今年のノーベル物理学賞はどんな内容?~宇宙物理・気象学科 談話会~

2020.12.23

ノーベル物理賞2020受賞者と対象研究
2020年12月10日、オンラインにて、理学部の岸本 真 教授と諏訪 雄大 准教授が今年のノーベル物理学賞を解説する談話会を開催しました。岸本 真 教授と諏訪 雄大 准教授は今年のノーベル物理学賞の研究領域を専門分野としており、その内容について学生にわかりやすく解説しました。

まず始めに、今年のノーベル物理学賞を受賞されたロジャー・ペンローズ氏、ラインハルト・ゲンツェル氏、アンドレア・ゲッズ氏の研究内容を紹介しました。ロジャー・ペンローズ氏は「ブラックホールの形成が一般相対性理論の確固たる予言である事の発見」という研究に対して、ラインハルト・ゲンツェル氏とアンドレア・ゲッズ氏は「銀河系の中心にある超大質量コンパクト天体の発見」という研究に対して賞が与えられました。
時空の構造を完結に表現した図
まず、諏訪 准教授がロジャー・ペンローズ氏の研究について解説しました。
ペンローズ氏は、一般の天体が重力崩壊を起こす事で時空特異点を必ず生み出す事を明らかにしました。重力崩壊というのは天体が自身の重力によってつぶれてしまう現象のことで、アインシュタイン方程式から、球対称な天体が重力崩壊を起こすと特異点が発生することが、数学的な解として知られていました。しかし、それはあくまで数学的な解であって、実際には存在しないのではないかと考えられていました。こうした状況の中、ペンローズ氏は、一天体が球対称という理想的な構造ではなく、実際に存在する形であったとしても、時空特異点が生み出されるという事を明らかにしました。時空特異点はブラックホール時空に必然的に存在するものであり、自然界にブラックホールが存在する可能性を理論的に示すことに成功しました。
続いて、岸本教授がラインハルト・ゲンツェル氏とアンドレア・ゲッズ氏の研究について解説しました。
私たちは薄い円盤のような天の川銀河の中に存在し、その銀河の中心には多数の星が存在しています。ゲンツェル氏とゲッズ氏は私たちのいる銀河の中心付近にある星を観測し、それらが楕円軌道を描いている事を発見しました。この観測結果からダイレクトに、星の軌道の中の太陽半径の50倍以下の狭い範囲に太陽の400万倍ぐらいの質量の天体があることを明らかにしました。このような天体はブラックホールでないと説明がつかないため、天の川銀河の中心にブラックホールが存在すると推測されます。
このような結果がこれまで明らかにされていなかったのは、観測の精度が高くなく、銀河系の中心付近の星の軌道を正確に観察できなかったためです。しかし、望遠鏡で受け取る光の方向測定の精度を上げる補償光学という技術と赤外線を用いた望遠鏡により、星の軌道を観測する事ができ、研究成果を上げられたそうです。現在では複数の赤外線望遠鏡を使いブラックホールがあると思われる場所の付近が調査されているそうです。
私たちがいる天の川銀河を赤外線で撮影した写真
ハワイのケック望遠鏡とチリのVLTの地球上の緯度と銀河中心の方向を比べたもの
最後に学生に向けて、諏訪准教授は「皆さんはこれからどのようなことを勉強し研究したいかを考えていると思いますが、それぞれの分野においてさまざまな進歩があることが実感できたと思います。ノーベル賞など今後もいろんな発見を楽しめるといいと思います」とメッセージを送りました。岸本教授は「エキサイティングな試みが実行されていて、まだわからない事がたくさんある宇宙について、どんどん新しい事がわかってきている。皆さんはそういう時代に生きている。ぜひこれを共有していきたい」と学生と物理学の面白さを共有していきたいという言葉で締めくくりました。

今回は理学部宇宙物理・気象学科の談話会をレポートしました。
今年のノーベル物理学賞はどちらもブラックホールに関係する研究内容でしたが、昨年はブラックホールの影の撮影成功のニュースがあり、とてもタイムリーな内容だと思いました。私たちの生きているこの時代に、今までわからなかった、明らかにされていなかった事が次々と明らかにされているという事を感じる事ができました。理学部の学生だけでなく、様々な学生が物理学の面白さに興味をもって欲しいと思います。

(学生ライター 理学部2年次  老田 将大)
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