遠藤研究室は、オルガネラ(細胞内器官)間のリン脂質輸送に係るヒトのタンパク質「VAT-1」の構造を決定し、その働きを解明しました。

生命活動に必要なエネルギーを産生するなど、ヒトの健康に重要とされるミトコンドリアの機能に必須の特定組成のリン脂質は、水に溶けない性質を持っています。このリン脂質が、水に満たされた細胞内でどのように脂質でできた生体膜から生体膜へと特異的に輸送されるのかという「細胞内の脂質配送」の仕組みは、まだ十分にわかっていない重要な問題です。当研究室ではこれまで、可溶性の脂質結合タンパク質Ups1-Mdm35複合体が、ミトコンドリア内の外膜と内膜の間を往き来して脂質を運ぶ仕組みや、ミトコンドリアと小胞体が近接して作るコンタクト部位を介してミトコンドリアと小胞体の間で脂質が輸送される仕組みを明らかにしてきました。今回、ヒトを含む哺乳動物細胞で小胞体からミトコンドリアにリン脂質を運ぶことが示唆されている可溶性タンパク質VAT-1について、その精密構造をX線結晶解析により決定しました(本学タンパク質動態研究所と愛媛大学,山形大学との共同研究)。得られた精密構造に基づいて様々な変異体をつくり、試験管内で脂質輸送活性を調べることで、VAT-1が脂質を運ぶメカニズムを明らかにしました。VAT-1には脂質が結合するポケットがあり、その入り口には二つのチロシン残基があって脂質の出入りを制御できることがわかりました。またVAT-1には突き出した疎水性のループがあって、これがVAT-1の小胞体やミトコンドリアの外膜への結合を助け、脂質の引き抜きや挿入を促すことも明らかになりました。こうした仕組みは他の脂質輸送タンパク質では見られなかったもので、膜間脂質輸送の新しい仕組みの発見と言えます。


この論文は、Journal of Biological Chemistry誌に掲載されました。

URL https://www.jbc.org/content/early/2020/01/31/jbc.RA119.011019.abstract

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