続報:アトラス彗星は大彗星になるか?

2020.04.20

先日紹介したアトラス彗星(アトラス彗星は大彗星になるか?)の続報です。3月中旬頃から明るさが停滞し始め、3月下旬には中央集光度が弱くなり始めたことが報告されていました。また3月下旬ころには明るい部分が直線状に伸びたため、彗星核が崩壊したのでは?と言われていました(*1)が、ついに4月上旬には彗星の核が分裂した様子が捉えられました(写真はこちらなど)。アトラス彗星の明るさの推移をみると、3月中旬から明るさが停滞し、3月末頃からは暗くなっていることが確認できます(図1)。今回のアトラス彗星の場合、今のところ比較的大きな核が残っており、完全に粉々にはなっていないようなので、残った比較的大きな核が再び明るくなる可能性もありますが、当初予想されていたマイナス等級まで明るくなりそうにありません。

その一方で、アトラス彗星はなぜ崩壊したのか、という新たな謎が生まれています。過去に同じ母天体から分裂したと考えられている1844年の大彗星は崩壊せずに明るい彗星になりました。アトラス彗星が崩壊した原因として、核の自転速度が速すぎた、昇華温度の低い分子が原因となった、などの可能性が考えられますが、現時点では明らかになっていません。現在、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、世界中の大型望遠鏡の多くが運用を停止しており、アマチュアによる観測がその謎を解く鍵になるかもしれません。

今回のアトラス彗星と似た明るさの推移を見せた彗星に、タイバー彗星(C/1996 Q1)があります。この彗星は、太陽の最接近を通過する半年ほど前に、アトラス彗星と同様に核が直線状に伸びるのが確認され、その後約1ヶ月で拡散し消滅してしまいました。タイバー彗星も1998年に現れたリラー彗星(C/1988 A1)と母天体が同じではないか?と言われており、分裂によって作られた彗星は壊れやすいのかもしれません。

京都産業大学神山天文台では、日本時間2020年4月18日、4月6日、4月14日に、荒木望遠鏡(口径1.3m)でアトラス彗星を撮影しました(図2)。観測は、荒木望遠鏡に搭載した可視光撮像装置(通称:ナスミスイメージャー)とVバンドフィルター(有効波長550nm、半値幅83nm)を用いました。荒木望遠鏡で得られた画像を見ると、淡い部分(コマ)は徐々に大きくなっていることが確認できます。その一方で、彗星の中心部分は、3月中旬は恒星のような強い集光を示していましたが、4月に入るとよりボヤけた弱い集光になっています。また、4月14日の画像の表示スケールを調整すると、分裂した核が確認できます(図3)。分裂した核のより詳細な画像はAstronomy Picture of the Day(2020年4月16日)などでも確認できます。

*1 核の大きさにより太陽から受ける輻射による影響が異なります。小さい核ほど影響を受けやすいため、彗星の核が分裂すると、大きい核はあまり移動しないのに対して、小さい核ほど本体から離れていってしまいます。その為、明るさが拡散してしまます。

図1:アトラス彗星の等級予測(2020年4月14日時点)。各点は観測データを示しており、3月中旬から明るさが停滞し、3月末頃からは暗くなっていることが確認できます。
図の見方:横軸は日付で、縦軸は彗星の等級を示しています(数字が小さい上側ほど明るい)。各点は観測データを示しており、可視等級(黄色の星印)はCOBSに登録されているCCDの観測データ、R,V,Gバンド等級(赤、緑の丸印)はMPCに報告されている観測データを用いました。可視等級の方が明るいのは、バンド等級は特定の波長範囲の明るさの合計なのに対して、可視等級は可視光全体の明るさを合計しているためです。全等級もバンド等級も3本の線は、それぞれ吉田誠一氏(紫)、JPL HORIZONSシステム(灰色)、1884年の大彗星がATLAS彗星と同じ軌道を持つ場合(赤、パラメータはCometography No.2より)の等級の推移予測を示しています。
図2:荒木望遠鏡で撮影したアトラス彗星(左から日本時間2020年3月18日、4月6日、4月14日)。いずれの図も中心の広がった天体がアトラス彗星で、上側が北(North)、左側が東(East)を示します。太陽がある方向をオレンジの矢印で示しており、いずれの日もコマがほぼ太陽と反対方向に伸びていることが確認できます。(クレジット:京都産業大学神山天文台)
望遠鏡:京都産業大学神山天文台 荒木望遠鏡(口径1.3m)
観測装置:ナスミスイメージャー(冷却CCDカメラ、Vバンドフィルターを使用)
画像処理:データ処理、フラット処理、輝度重心を合わせて合成
露出時間:300秒×7フレーム(3月18日)、300秒×5フレーム(4月6日)、300秒×19フレーム(4月14日)
図3:4月14日に荒木望遠鏡で撮影したアトラス彗星の集光部分の表示スケールを調整した画像。通常の彗星は明るい部分が円形で1つだけなのですが、この日のアトラス彗星は矢印の部分に明るい場所が複数個所あることが確認できます。(クレジット:京都産業大学神山天文台)
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