総合生命科学部 吉田 貴徳 研究助教、河邊 昭 准教授と東京大学の共同研究により、植物の核ゲノムへ入り込んだ塩基配列のDNAメチル化修飾による制御機構が報告されました

2019.03.25

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ニュース研究総合生命科学部生命科学部

概要

真核生物では、細胞小器官(オルガネラ)のうち葉緑体とミトコンドリアは共生に由来すると考えられており、独自のゲノムを持っていますが共生のもととなった生物に比べると現在のオルガネラゲノムは非常に小さく、多くの遺伝子は核ゲノムに移ったと考えられています。オルガネラゲノム由来のDNA断片の核ゲノムへの移行は現在も起こっている現象です。本研究では、植物の核ゲノムに存在するオルガネラ由来DNA配列について、配列の進化やエピゲノム情報をバイオインフォマティックな手法で解析しました。その結果、核ゲノムへの移行が最近起こった配列ほどDNAメチル化される傾向があり、その後メチル化レベルは低下することを見出しました。変異体のゲノムワイドなメチル化の解析より、維持メチル化の機構とRNA依存的DNAメチル化の機構の両方が関与しており、配列の相同性に依存したメチル化機構の存在が示唆されました。これらの結果は、核ゲノムへ移行したオルガネラ由来配列がエピジェネティックな修飾により抑制され、進化的な時間の経過とともに受容される過程を示していると考えられ、外部からのDNAの挿入などに対する防御機構の存在を示唆しています。

背景

真核生物のミトコンドリアや葉緑体といったオルガネラ1は、祖先における細胞内共生に由来します。そのため、ミトコンドリアや葉緑体は現在でも共生前の細菌に由来する独自のゲノム2を持っています。しかし、共生関係が成立する過程で多くの遺伝子が核ゲノムへと移行しており、現在のオルガネラゲノムにはそれぞれ100前後の遺伝子しか残っていません。このような遺伝子の移行は、オルガネラゲノム由来のDNAが遺伝子を含んだ形で核ゲノムに取り込まれることによって起こります。近年のゲノム科学の進展により、このようなオルガネラゲノムから核ゲノムへのDNAの移行は共生の成立過程にとどまらず、現在も継続的に起きていることが分かって来ました [1]。オルガネラからやってくるDNA断片は、核ゲノムにとっては外来のDNA、いわば「よそ者」です。ごく少数は核ゲノムでも機能を獲得しゲノム進化の素材となる可能性がある一方、大多数はゲノム安定性を損ねる有害な効果を持つと考えられます [2,3]。これらのオルガネラゲノム由来のDNA断片が、細胞核内にある核ゲノムに移行した際にどのように制御・抑制され、最終的に核ゲノムに受容されていくのかについては未解明な点が多く残っています。本研究では、植物の核ゲノムに存在する葉緑体ゲノム由来のDNA断片がDNAメチル化修飾を受けることに着目し、このような修飾が進化スケールの時間の経過とともにどのように変化するのかを解析しました。

研究手法と結果

今日では様々な植物の全ゲノム情報を利用することが可能です。公共のデータベースに蓄積されている膨大なデータを、情報科学的な手法で解析するバイオインフォマティクスという分野が、いま大変な勢いで発展しています。このような手法を用いることで、蓄積されたデータの中から、新たな知見を得ることができます。私たちはこのバイオインフォマティックな手法を用いて、オルガネラゲノムと核ゲノムのゲノム情報が揃っている17種の植物について、核ゲノムでのオルガネラ由来配列の塩基置換パターンを解析しました。オルガネラ由来配列のDNA変異は特にシトシンからチミンへの変化に偏って起きていましたが、進化的に長い時間が経つとその偏りがなくなっていく傾向を見つけました。塩基置換の偏りに関連する要因として、シトシンのメチル基による修飾(DNAメチル化3修飾)が挙げられます。データが豊富なシロイヌナズナやイネについて、オルガネラ由来配列のDNAメチル化パターンをメチローム4データから解析し、進化的スケールの時間経過でメチル化がどのように変化するのか調べると、興味深いことに移行後比較的新しい配列は強くDNAメチル化されているのに、時間の経過とともにメチル化レベルが低下していることを見出しました(図1)。変異体のDNAメチル化データの解析から、DNAメチル化には維持メチル化とRNAによるDNAメチル化の2つの機構が関与していることが示唆されました。

これらの結果は、「よそ者」として入り込んだオルガネラ由来配列が、進化的な時間スケールで徐々に核ゲノムに受容されていく過程を表していると考えられます(図2)。DNAメチル化は核ゲノムに存在するトランスポゾンの抑制や、ゲノム安定化に関与することが分かっています。移行後まもないオルガネラ由来のDNA配列は、このDNAメチル化修飾を受けて発現が抑制されている状態にあると考えられます。しかし、数百万年といった進化スケールの時間が経つにつれて徐々にDNAメチル化レベルは低くなり、古いものはあまりメチル化されなくなります。これは、十分な時間の経過の後残ったオルガネラ由来配列が核ゲノムの一部となり、もはやメチル化修飾を受けなくなるためかもしれません。

図1. モデル植物のシロイヌナズナとイネの核ゲノムに移行したオルガネラ由来の配列のDNAメチル化修飾のパターン。塩基配列はシトシン(C)、グアニン(G)、アデニン(A)、チミン(T)で構成され、そのうちのシトシンがDNAメチル化修飾を受ける。並び方のパターンでシトシンをCG、CHG、CHH(HはA、T、またはC)に分類して解析する。黒い点は移行後新しいオルガネラ由来配列を示し、青、赤となるに従って移行のあと長い時間が経過した配列グループを示す。外れ値のあるシロイヌナズナCGメチル化を除き、進化的スケールの時間の経過とともにDNAメチル化が低下することがわかった。
図2. 今回の研究で明らかになった、オルガネラ由来DNA配列の核ゲノムでのDNAメチル化と進化スケールでの変化。

著者から一言

人間社会でも「よそ者に冷たい」などという言い方をしますが、生物の核ゲノムも、オルガネラから来たDNAを数百万年*になるかと思われる時間をかけて「身内」として受容しているのではないかと想像すると、普段考えることのないゲノム進化の研究も、興味深く身近なものに感じられるのではないでしょうか。

*d = 2mtより、オルガネラゲノムDNAとの分岐時間tは、遺伝的距離(d)を突然変異率(m)の2倍で割った値。m = 10-8〜10-9を仮定する。

謝辞

本研究は、文部科学省 科学研究費補助金(特別研究員奨励費)(若手研究)、国立遺伝学研究所公募型共同研究(NIG-JOINT)、私立大学戦略的研究基盤形成支援事業「植物における生態進化発生学研究拠点の形成 -統合オミックス解析による展開-」の支援を受けました。

用語

  1. オルガネラ:細胞小器官。真核生物の細胞の中には、大部分の遺伝情報を伝える核ゲノムが存在する核や、細胞内共生に由来するミトコンドリア、葉緑体といったオルガネラが存在している。
  2. ゲノム:その生物の遺伝情報全てを指してゲノムと呼ぶ。ウィルスなど一部を除いて、生物のゲノムはデオキシリボ核酸(DNA)により構成される。核やオルガネラに存在するゲノム情報を指す場合は特に「核ゲノム」、「オルガネラゲノム」などと呼ぶ。
  3. DNAメチル化:DNAのシトシンがメチル基によって修飾されること。ヒストン修飾と合わせてエピジェネティックな修飾の主要な構成要素の一つ。
  4. メチローム:ゲノム全体にわたるDNAメチル化状態、またはその解析のことを指す。

掲載論文タイトルと著者

タイトル:Genome defense against integrated oranellar DNA fragments from plastids into plant nuclear genomes through DNA methylation.
著者:Takanori Yoshida, Hazuka Y. Furihata, Taiko Kim To, Tetsuji Kakutani, Akira Kawabe
掲載誌:Scientific Reports (https://doi.org/10.1038/s41598-019-38607-6 )
掲載日:2019年2月14日

本文中引用

  1. Timmis JN, Ayliffe MA, Huang CY, Martin W. Endosymbiotic gene transfer: organelle genomes forge eukaryotic chromosomes. Nature Reviews Genetics. 2004;5:123–35.
  2. Yoshida T, Furihata H, Kawabe A. Analysis of nuclear mitochondrial DNAs and factors affecting patterns of integration in plant species. Genes Genetic Syst [Internet]. 2017;92:16–00039. Available from: http://www.jstage.jst.go.jp/article/ggs/advpub/0/advpub_16-00039/_article
  3. Yoshida T, Furihata HY, Kawabe A. Patterns of genomic integration of nuclear chloroplast DNA fragments in plant species. DNA research : an international journal for rapid publication of reports on genes and genomes. 2014;21:127–40.
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