神山天文台、古典新星V339 Del爆発の見えない姿を世界で初めて暴く!

2019.02.15

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ニュース研究理学部天文台
望遠鏡の空間分解能(どこまで細かく見えるか?という能力)は、その望遠鏡の口径に比例しています。実際には地球の空気が邪魔をしてボケてしまいますが、地球大気の影響を受けないハッブル宇宙望遠鏡のような特別な望遠鏡を用いても、やはり限界があります。それでは、そうした限界を超えて、もっと更に細かい天体の構造を観測しようとしたら、どうすればよいのでしょうか?
そのための答えのひとつが、「高分散・線偏光分光観測」と呼ばれる観測手法なのです。「線」は英語では”line”(ライン)と言い、ここでは原子や分子が吸収・放出する特定波長の光を意味します。こうした光について、光の波の性質である「偏光」(図1)を測定するという特殊な技術が「線偏光分光観測」です。「高分散」というのは、細かく色を(光の波長を)分けるという意味です。
今回、神山天文台では新星爆発という天体爆発現象の初期の様子を、この高分散・線偏光分光観測によって明らかにしました。観測に用いた天体観測装置はVESPolA(ベスポラ)と名付けられており、神山天文台で開発した非常に特殊な観測装置です(図2)。可視光線波長の光を8,000色に分けることができ(波長分解能R = 8,000)、かつ、光の直線偏光を測定することができます(注1)。高分散・線偏光分光観測手法はたいへん高度な観測技術を必要とし、観測やデータ処理も複雑なのですが、普通の撮像観測(画像)では単なる「点」としてしか写らない非常に遠方の天体でも、この観測手法によって、その天体の空間的な広がりや構造を解明できます。本装置は、本学大学院理学研究科・博士後期課程の学生であった新崎貴之くん(2014年度修了)が、当時、本学理学部の准教授であった池田優二博士(現在、神山天文台・客員研究員/フォトーコーディング代表)と一緒に開発を進めた特殊な観測装置で、現在でも神山天文台において大学院生を中心に改良が続けられています。
新星爆発は、白色矮星と呼ばれる地球サイズ(にもかかわらず太陽程度の質量を持つ)の高密度天体で生じる爆発です。白色矮星が普通の太陽のような星と近接連星(注2)になっている場合、普通の星からガスが白色矮星表面に降り積もり、一定量が溜まると爆発的な核融合反応が生じてガスが吹き飛びます。爆発によって放出されたガスはやがて大きなサイズにまで広がりますが、爆発初期においては非常に小さく、通常の撮像観測で爆発放出物の空間分布を明らかにすることは不可能です。
神山天文台では、口径1.3m荒木望遠鏡に取り付けた可視光高分散偏光分光器VESPolAを用いて、2013年8月14日に「いるか座」に現れた新星(V339 Del)を観測しました(図3)。爆発の翌日から7日間にわたって毎晩の観測が実施され、その結果、新星爆発発生直後の放出物の様子が明らかになりました。その結果によれば、新星爆発物は図4のように、ゆっくりと膨張するトーラス状(あるいはドーナツ状)の爆発放出物と、後から速い速度で球対称に膨張してくる成分との、2つの成分からできている可能性が強く示唆されました。これらの2つの成分は、爆発から2~3日後には衝突を起こし、その結果、後から出てきた球対称な膨張成分はトーラスの空いている方向から双極的に吹き出すことになったと考えられます(図4)。こうした激しい衝突が起こると、新星からガンマ線など高エネルギーの電磁波が放射されることが分かっており、新星V339 Delの先行研究とも矛盾しません。高分散・線偏光分光観測によって、こうした新星爆発初期のくわしい状況が明らかになったのは、世界で初めての成果です。
このように、通常の撮像観測では画像として捉えられない小さな空間スケールの天体構造を明らかにできる点が、高分散・線偏光分光観測の最大の特徴です。今回、その特徴を最大限に活かし、世界で初めて、爆発直後からの新星爆発放出物の変化を明らかにできました。研究を推進した神山天文台の新中善晴研究員は「今後もVESPolAの特徴を活かして、新星爆発の爆発初期における爆発放出物の時間変化を、神山天文台で集中的に研究してゆきたい」と語っています。

注1:現在では、VESPolAの波長分解能は更に改良されており(波長分解能20,000)、また、円偏光の測定機能が追加されています。

注2:2つの恒星が互いの万有引力で引き合いながら互いのまわりを周る「連星」において、2つの恒星の距離が非常に近い場合を「近接連星」と言います。互いが近くに存在するためにガスを共有したり、一方から他方へガスが流れ込むことによって大規模な増光現象が起きることがあります。

図1: 電磁波である「光」は波の性質をもっており、振動する方向があります。太陽の光など、通常は様々な方向に振動する光がランダムに混在していて、特定の方向に偏っている(偏光している)ということはありません。しかし、そうした光が電子や塵によって反射されると、特定の方向に振動方向が偏ります(偏光します)。
図2:高分散偏光分光器VESPolA(神山天文台 口径1.3m荒木望遠鏡に装着)
図3: 2013年いるか座新星 (V339 Del)の発見画像 (クレジット:板垣公一氏)。上左が爆発前 (発見約一日前)、右が爆発後の新星。下は 60cm 望遠鏡による確認画像。
図4:神山天文台での観測によって明らかになった、爆発初期の天体の形状。爆発直後の8月15日(左図)には、高速で膨張する球対称な光球面を、低速で膨張するトーラス状のガスが取り巻いていたようです。その後、ふたつの成分の衝突により、速い成分は双極状(バイポーラ)の構造をとるようになった(右図)と考えられます。
タイトル High-resolution Optical Spectropolarimetry of Nova V339 Del: Spatial Distribution of Nova Ejecta during the EarlyPhase of Explosion(新星V339 Delの可視光・高分散偏光分光観測:爆発初期における新星爆発物の空間分布)
著者 河北 秀世、新中 善晴、新井 彰、新崎 貴之、池田 優二
雑誌  The Astrophysical Journal(米国天文学会学術雑誌)
発行年月 2019年2月14日
本研究は、文部科学省 私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(課題番号: S0801061、S1411028)の助成を受けて行われました。
お問い合わせ先
京都産業大学 神山天文台
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