第4話 施設でのボランティア活動

ひとりの友達として気持ちが通じ合える関係になりたい

市村 卓也(経営・4)

 大学に入ったらボランティア活動をしよう。市村卓也(経営・4)はそう心に決めていた。「大学時代だからこそ今までにはない体験がしたい」と、さっそく知的障害者施設などで活動している「新社会ボランティアサークル」の門をたたいた。

 市村には一つの忘れられない経験があった。小学生の時、知的障害のある同級生がいた。幼い市村にはその同級生のふるまいが理解できないこともあり、ずっと心に引っかかるものがあった。「施設で活動すれば、少しは知的障害を持つ方の気持ちがわかるようになるかも」。そんな思いが市村を駆り立てた。

 施設では週2回、利用者と遊んだり夕食を手伝ったりする。先輩たちは利用者と友達になり、気持ちが通じ合える関係を作っていた。だが市村は、なかなか利用者から「卓也」と名前で呼ばれるような親しい関係にはなれなかった。

 「利用者のことを知るには、もっと自分から関わっていかなければ」と、市村は自らアクションを起こすよう努めた。

 半年ほど経ったある日、テレビを見ながら踊っている利用者にあわせて自分も踊り出したところ、意気投合。次回訪問すると、その利用者が「卓也く〜ん」と駆け寄ってきてくれた。顔と名前を覚えてくれていたのだ。「ボランティア」としてではなく、「友達」として受け入れてもらえたようで、その時の感動を、市村は今も忘れることができない。

五感を使って相手の気持ちを知る大切さを学んだ

 ボランティアクラブで行う知的障害者施設の訪問。利用者との絆ができ始めると、市村卓也(経営・4)は施設での活動を「楽しくてしかたない」と感じるほどになっていった。

 1年次生の秋から1年間はクラブの活動班の班長に。班員と施設職員のパイプ役を務める中で職員と話す機会も増えた。そのなかで、利用者の心身の状況に応じた接し方などを学び、自身の活動の幅を広げることにもつなげていった。

 班員との関わりも深まった。施設での活動に甘えは許されない。互いに真剣に取り組むからこそ、活動に関する考え方がぶつかることもある。後輩への接し方など班の運営についても、しばしば大激論になった。しかし、そんな中で多様な考え方があることを実感。遠慮なくものを言い合える素晴らしい仲間をつくることができた。

 ボランティア活動を通して感じるやりがいは、「一方的な提供ではなく、双方向の関係を築くことだ」と市村は話す。自分が落ち込んでいても利用者の笑顔を見ると癒され、元気がでる。なかには、思いをうまく言葉にできない人もいる。言葉だけでなく、五感をフルに使って相手の気持ちを知る大切さを学んだ。

 卒業後は商社の営業に携わる予定の市村。社会人になっても、日常的に関われるボランティアを続けていきたいと思っている。

読売新聞朝刊 2010年11月13・14日 掲載

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