アフリカツメガエル未受精卵がより短時間で起こす細胞死に伴う細胞内タンパク質およびATPの動態を解明

2019.07.02

記者に研究成果を発表する佐藤 賢一教授
京都産業大学生命科学部の佐藤賢一教授とトクマコフアレクサンデル研究助教らの研究グループが、
アフリカツメガエル未受精卵がより短時間で起こす細胞死に伴う細胞タンパク質およびATPの動態を明らかにしました。
今回、その研究成果を京都大学記者クラブにて、記者説明会を行いました。
【本件のポイント】 
  • アフリカツメガエル未受精卵は受精により発生を開始する。一方、受精できなかった未受精卵は1〜2日がかりでアポトーシス(プログラム細胞死)を実行してしまう。
  • 本論文は、アフリカツメガエル未受精卵がより短時間で起こす細胞死〜オーヴァーアクチベーションとよぶ〜に焦点をあて、その試験管内再構成実験系の構築および生化学的性状解析を行った結果について報告するものである。
  • 過酸化水素が濃度依存的に、アフリカツメガエル未受精卵に対してオーヴァーアクチベーション様の表層構造の変化および膨化をもたらすことを見出した。また、過酸化水素処理を受けた未受精卵内において、酸化ストレスマーカのリポフシンの増加、可溶性タンパク質量およびATPの減少が見られることも分かった。
  • 以上の結果は、オーヴァーアクチベーションによるアフリカツメガエル未受精卵の死のメカニズムを明らかにすること、さらにはアフリカツメガエルやヒトなどの脊椎動物の卵細胞がもつ生物学的機能をよりよく理解することに貢献するものである。
リリース日:2019-07-02

背景

アフリカツメガエルは両生類の一種で体外受精生物種、私たちヒトは哺乳類の一種で体内受精生物種である。このようにカエルとヒトには大きな違いがある一方、脊椎動物かつ四足動物に属すること、卵細胞が受精可能な状態にあるときの細胞周期が「第二減数分裂中期」であることなど、生物学上の共通項も多くある。このことや、アフリカツメガエルがもつ卵細胞が直径約1mmという大きさに恵まれていること(ヒトをはじめとする多くの哺乳類はその数分の1以下のスケール)、その飼育や管理が簡便であることなどから、アフリカツメガエル卵細胞は、卵の形成、成熟、受精、ならびに発生開始、および細胞周期制御やアポトーシスなどを研究するための優れた世界標準モデルとして長年研究対象となっている。

内容と成果

アフリカツメガエルの未受精卵(メス体内の卵巣にある未成熟卵母細胞がホルモンの働きを受けて成熟し、受精可能な状態となって体外に排出・産卵されたもの)は、数時間以上受精することがなかった場合、自発的活性化反応を起こして受精不能となり、さらにはアポトーシスと呼ばれる数十時間〜2日がかりのプロセスを経て死に至ることがわかっている。未受精卵の中には、この現象とは別に、より短時間の受精していない状況下で未卵が数十分から数時間という短いあいだに自発的活性化反応を起こして死に至るものがある。この現象をオーヴァーアクチベーションと呼ぶことにして、その発生メカニズムを明らかにするための試験管内再構成を試みた。その結果、過酸化水素の濃度および処理時間依存的なオーヴァーアクチベーション様反応を再構成することに成功した。また、この実験系のもとで酸化ストレスマーカであるリポフシンの細胞内濃度上昇、細胞内タンパク質およびATPの減少といった、アポトーシス性の細胞死に付随する生化学的変化を捉えることに成功した。

今後の展望

以上の結果は、オーヴァーアクチベーションによるアフリカツメガエル未受精卵の死のメカニズムを明らかにすること、さらにはアフリカツメガエルやヒトなどの脊椎動物の卵細胞がもつ生物学的機能をよりよく理解することに貢献するものである。

論文タイトル

英:Biochemical hallmarks of oxidative stress-induced overactivation of Xenopus eggs
和:アフリカツメガエル卵細胞の酸化ストレス誘導性オーヴァーアクチベーションおよびその生化学的性状

著者
トクマコフ アレクサンデル(京都産業大学)
粟村 美咲(京都産業大学(2019年3月卒業))
佐藤 賢一(京都産業大学)

責任著者
トクマコフ アレクサンデル(京都産業大学)

事業・研究領域・研究課題

  • 神戸大学バイオシグナル総合研究センター平成28年度共同利用研究課題(281027)研究代表者:トクマコフ アレクサンデル
  • 日本学術振興会科学研究費補助金・基盤研究C(15K07083)
研究代表者:佐藤 賢一 

参考図

図1 アフリカツメガエルの(a)未受精卵、(b)アポトーシス卵、(c)オーヴァーアクチベーション卵、(d)受精による活性化卵。(e)アフリカツメガエルの未受精卵の集団にオーヴァーアクチベーション卵(矢印)が混在している様子。
図2 アフリカツメガエル未受精卵の過酸化水素処理(100 mM)時間経過に伴う(a)表層構造の変化の写真、(b)表層構造の変化の定量データ、および(c)未受精卵オーヴァーアクチベーションに対する過酸化水素の濃度依存性(0-100 mM)。
図3 アフリカツメガエル未受精卵におけるリポフシン(酸化ストレスマーカ)の増加。(a)細胞質画分及び顆粒画分を用いたスポットアッセイ、(b)スポットアッセイデータの定量化グラフ、(c)エンドソーム画分のリポフシン染色像。
図4 アフリカツメガエル未受精卵における過酸化水素誘導性のオーヴァーアクチベーションに伴う(a)細胞内タンパク質量、および(b)ATP量の変化。
お問い合わせ先
研究に関すること:
佐藤 賢一 教授(サトウ ケンイチ) kksato@cc.kyoto-su.ac.jp
トクマコフ アレクサンデル 研究助教 tokmak@cc.kyoto-su.ac.jp

取材について:京都産業大学 広報部
Tel.075-705-1411
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