カシオペヤ座新星2020(V1391 Cas)が特殊な低温度新星爆発であることを発見:世界2例目のC2分子とCN分子の検出

2021.02.02

図1.新星爆発で作られる物質が、星・惑星系の材料になるイメージ図。新星爆発では、今回発見されたC2分子やCN分子以外にも様々な分子が作られ、それらがもとになって出来るダスト粒子が宇宙に撒き散らされます。こうした物質が、いずれ太陽系のような星・惑星系の材料の一部になったと考えられています。
(クレジット:京都産業大学/NASA/JPL-Caltech)

発表のポイント

  • 新星爆発におけるC2分子およびCN分子の生成は、京都産業大学大学院生・学部生らが2014年に世界で初めて発見した現象(2013年9月20日神山天文台ニュース)であり、新星の爆発メカニズムの解明だけでなく太陽系の起源の解明にもつながる重要な発見であることから、その後も多くの研究者により様々な新星で調査がなされています。
  • このたび、アマチュア天文家と京都産業大学 神山天文台からなる研究グループは、2020年7月にカシオペヤ座で発見された新星(V1391 Cas)を調査し、可視光極大付近の低分散分光スペクトルからC2分子およびCN分子の同時検出に成功しました(新星においては2014年以来史上2例目、V1391 Casでは世界初)。
  • 今回検出に成功したこれらの分子は、約5000度以下の環境でしか存在できません。すなわち、この新星は爆発の材料が多く、通常の新星と比べて大きく膨らんだ結果、温度が下がったと考えられます。今後は、得られたデータなどから、新星爆発で合成される炭素や窒素の同位体比を明らかにすることで、太陽系をつくる原材料の謎に迫る予定です。
  • 観測には、岡山県在住のアマチュア天文家が大きく貢献しており、本成果は、京都産業大学 神山天文台における生涯学習の一環として行ってきた、学外・市民研究者の方との協働の成果です。

研究概要

神山天文台の研究者らは、2020年にカシオペヤ座で発見された新星から、新星において世界2例目となるC2分子(炭素分子)およびCN分子(シアンラジカル分子、炭素原子と窒素原子が結合した不対電子を持つ分子)の検出に成功しました。この度、このことをまとめた論文が米国天文学の学術雑誌 "The Astrophysical Journal" に掲載されることになりました。新星爆発におけるC2分子、CN分子の生成は、本学大学院生・学部生らが2014年に世界で初めて発見した現象であり、その研究を引き継いで粘り強く様々な新星を調査し続けてきた成果です。これは新星爆発の爆発メカニズムの解明だけでなく太陽系の起源の解明にもつながる重要な研究対象ですが、2例目の発見は困難を極めました。観測には岡山県在住のアマチュア天文家の方が大きく貢献しており、神山天文台における生涯教育の一環として行ってきた、学外・市民研究者の方との協働の成果でもあります。

本文

新星とは、二つの恒星が非常に近い間隔で互いに回りあう「近接連星系」と呼ばれる天体で起こる爆発現象です。この近接連星系を構成するふたつの星のうち、ひとつは太陽のような普通の恒星ですが、もうひとつの星は重さが太陽ほどでありながら大きさが地球程度(太陽の1/100程度の大きさ)と非常に小さい「白色矮星」と呼ばれる年老いた天体です。この白色矮星に相手の恒星からガスが流れ込み、白色矮星表面に一定量のガスが蓄積されると、白色矮星表面で「熱核暴走反応」と呼ばれる原子核融合反応が暴走的に生じて、極めて大量のエネルギー(熱)が発生します。こうして膨大なエネルギーを受け取ったガスは「巨大な火の玉」のように膨れ上がり、やがて、ガスを周囲に撒き散らすようになります。爆発当初、火の玉の表面温度は10万度を超えますが、膨張して火の玉が大きくなると次第に温度は下がり、新星が最も明るく輝く頃には1万度程度になります(その時には太陽の10倍以上の大きさにまで膨らんでいると考えられています)。

ところが、新星の中には通常よりさらに大きく膨らんで更に温度が下がってしまう特殊な新星が存在します。そのことを、本学の大学院生たちが2013年に世界で初めて発見し、研究論文として世界に発表しています(2013年9月20日神山天文台ニュース)。本学大学院・理学研究科・修士課程2年次生(当時)だった長島さんと梶川さんは、炭素原子が2つ結合したC2分子(炭素分子)と、炭素原子と窒素原子が結合したCN分子(シアンラジカル分子)が、新星爆発の最中に生成されることを世界で初めて発見したのです(図2)。このような分子は、新星爆発の火の玉が通常よりもずっと低温にならないと生成されません(約5000度以下)。この発見により、新星爆発で生成された分子の元素同位体(例えば炭素原子は、重さが12と13のものが自然界に存在しています。)の存在比率を調べることができるようになりました。その結果から、私たちの太陽系が、過去に起こった新星爆発の放出物を材料の一部として作られた可能性も明らかになっています(2015年2月23日神山天文台ニュース)。このように、低い温度の新星は重要な研究対象なのですが、C2分子とCN分子が作られるほど温度が低くなる新星は非常に稀であり、本学学生らの発見以来、同種の新星は1つとして発見されてきませんでした。

本学神山天文台では、本学学生の研究成果を更に発展させるべく、2014年以降、同様の新星の検出を目指して世界各地の天文台や観測者と協力して様々な新星の観測を行ってきました。しかし、C2、CN分子が作られるような低温度の新星を発見するには至りませんでした。その難しさの原因は、こうした分子はわずか1週間以内で存在の兆候が消え去ってしまうことにあります。神山天文台で観測しようとしても、悪天候によって観測ができない間に、分子生成の兆候が消えてしまうかもしれないのです。しかし、岡山県在住のアマチュア天文家である藤井 貢さんとの協働(図3)が実を結び、2020年8月12日にカシオペヤ座の新星では世界初となるC2、CN分子の存在を捉えることに成功しました。続く8月13日にも分子の存在の兆候が見つかっており、3日間程度でC2分子、CN分子が消え去ることがはっきり示されました。この発見をもとに新星爆発で合成される炭素や窒素の同位体比を明らかにすることで、太陽系をつくる原材料の謎に迫ることができます。本論文の著者の1人であり神山天文台の台長でもある河北教授は「現在、世界の大望遠鏡で得たデータなども同時に解析を進めており、これらのデータから、過去の新星爆発で合成された物質が太陽系の原材料の一部となったことが明らかになりつつあります。この分野の研究では、我々が世界をリードしています。」と研究の進捗を語っています。

また、河北教授は今回の成果の意義について、「まさに星の数ほどある天体の振る舞いを、全て詳しく調べることは、プロの天文学者だけで成し得るものではありません。天文学の世界では昔からアマチュア天文家の方々との連携が行われており、今回の検出もそうした成果のひとつです。本学における社会への知の還元のひとつの形、生涯教育面での成果と考えています。また同時に、本学学生がきっかけを作った研究を更に発展させることができたという意味でも、重要な意味があったと思います。現在、本学の在学生らが、先輩の研究を引き継いで研究を進めています。」と喜びを語っています。

本研究成果は、Fujii, Arai, Kawakita 2021, "Transient Formation of C2 and CN in the Near-Maximum Phase of Nova Cas 2020 (= V1391 Cas)”として、2021年2月1日(世界時)に米国天文学会の天文学雑誌『The Astrophysical Journal』のオンライン版に掲載されました。
図2.新星においてC2分子とCN分子が同時検出されたV1391 Casのスペクトルの時間変化。等級(全体の明るさ)や見られる成分(明るい部分や黒い部分の位置や強度)が日ごとに変化していくことがわかります。2020年8月12日の黄色い矢印の部分にC2分子による吸収(黒くなっている)が見られます。この新星では、3日程度でC2分子やCN分子の兆候が消失してしまうことが明らかになりました。
(クレジット:京都産業大学)
図3.本研究で用いた分光データを取得した藤井貢氏の私設天文台(藤井黒崎天文台)の反射式望遠鏡(口径40cm、F/10)と可視光低分散分光器。
(画像提供:藤井貢氏)

論文情報

雑誌名 The Astrophysical Journal
年・巻・ID(ページ数) 2021, 907, 70(4pp)
論文タイトル

Transient Formation of C2 and CN in the Near-Maximum Phase of Nova Cas 2020 (= V1391 Cas)
「新星V1391 Cas(= V1391 Cas)の極大付近でのC2分子とCN分子の一時的な生成」

著者 藤井 貢 アマチュア天文家(岡山県)

新井 彰 京都産業大学
河北 秀世 京都産業大学

DOI番号 10.3847/1538-4357/abd02e
アブストラクトURL(英語) https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/abd02e
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