今話題のミトコンドリア。
遠藤先生が明らかにした、「脂質の運び屋タンパク質」の構造 写真で手にしているのはその模型
メタボリックシンドロームや、アンチエイジングについて、たくさんの対策が世の中にあふれていますが、それらの解決の鍵は、皆さんの身体を構成する細胞の中にすでに存在していることをご存知ですか?
メタボや老化、さらにはパーキンソン病 1 の対策として注目が集まるその細胞小器官こそ、私が研究する「ミトコンドリア」なのです。それでは、今とても「アツい」ミトコンドリアについて、私とミクロの世界をのぞいてみましょう。
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解説:手足の震え、筋肉の硬直などの運動障害が生じる難病。近年、不良なミトコンドリアが原因の一つと判明。
Voice2 ミクロの世界の仕組みを辿り、「生命の源」に迫る。
皆さんの身体をつくる約60兆個もの細胞、その一つひとつの中にミトコンドリアが存在し、皆さんの身体を動かすエネルギーを作っています。ひも状で、くっついたり、ちぎれたりという動きをしながら、細胞の中にあるにも関わらず別の生命体のように振る舞っている不思議な器官です。このミトコンドリアを活性化すると、脂肪の燃焼率が上がったり、老化を促進する活性酸素を取り除くことができるのです。私の研究目標は、このミトコンドリアが細胞の中で作られる仕組みを明らかにすること。約30年間の研究を通じて見えてきたことを簡単にお話しすると、次のようになります。ミトコンドリアは2枚の脂質の膜と千種類余りのタンパク質でできています。膜の上には、タンパク質で作られた「仕分け装置」のようなものがあり、細胞内を移動してきたミトコンドリア用のタンパク質をしかるべき所に配置していくのです。驚いたことに、細胞から送られるタンパク質には「宛名」のようなものが付いていて、仕分け装置はそれを見分けているのですね。
そして、脂質も同じように細胞から供給されるのですが、こちらについてはこれまでほとんど仕組みが分かっていませんでした。ところが最近の私たちの研究から、水に溶けにくいタンパク質も、専用のタンパク質に抱えられて運ばれてくることがわかりました。この脂質を運ぶタンパク質の形は、顕微鏡でも確認できないため、タンパク質の分子を集めて結晶を作り、そこにX線を当てて 2 写真を撮る…という、とても微細な作業を繰り返し、ようやく世界で始めて確認できたのです。こうしてタンパク質の仕分け装置や脂質の運び屋タンパク質の形が分かってくると、それらが働く仕組みについても理解が大きく進むことでしょう。現在はミトコンドリア生成の仕組みに焦点を当てていますが、将来的にミトコンドリアを活性化 3 させる薬剤の開発などにも踏み込んで行きたいですね。 さて、ここまで実用面での可能性について語りましたが、実は私の最大の興味は別の所にあります。それはつまり「生きているとは何か」という、生物学最大の謎に迫ること。細胞はミトコンドリアなしには生きていけません。ミトコンドリアも細胞から取り出すと少しの間だけ「生きた」状態でいますが、やがて死んでしまいます。細胞やミトコンドリアが生きた状態を保つ条件を突きとめることは、「生命の根源」に迫ることと私は考えます。物質的には同じ条件であるのに、「ある何か」がなければ「生命」は宿らない。その「何か」の正体を解き明かしたいのです。
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解説:兵庫県の播磨にある、巨大なX線放射装置「SPring8」で実験を実施している。
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解説:普段の生活の中でも、適度な有酸素運動や週1日の断食によってミトコンドリアの活性化が図れるという。
Voice3 生物学を学ぶことで、日常生活の選択が変わる!?
私は常々、研究とは答えのない推理小説のようなものと感じています。自らシナリオを考えて進むうちに、次々新しい発見に出合う。真実に近づいたかと思えば、時にどんでん返しにあう…。難しい道ではありますが、少しずつ答えに近づいていく感覚は大きなやりがいですね。また研究の道へ進まなくとも、生物学の学びは現代を生きるうえでの大事な基礎になると考えています。例えば遺伝子組み換え食品や遺伝子検査などを、生活に取り入れるべきか否か。世間の評判だけでなく、自分の考えで判断できるよう、しっかり学ぶことが大切だと思います。

遠藤先生のハマりもの!音楽雑誌に寄稿するほど、アフリカ音楽通!

若い頃からアフリカ音楽が大好きで、レコードやカセットなどの音源、資料を集めています。また、国ごとにアーティストと発表作品をまとめたデータベースを作り、それをホームページで公開しています。

これがなかなか詳細にできているようで、音楽の研究者の方が論文作成の参考にされることも。趣味が高じて、雑誌への寄稿や、アーティスト本人のアルバムにコメントを依頼されたり、アフリカの新聞から取材を受けたこともありましたね。(笑)

→研究室の壁は、アフリカンな装飾品で異国情緒たっぷり!

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