第6話 変形野菜の廃棄ゼロ市

見た目が悪いだけで捨てられるなんてもったいない

入江 紗希(経営・3)

 学生の挑戦を応援する大学の支援プログラム「サギタリウス・チャレンジ」。採用されると、活動への支援金がもらえる制度だ。

 入江紗希(経営・3)は、ゼミで学んでいることを生かしてこのプログラムに応募できないかと考えた。ゼミのテーマは「ソーシャル・イノベーション」。社会的課題を解決する新しいサービスやビジネスを考える取り組みだ。

 入江が注目したのは「変形野菜」。香川の実家で祖父が農業をしていたため、もともと野菜には愛着があった。サイズや形状が規格外となった野菜が、市場に出回らずに廃棄されるのを何とかしたいと思っていた。

 「見た目が悪いだけで捨てられるなんてもったいない。変形野菜の存在を多くの人に知ってもらい、野菜の廃棄量削減につなげたい」と、企画したのが、廃棄野菜を仕入れて安く販売する「廃棄ゼロ市」だった。

 「ビジネスにも社会貢献にもなるのでは……」そんな思いを胸に、ゼミ生20人で応募したこの企画は、見事採用された。

 しかし、野菜の仕入れ先探しは簡単ではなかった。卸売市場やJAでは「規格品しかない」と言われ、農家と直接交渉することに。

 さらに、ようやく変形野菜も売っている農家を見つけたが、「クッキーなどに加工しないと売れないよ」と最初の反応は鈍かった。

 「変形野菜のそのままの姿を見せるのが大事なんです」。入江は懸命に企画趣旨を説明する。入江の熱意に、ついに農家が協力を約束してくれた。

農業への熱い思いを変形野菜にのせて伝えたい

 変形野菜の仕入れ先をひとつ確保した入江紗希(経営・3)「変形野菜の廃棄ゼロ市」に向けて準備を進めていた。

 順調かに見えた入江らを、今年の猛暑が襲う。猛暑の影響で野菜が不作。新たな仕入れ先の確保が必要になったのだ。やっとの思いで仕入れ先を見つけ交渉しても、断られる日が続いた。野菜を集められるか焦る一方で、「ここであきらめられない」という思いが、粘り強い行動につながっていった。結局、本番1か月前の10月、2軒目の協力先が決まった。

 11月9日。上賀茂神社での第1回野菜販売会は、予想以上の客でにぎわった。周辺で配ったチラシ効果も抜群。「がんばりや」と客が声をかけてくれるのが嬉しかった。

 これまでリーダー経験のなかった入江。20人のチームをまとめ、社会で多くの人と出会うなかで、「少しは人を動かす力が身についたかな」と振り返る。「熱意を持って一生懸命取り組めば、相手に気持ちが伝わることを知った」とも話す。

 はじめに協力を得た農家で、入江らは収穫作業などを自主的に手伝った。すると、作業の合間に、農家の人たちが、農業への熱い思いを聞かせてくれた。

 野菜販売会はあと2回、全部で4回実施する予定だ。入江らは、野菜づくりに情熱を燃やす農家の人たちの思いも伝えたいと思っている。

読売新聞朝刊 2010年11月27・28日 掲載

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