理学部 物理科学科 伊藤豊教授がHg系銅酸化物超伝導体のスピン帯磁率と伝導面の枚数の相関を発見

2019.11.19

研究成果

理学部物理科学科の伊藤豊教授は,超電導センシング技術研究組合の安達研究員と四国電力総合研究所の小川研究員との共同研究で,Hg系の多層銅酸化物高温超伝導体の超伝導を担う銅酸素(CuO2)平面の銅サイトのスピンナイトシフトの値と単位胞内に含まれるCuO2平面の枚数の偶奇性に相関があることを発見したと発表しました。

この研究成果は,英国物理学会出版局IOP Publishing発行の学術誌Journal of Physics : Conference Seriesの論文として2019年10月15日付けオンライン版に掲載されました。

掲載論文

Title : Uniform hole doping in HgBa2Ca2Cu3O8+δ studied by 63Cu NMR
邦題 : 63Cu NMR で研究されたHgBa2Ca2Cu3O8+δの一様ホールドーピング 
Authors : Y. Itoh, A. Ogawa and S. Adachi
著者 : 伊藤 豊,小川 明宏,安達 成司
J. Phys. : Conf. Series 1293, 012010 (2019)
DOI : 10.1088/1742-6596/1293/1/012010
URL:https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1742-6596/1293/1/012010

背景

Hg系銅酸化物高温超伝導体は,1980年代中期に発見されたセラミックス超伝導体(銅と酸素のイオンが正方格子を組んだCuO2平面が層状に結晶格子を組んだ擬2次元平面構造をもつ化合物)の中で最高の超伝導転移温度Tcをもつ物質群です。単位胞内にCuO2平面を1,2,3,4,5枚を含む物質群ホモロガスシリーズを形成しています(図1)。物質全体(バルク)を測定する実験手法では,磁性イオンを単位胞内に複数含む物質の各イオンの磁性を分離して知ることは困難ですが,核磁気共鳴(NMR)法などの局所的なプローブを用いることで個別の値を知ることが可能となります。今回, 銅アイソトープ63Cuを濃縮した三重層超伝導体Hg1223に対して63Cu NMRスピンエコー法を用いたサイト選択的な測定をおこなったところ,それまでに得られていたHg系のデータと総合して新しい発見がありました。

研究概要

最適キャリア濃度にあるHg多層系における単位胞内のCuO2面の枚数nに対して63Cu核の室温ナイトシフトの面内成分63Kspinab(RT)をプロットしたところ,面の数の偶奇性によって大きさに違いがあり,枚数依存性に2つの傾向があることがわかりました(図2)。単位胞内にCuO2平面を偶数枚もつ系の方が奇数枚もつ系よりも小さい値を示す傾向があったのです。ナイトシフトは個々の磁性イオンのスピン帯磁率に比例した物理量です。超伝導になる前の常伝導状態の伝導面内には電子のスピン対が仮形成されるという説がありますが,それに加えて多層系では面間でもスピン対が形成されつつあることを示唆する結果と考えられます。単位胞内の個々のCuO2面のスピン帯磁率の値を知ることで,伝導電子間の有効相互作用の次元性について知見を深めることができました。

用語解説

ナイトシフト…金属中の原子核スピンのNMR共鳴周波数が孤立原子核スピンの共鳴周波数からずれることを最初に発見したWalter Knightにちなんで名付けられた物理量で,伝導電子や磁性イオンの不対電子の帯磁率に比例している。物質の種類や性質によって異なり,異方性や温度変化も示す。

スピン帯磁率…時間的に一定な均一な静磁場を外から物質にかけたときのその物質の電子スピンの集団が帯びる磁場の強さ(磁化)を測り,磁化を静磁場の大きさで割り算した物理量

図1. 左から右に向けてHg系超伝導体の単位胞内のCuO2平面の枚数nが1,2,3枚の結晶構造。
図2. Hg系超伝導体の単位胞内のCuO2平面の枚数nに対する63Cu核の室温スピンナイトシフトの面内成分63Kspinab(RT)。Hg1201は単層(n = 1),Hg1212は二重層(n = 2),Hg1223は三重層(n = 3),Hg1234は四重層(n = 4),Hg1245は五重層(n = 5)。
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