爆発的な増光をしたホームズ彗星は太陽から遠く冷たい場所で誕生した

2018.11.01

ホームズ彗星(17P/Holmes)は、太陽のまわりを約7年で公転する彗星です。2007年5月に近日点(太陽からの距離:2.05天文単位)を通過し、2007年10月下旬、太陽から約2.4天文単位の距離に位置していた頃、爆発的な増光を起こしました。2007年10月23日には約17等の明るさで観測されていましたが、その直後の10月24日(世界時)に8等となり約9等級も増光している姿が捉えられました。その後も急速に増光し、翌日10月25日には約2.9等と2等台に突入しています。ホームズ彗星は、その後、次第に暗くなってゆきましたが、このような14等級以上(光の強さにして約40万倍以上)の増光が見られた彗星は極めてまれです。本学大学院生の小林 仁美さん(当時)が、この爆発的な増光の正体を探るべく急増光直後にホームズ彗星の分光観測を実施し、その原因が大量の塵(ダスト)放出にあることを突き止めています(国際天文学連合回報IAU Circ., No. 8887)。しかし、このような爆発的な増光がどうして起こったのか、研究者の間で議論が続いてきました。

今回、京都産業大学神山天文台の新中 善晴 研究員を中心とした研究グループは、爆発的な増光が起こった当時に国立天文台Subaru望遠鏡で観測された、ホームズ彗星の波長10ミクロン(10μm=100分の1ミリメートル)という中間赤外線波長域における分光データを再解析しました。この観測データは、本学・大学院生の山口 充さん(当時)が在学当時に解析を行って修士論文としたものですが、更に詳細な解析を新中 研究員が行ない、ホームズ彗星が太陽系の中で太陽から遠い冷たい場所で誕生し、多くの揮発性物質を含んでいる可能性があることを明らかにしました。揮発性の高い氷が含まれている彗星では、それらが爆発的に昇華(固体からガスになること)することで、爆発的なダスト放出が生じる可能性があります。

新中 研究員らは、ホームズ彗星から放出されたダストの成分に注目しました。彗星にはシリケイト(ケイ酸塩)と呼ばれる鉱物が含まれていますが、このシリケイトは結晶質のものとアモルファス(非晶質)のものとが共存しています。アモルファス成分は宇宙空間にも存在しており、太陽系が誕生した時に、そのまま彗星が取り込んだ可能性があります。一方、結晶質の成分はアモルファスなシリケイト・ダストが原始の太陽の近くで加熱されて結晶質に変化したものであり、太陽から離れた場所まで運ばれてから、最終的に彗星に取り込まれたと考えられています。太陽から遠くに離れるほど、そこまで運ぶことのできるダストは少なくなるため、結晶質成分が少ないほど、太陽から遠い所で誕生した彗星であると考えられます。今回、新中研究員らは、ホームズ彗星は、他の彗星に比べてアモルファス成分のシリケイト・ダストが多く、結晶質成分が少ないことを明らかにしました。これは、ホームズ彗星が、他の彗星に比べて太陽からより遠く、冷たい場所で誕生した証拠なのです。そのような場所では、低い温度で昇華する一酸化炭素等の氷や、水のアモルファス氷(低い温度で結晶質に変化し爆発的な昇華のエネルギー源になる)が豊富に存在すると考えられます。

図1: 2007年10月25日(爆発2.1日後)にすばる望遠鏡で撮影したホームズ彗星の画像 (中間赤外線波長)。観測は、爆発的な増光が起こった後、2.1日後から5.2日後まで連続して行われた。等高線は100--400 mJy/ピクセルを50 mJy/ピクセル刻みでプロットしている。

図2:ホームズ彗星の中間赤外線スペクトル。波長10μm付近に、シリケイト(ケイ酸塩)ダストからの熱輻射ピークが見られる。細かいピークが結晶質シリケイトによるもので、このピークの位置によってシリケイトに含まれるマグネシウム:鉄の比率(Mg:Fe比)が分かる。図中の複数の縦線が異なるMg:Fe比のピーク位置を示しており、マグネシウムに富んだダストであることが分かる。灰色のハッチは地球大気のオゾン(O3)の強い吸収が見られる波長範囲を示す。

今回の研究を主導した新中研究員は「彗星は、大きな尾をたなびかせた美しい姿や時々崩壊や急増光といった思いもよらない姿を見せてくれるだけでなく、太陽系の過去の情報を内に秘めた化石という面でも非常に面白い研究対象です。今回の成果は、ホームズ彗星の大増光直後という非常に貴重な時期に取得されたデータを用いたもので、ホームズ彗星や彗星に含まれる塵が形成した環境の理解が一つ深まりました。今後は、彗星ごとに含まれる鉱物の多様性をさらに明らかにしていきたいです。」と語っています。研究は長い時間をかけてじっくりと取り組む必要があり、本学大学院で学んだ学生が、卒業後も余暇を使って少しずつ進めた結果が、新中研究員との協働によって、論文として出版されました。山口さんの指導教員でもあった、神山天文台・天文台長の河北秀世(理学部教授)は、「本学の卒業生が、卒業後も自分の研究テーマにかかわってくれたことに、大変、喜びを感じています。また、ホームズ彗星に関する最初の成果を当時、本学大学院生だった小林さんが出し、最新のまとめとなる成果をまた本学関係者である新中くんや山口くんが論文として出版したことも嬉しく思います。」と語っています。

本研究の内容は、米国天文学会の学術専門雑誌The Astronomical Journal に掲載されました。

出版詳細

タイトル Mid-infrared spectroscopic observations of comet 17P/Holmes immediately after its great outburst in October 2007
(2007年10月の大増光直後のホームズ彗星の中間赤外線分光観測)
著者 新中善晴京都産業大学・神山天文台
大坪貴文
宇宙航空研究開発機構(JAXA))
河北秀世
京都産業大学・神山天文台
山口充
京都産業大学・理学研究科
本田充彦
久留米大学・医学部自然科学教室
渡部潤一
国立天文台・副台長/天文情報センター)
雑誌 Astronomical Journal, volume 156, issue 5, article number 242
発行年月 2018年11月

この研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(課題番号:15J10864、17K05381)の助成を受けて行われました。

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