生命科学部 木村 成介 教授と大学院生の天野 瑠美さんらの共同研究グループが、中学校の理科教育における新たな生徒実験を発案

2019.08.08

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ニュース研究総合生命科学部生命科学部

生命科学部産業生命科学科の木村 成介 教授と天野 瑠美さん(生命科学科・博士後期課程3年次)らの共同研究グループは、アブラナ科植物のRorippa aquatica(以下、R. aquatica)を用いて、中学校理科で生物の繁殖について学習するための新しい実験を発案しました。
本研究成果は、2019年8月発行の「生物教育」に掲載され、掲載号の表紙にも選ばれました。「生物教育」は日本生物教育学会の機関誌で、生物教育の理論と実践に関する論文が掲載されます。表紙には、近年の生物分野の教育において注目される生き物や事柄が、写真を添えて毎号取り上げられます。

研究の背景

中学校の理科では、生物の有性生殖と無性生殖について学習します。無性生殖の中でも、植物の根や葉、そして茎から新しい個体を再生するものは「栄養生殖」と呼ばれます。これまで、中学校の理科の教科書では、栄養生殖を学習するための教材にとして、イチゴやジャガイモ、そしてコダカラベンケイソウ(図1)が紹介されてきました。これらの植物でみられる栄養生殖は、あらかじめ準備された分裂組織が活性化されて新しい個体を形成するものです。しかしながら、葉や根など、完全に役割が決定された器官に新しく分裂組織を形成して再生を行なうタイプの栄養生殖もあります。これまで紹介されてきた教材では、このタイプの栄養生殖については学ぶことができませんでした。

図1 栄養生殖を行なうコダカラベンケイソウとRorippa aquatica.

図1. 栄養生殖を行なうコダカラベンケイソウとRorippa aquatica
(A)コダカラベンケイソウ.(B)新しい個体を形成しているコダカラベンケイソウの葉.葉の縁に分裂組織があらかじめ準備されており,新しい個体が形成される.矢印の部分は新しい個体を示す.形成された新しい個体は,やがて葉から脱離し,1つの個体として生育する.(C) R. aquatica.(D)新しい個体を再生しているR. aquaticaの葉片.1枚の葉片に対して,基部側(根元に近い側)の断面からのみ新しい個体が再生する.矢印の部分は新しい個体を示す.(E)花を咲かせたR. aquatica.枠内は花の拡大図を示す.スケールバーはそれぞれ(C)が5cm,(D)が2cm,(E)が10cm,(E)の枠内の花の写真が5mmを示す.郡司,天野ら(2019)の図1を一部改変.

発表内容の概要

研究グループは、新しく分裂組織を形成するタイプの栄養生殖を観察するための教材としてR. aquatica を提案することにしました。R. aquaticaはアブラナ科イヌガラシ属に属する植物で、北米の湖畔に生育し、陸上でも水中でも生育できる水陸両生を示します。日本の水草ショップでは「ウォータナスタチウム」という名称で販売されています。R. aquaticaは花を咲かせることはできますが、何らかの原因で種子をつけることができません。その代わり、水流などの影響で葉がちぎれると、葉の断面に分裂組織を形成して新しい個体を再生します。新しい個体が完全に再生しきるまでの期間は2週間程度です。研究グループは、R. aquaticaが新しく分裂組織を形成するタイプの栄養生殖を示すこと、そして、新しい個体の再生が比較的短期間で再生を完了することに着目し、栄養生殖を学習するための新たな教材としてR. aquaticaを利用できると考えました。
学校教育で実施される実験の条件の1つとして、「作業が簡単であること」が挙げられます。そこで、まず始めに、R. aquaticaの栄養生殖の過程を簡単に観察することを目的としました。様々な条件でR. aquaticaの葉を培養した結果、ブラスチック製のバットに水道水を含ませたペーパータオルを敷き、切断したR. aquaticaの葉を並べ、乾燥を防ぐために食品用のラップフィルムをかけるだけで、再生の様子を経時的に観察できることを明らかにしました(図2)。
次に、R. aquaticaの教材としての有効性を検証するため、東京学芸大学付属小金井中学校の3年生(2017年9月当時)にご協力いただき、授業実践を実施しました。授業での実験では、プラスチック製のバットと食品用のラップフィルムの代わりに、フタ付きのプラスチック製のシャーレを使用しました(図2)。培養開始後は数日おきに観察を実施し、全ての生徒が2週間以内に新しい個体の再生を観察することができました。授業後のアンケート調査では「葉から根や葉が生えるような植物がいるのを知って驚いた」、「無性生殖のふえる様子がよくわかった」などの感想が寄せられ、76%の生徒が「授業を通じて生物の生殖に興味をもった」と回答しました。さらに、「違う条件でも生育させてみたい」などの発展的な問いも見受けられました。生徒全員が観察に成功し、生物の生殖に対する理解を促すだけでなく、生徒の興味関心を引き出すことができたことから、R. aquaticaの教材としての有効性を実証することができました。

図2 Rorippa aquaticaの栄養生殖を観察する方法.

図2. Rorippa aquaticaの栄養生殖を観察する方法
R. aquaticaの葉をハサミなどで縦幅1.5 cm程度に切断し,水道水を含ませたペーパータオルを敷いたプラスチック製のバットに並べ,乾燥を防ぐために食品用のフィルムラップをかける.プレスチック製のバットと食品用のフィルムラップは,フタ付きのプラスチック製シャーレでも代用できる.室温で2週間ほど静置することで,葉の断面から新しい個体が再生する様子を観察することができる.

今後の展開

近年、木村 成介 教授の研究室で実施されている研究により、R. aquaticaの再生には植物の成長を制御する植物ホルモンと呼ばれる物質が関係することがわかってきました。今回「生物教育」に掲載された論文の授業実践は中学校理科の「生命の連続性」という単元に基づいて実施されましたが、高等学校の生物の授業では植物ホルモンによる植物の成長の制御について学習します。研究グループは、今後、R. aquaticaの栄養生殖を用いて植物ホルモンの作用を学べるような高等学校の生物の授業の開発も検討していきたいと考えています。

掲載論文と著者

「アブラナ科植物Rorippa aquaticaの再生能力に注目した栄養生殖の教材化と授業実践」
生物教育 第60巻 第3号 137〜147ページ(2019年)

著者
郡司 玄(東京学芸大学)天野 瑠美(京都産業大学)、金子 真也(東京学芸大学付属小金井中学校)、Ferjani Ali(東京学芸大学)、木村 成介(京都産業大学)
※下線は共同第一著者、所属は論文の投稿時のもの

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