オーロラの光から彗星の起源を探る!ジャコビニ・ツィナー彗星が誕生した環境を解明

2020.04.14

京都産業大学 神山天文台の研究グループらは、彗星から放出されるオーロラの光を用いて、10月りゅう座流星群(旧称ジャコビニ流星群)の母天体であるジャコビニ・ツィナー彗星が彗星の中でも特に二酸化炭素の存在量比が小さいことを初めて明らかにした。本研究成果は、同彗星が他の彗星に比べて温かい領域で形成された可能性が高いことを示唆し、彗星が誕生する環境を知るうえで新たな知見を与えることが期待される。

リリース日:2020-04-14

1.今回の成果ポイント

  • すばる望遠鏡を用いた可視光高分散観測結果から、ジャコビニ・ツィナー彗星に含まれる二酸化炭素の存在量比が、他の彗星に比べて非常に小さいことを初めて明らかにした。
  • 本成果は、ジャコビニ・ツィナー彗星が暖かい領域で形成された可能性が高いことを示唆し、同彗星に高温環境で作られやすい複雑な有機物が豊富に含まれているという先行研究結果とも良い相関を示す。
  • 地球大気にも大量に含まれる二酸化炭素は地上からの直接観測が困難なため、太陽紫外線の影響によって水分子や二酸化炭素分子から作られる特殊な酸素原子が放つ光「酸素禁制線」に着目した今回の研究手法は、彗星が誕生する環境の新たな解明に繋がることが期待される。

2.研究の背景

彗星は、地球に水や有機物をもたらした起源天体のひとつと考えられていますが、現在でもその起源は完全には理解されていません。太陽系誕生の材料となった成分や当時の温度などを探る手がかりとして重要な彗星は、太陽系が誕生した46億年前に、生まれたての太陽の周囲に存在したガスとダスト(塵粒)を含む円盤状の雲(原始太陽系円盤)の中で誕生したと考えられていますが、現在でもその起源は完全には理解されていません。このガス・ダスト円盤の中でも、彗星氷の主成分である水(H2O)が凍るような低温度になっている場所(宇宙空間のような真空では、およそマイナス120℃以下)で彗星は誕生したはずです。そのため、多くの彗星は似たような氷の組成比をもっています(注1)。

3.研究の内容

今回、京都産業大学神山天文台と国立天文台ハワイ観測所の研究者からなる研究チームは、すばる望遠鏡に搭載した高分散分光器HDSを用いて、ジャコビニ・ツィナー彗星の誕生の謎を探るための観測を行いました。研究者チームは、彗星核に含まれる分子においてH2Oに次いで豊富に含まれる二酸化炭素(CO2)がH2Oよりもずっと低温度で昇華して失われてしまう(CO2の宇宙空間での昇華温度は約マイナス200℃)ことに注目し、CO2:H2Oの成分比を観測から明らかにすれば、ジャコビニ・ツィナー彗星の氷が出来た環境が暖かかったかどうかを明らかにできるのではないかと考えました。
しかし、CO2は地球の大気にも大量に含まれているため、彗星が発するCO2の光は地球の大気に吸収されてしまい、観測が邪魔されてしまいます。そこで、研究チームは、H2OやCO2が太陽紫外線で壊れてできる特殊な酸素原子に着目しました(図2、図3)。この酸素原子は通常よりも高いエネルギー状態に励起されており、光を出すことで安定な低いエネルギー状態へと遷移します。このときに出す緑や赤の光を「酸素禁制線」と言います。この光に最も近いのが、地球のオーロラ発光で見られる緑や赤の光です。彗星のコマ(放出されたガスやダストが彗星核を取り巻く領域)では、H2Oから壊れてできた酸素原子は赤の禁制線を出しやすく、逆にCO2から壊れてできた酸素原子は緑と赤の禁制線を同程度に放出するという特徴があります。そのため、酸素禁制線の緑と赤の光の強さを比べれば、CO2:H2Oの比率を調べることができます。
その結果、ジャコビニ・ツィナー彗星はこれまでに観測された彗星の中でも、特にCO2の存在量比が小さい彗星であることが判明しました。通常の彗星はH2Oに対して数%~30%程度ですが、ジャコビニ・ツィナー彗星は1%ほどしかCO2を含んでいませんでした。一酸化炭素(CO)はCO2よりもさらに低い温度で蒸発して失われてしまうこのことから、同彗星の過去の観測で得られていたCOの成分比が低めであることとも整合的な結果となりました。今回の観測結果だけでは具体的な温度までは正確には明らかにできていませんが、今回得られた少ないCO2の存在量比とCO2の真空中での昇華温度から、ジャコビニ・ツィナー彗星ができた場所の温度は、およそマイナス200℃~マイナス120℃ではないかと考えられます。
また研究チームは、ジャコビニ・ツィナー彗星ができた場所について、太陽系が誕生した際に木星や土星といった大きな惑星ができる際に付随していた「周惑星系円盤」という小さなガス・ダスト円盤ではないかと考えています(図4)。太陽系全体をつくったガス・ダスト円盤の中で大きな惑星が誕生する際、さながら太陽系全体のミニチュアのように、小さなガス・ダスト円盤が惑星の周りに存在し、衛星が誕生する現場となっていた可能性があります。この周惑星系円盤は、太陽から同じ距離の原始惑星系円盤中のガスやダストよりも暖められていたため、そこで誕生した彗星は、ジャコビニ・ツィナー彗星のようにCO2が少なく、複雑な有機物が豊富な彗星になったと推測されます。

4.今後の展望

今回の研究から、ジャコビニ・ツィナー彗星の謎を一つ明らかになりましたが、まだまだ多くの謎が残されており、その解明に向けて研究を続けています。また、ジャコビニ・ツィナー彗星と同じような特徴を持つ惑星を新たに見つけ出すことで、太陽系初期における惑星の形成環境の解明に繋がることが期待されます。

論文情報

タイトル High-resolution optical spectroscopic observations of comet 21P/Giacobin-Zinner in its 2018 apparition
(2018年回帰のジャコビニ・ツィナー彗星の可視光高分散分光観測)
著者 新中善晴 (京都産業大学)
河北秀世 (京都産業大学)
田実晃人 (国立天文台ハワイ観測所)
雑誌 The Astronomical Journal (アストロノミカル・ジャーナル)
発行年月 2020年4月13日(世界時)(オンライン)
DOI(英語) 10.3847/1538-3881/ab7d34

お問い合わせ先
内容について:京都産業大学 神山天文台 河北 秀世 教授
〒603‐8555 京都市北区上賀茂本山
E-Mail: kawakthd@cc.kyoto-su.ac.jp

取材について:京都産業大学 広報部
Tel.075-705-1411
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