浜 千尋 教授、中山 実 研究助教の研究グループが神経シナプスの「すきま」に存在するマトリックスの構築機構を解明

総合生命科学部・生命システム学科の浜 千尋 教授と中山 実 研究助教は、国立遺伝学研究所と国立医薬基盤研究所との共同研究により、脳機能の中心であるシナプスの間隙に存在するマトリックスタンパク質Haspを発見し、その解析をもとに、シナプス間隙マトリックスの機能と構築機構を明らかにしました(1月13日付け公表)。この論文の中で同グループは、マトリックスには少なくとも二つの分子コンパートメントが存在し、シナプスの機能発達において、それぞれのコンパートメントが異なる役割を果たすことを示しました。これらの知見は、シナプス間隙マトリックスによるシナプス分化の制御機構を理解する上で、一般性のある新しい視点をもたらすものです。

掲載論文

The Matrix Proteins Hasp and Hig Exhibit Segregated Distribution within Synaptic Clefts and Play Distinct Roles in Synaptogenesis.
The Journal of Neuroscience, 2016, 36: 590-606.

著者

中山 実(京都産業大学)、鈴木 えみ子(国立遺伝学研究所)、角田 慎一(国立医薬基盤研究所)、浜 千尋(京都産業大学、責任著者)  

発表内容

脳が機能を発揮するために中心的な役割を果たすのがシナプスです。シナプスとは神経細胞間の接続部で、そこで神経情報の伝達が行われます。この接続部には「すきま」があり、その「すきま」を神経伝達物質が通過します。シナプスについては、その重要性から非常に多くの研究が行われてきましたが、その中で「すきま(間隙)」については未だわずかな知見しか得られていませんでした。われわれは、以前に中枢シナプスの間隙を埋めるマトリックスの構成タンパク質をショウジョウバエを用いて世界で初めて同定し、Higタンパク質と命名しました(Hoshino et al., Neuron, 1993; Hoshino et al, Development, 1996)。そして近年、このタンパク質がコリン作動性シナプスの間隙に特異的に存在してアセチルコリン受容体の局在量を制御していることを見出しました(Nakayama et al., J. Neurosci, 2014)。本研究では、コリン作動性シナプスの間隙に局在する第二のタンパク質Hasp (Hig-anchoring scaffold protein) を同定し、このタンパク質がHigのシナプス間隙での局在に必須であることを明らかにしました(図1)。さらに、個々のシナプス間隙の中で、HigとHaspは共存しながら異なる分布を示し(図2)、それぞれのコンパートメントが異なる機能を持つことを示しました。
 HigやHaspと類似したタンパク質は、ヒトの脳においても多く存在することが知られており、今後の研究を通して、シナプス間隙マトリックスタンパク質によるシナプスの形成と機能の制御機構について種間を超えた普遍的知見が得られることが期待されます。
 なお、本研究は日本学術振興会科学研究費 基盤研究(C)および挑戦的萌芽研究より支援を受けて行われました。
図1 コリン作動性シナプスのマトリックス構築と機能発達の制御機構モデル
(左、シナプス形成初期)分泌されたHaspが、コリン作動性シナプスの間隙に存在する未知のXタンパク質によりトラップされる。
(中、シナプス形成中期)Hasp分子が集合してコンパートメントを形成し、Higをトラップする。Higは、アセチルコリン受容体のシナプス後部膜上での局在を制御し、また逆にアセチルコリン受容体はHigの局在に必要である。
(右、成熟期)HigとHaspは同じ間隙の中で異なるコンパートメントを形成することにより正常で機能的シナプスを維持する。
図2 HigとHaspが示すシナプス間隙内のコンパートメント(超高解像顕微鏡SIMにより観察)
この画像には複数のシナプスが示されており、それぞれのシナプスの間隙において2つのタンパク質は異なるコンパートメントを形成している。
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