植物ゲノム科学研究センター 辻村(塚谷)真衣研究員が野生オオムギと栽培オオムギのミトコンドリアゲノムを初めて解読

本学植物ゲノム科学研究センターの辻村(塚谷)真衣研究員は、岡山大学資源植物科学研究所(IPSR)の研究者と共同で、野生オオムギと栽培オオムギのミトコンドリアゲノムの解読に初めて成功しました。この成果は将来、オオムギの系統進化や栽培化の過程を解明する基礎として、また、ミトコンドリアの突然変異系統の分子的な解析の基準として、大いに役立つものと期待されます。

オオムギ(Hordeum vulgare)は、中央アジア原産のイネ科の穀物で、ビールやウィスキーの原料として特に有名です。また、家畜の飼料としても古くから栽培されており、穀物では世界第4位の生産量を誇ります。日本では岡山大学資源植物科学研究所(IPSR)が中心となって、オオムギの遺伝学や系統進化に関する研究が1940年代から行われてきました。2012年には、オオムギの核ゲノム約5.1Gbの概要配列が、国際プロジェクトにより解読されています。今回、本学植物ゲノム科学研究センターでは、IPSRの佐藤和弘教授、久野裕助教と共同で、オオムギの野生種と栽培種のミトコンドリアゲノムの解読に初めて成功し、両者の比較を行いました。

オオムギ属には約30の種が存在しますが、栽培種はsubsp. vulgareのみであり、約1万年前にsubsp. spontaneumという単一の野生種から栽培化されたと考えられています。今回、両者のミトコンドリアゲノムの全塩基配列を、それぞれ独立に決定したところ、どちらのゲノムも全長525,599 bpの一つのサークルとして描かれ、両者の間には僅か3か所のSNPsが存在するのみでした。また、ゲノムに存在する遺伝子の種類は、パンコムギなど他のイネ科植物と同様でしたが、電子伝達系複合体の遺伝子nad6、nad9、リボソームタンパク遺伝子rps4ではオオムギ特異的な構造が認められました。今回の研究で、オオムギの野生種と栽培種とは、約1万年前に分岐したにも関わらず、ミトコンドリアゲノムはほぼ同一であるという新知見を得ました。ただし、オオムギの野生種は栽培種と容易に交雑するので、今回の結果が調べた系統でたまたま得られたものなのか、それとも、より一般化できるものなのかについては、さらなる検討が必要と思われました。本研究は、BMC Genomics (2016) 17:824, DOI 10.1186/s12864-016-3159-3に掲載されます。
 

PAGE TOP