文化学部国際文化学科リレー講座「文化の“いま”を考える」第2回~アメリカ文学の「いま」を翻訳する~講師:藤井 光(翻訳家)

2017.01.11

1月11日、国際文化学科「文化の“いま”を考える」リレー講義第2回は、同志社大学文学部准教授・翻訳家の藤井 光氏を講師に迎え、開催されました。
藤井氏は21世紀のアメリカ文学の翻訳家としての豊富な経験を踏まえて、翻訳を創作として考察する観点として、対話型の翻訳という考え方を示されました。また、村上 春樹のアメリカでの英訳に見られる例を挙げて、翻訳をめぐって顕わになるアメリカと日本の間の文化的問題を指摘されました。村上 春樹の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の英訳タイトルは、『ハードボイルド・ワンダーランドと世界の終り』と前後が入れ替わっていて、さらにかなりの原文が英訳では削除されているのは、商業的理由によりページ数を抑えるためでもあると説明されました。しかし、村上作品のドイツ語訳には、このような原文削減は見られないそうです。
対話型の翻訳については、まず村上 春樹のレイモンド・カーヴァー翻訳を例に挙げて、説明されました。段落の初めは短い文章を好む日本語の特性を生かし、英文の長い文章を短く切って、原文には手を加えず、訳する工夫がなされているそうです。また村上春樹だけでなく、こうした原作と対等な関係にある対話としての翻訳の実例を、アンソニー・ドーア 岩本 正恵訳『世話係』等、現代アメリカ文学の翻訳について説明されました。
最後に、21世紀のアメリカ文学には、ペルー生まれのダニエル・アラルコンやブルガリア生まれのミロスラヴ・ペンコヴ等、英語を第1言語としない複数言語作家が登場し、創作に翻訳が入り込んでいる状況が生まれていて、彼らはアメリカという国の作家というより、国を超えたグローバルな意識を持っていると述べられました。参加者は100名を超え、盛況でした。
豊富な経験を踏まえて説明する藤井氏
藤井氏の講義に聞き入る学生たち
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