理学研究科 大学院生の西岡 翼さんらと東京大学の共同研究グループが、系外惑星候補を持つTタウリ星系の新たな力学モデルを構築

2015.10.19

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ニュース研究
これまで約2000個の系外惑星が発見されている中で、Tタウリ星のような形成途中の恒星に系外惑星が確認された例は未だありません。しかし最近、PTFO 8-8695というTタウリ星に系外惑星によるトランジット現象と思われる光度変動の存在が報告されました。

東京大学大学院理学系研究科の上赤翔也さん、本学大学院理学研究科の西岡翼さんらの研究グループは、通常のトランジット現象と比べて非常に特異な、この天体の光度変動に対して新たなモデルを構築しました。更に、これまでの観測データに加えて、本学神山天文台で取得した 観測データを用いて、観測データの再現を行うことで、この系外惑星候補を持つTタウリ星系の物理パラメターを推定することに成功しました。

掲載論文

“Revisiting a gravity-darkened and precessing planetary system PTFO8-8695: A spin-orbit non-synchronous case”, Publication of the Astronomical Society of Japan (2015), 67, 94

著者

Shoya Kamiaka, Kento Masuda, Yuxin Xue, Yasushi Suto, Tsubasa Nishioka, Risa Murakami, Koichiro Inayama, Madoka Saitoh, Michisuke Tanaka, and Atsunori Yonehara

研究概要

背景

図1
1995年にMichel Mayor(今年、京都賞を受賞)とDidier Quelozによって太陽以外の恒星の周りを公転する惑星(太陽系外惑星)が初めて発見されて以来、現在までに約2000個の系外惑星が発見されてきました。そんな中で、まだ形成過程にある恒星の一種である、オリオン座にあるTタウリ星の一つPTFO 8-8695の周りを0.448日という非常に短い周期で公転する系外惑星候補が2012年にJulian C. van Eykenらによって発見されました。この天体は、これまでTタウリ星の周りに太陽系外惑星が見つかっていなかったという点から珍しいというだけでなく、星形成途中の系外惑星の進化を観測的に追うことが可能になるため、惑星形成を明らかにする上で重要な天体であると考えられます。
この系外惑星候補は、2009年と2010年のトランジット現象の観測を利用して検出が報告された天体ですが、トランジットと考えられている周期0.448日の減光の様子が、長期的には時々刻々と変化しています。通常の系外惑星のトランジットでは減光の様子は時間変化しないため、このT タウリ星が高速で自転していることによる重力減光や歳差運動によってこの奇妙な振る舞いを説明するモデル(図1)が2013年にJason W. Barnesらによって提示されています。

研究成果

図2
本研究ではまず、これまで提示されたモデルを踏まえ、このPTFO 8-8695に対する様々な物理パラメターの必要性を吟味し、より自由度が高く現実的なモデルを構築し、Tタウリ星表面の輻射強度分布及び歳差運動を計算しました。その結果を利用して、理論的にトランジット時の光度曲線の時間進化について調べ、これまでの観測データとの比較を通じて、様々な物理パラメターの推定を行いました。Tタウリ星の自転周期と系外惑星候補の公転周期が同期しているという、過去の研究で仮定されている物理的に自明ではない制限を排除すると、観測データをより良く再現できること、更には多様な解で観測された現象を再現できることが明らかになりました。
新たなモデルでは、199日、475日、そして827日程度という3つの大きく異なる歳差周期のモデルで、2009年と2010年の観測結果を良く再現します。そしてこの結果は、過去のモデルで木星質量の3倍弱と見積もられていた系外惑星候補の質量について、木星質量の7倍前後という、より大質量の系外惑星の存在を示唆することになります。これら3つの理論モデルは、それぞれに要求されるパラメターの値が異なるにも関わらず、過去の観測データのみからその優劣を判別することはできませんでした。しかし、歳差周期の大きな違いは中・長期的な観測結果の違いに反映されると予想されます。

そこで2014年10月から2015年1月にかけて、現在本学大学院理学研究科物理学専攻博士前期課程1年次の西岡翼さんらが、当時4回生の特別研究(担当教員は、理学部 米原教授)として、本学神山天文台の荒木望遠鏡と2色同時撮像装置ADLER(図2)を利用し、PTFO 8-8695(図3)のトランジット現象の観測を試みました。天候に悩まされながらも、11月23日、11月27日、12月2日、12月23日、そして1月10日に、トランジット現象が予想される時刻での観測データ取得に成功しました。観測データの解析と、その解析結果を用いた物理パラメターの推定を行った結果、他の2つのモデルに比べて最も歳差周期の短いモデル(歳差周期199日)でより良く観測結果を再現できることが判明しました(図4)。またこのモデルによれば、これまでのモデルよりも約50%(モデルによる推定の誤差は10%程度)大きな系外惑星候補の質量が導き出される等、系外惑星候補の物理パラメターがこれまでの推定値とは大きく異なることが分かりました。
図3
図4

今後の展望

今回、これまで観測されている小さいながらも周期0.448日のほぼ規則的な減光については、系外惑星のトランジット現象として物理的なモデルを介して再現することができましたが、この天体の減光の起源については、完全に理解できたとは言えません。

また新たな観測から、系外惑星のトランジット現象ではなく、Tタウリ星の黒点、あるいは磁極へのガス降着に伴うホットスポットなどが原因で、トランジット現象と良く似た光度変動が現れているという説も指摘されています。

いずれにしても、Tタウリ星PTFO 8-8695の示す奇妙な光度変化の起源解明と、星形成・惑星形成の物理を明かにしていくために、引き続きこの天体の観測が期待されます。
図の脚注

図1:PTFO 8-8695の理論モデルの概略図(上の2枚)と過去の観測データの例(下の2枚。横軸が時間、縦軸が明るさを表しています)。重力減光と歳差運動を考慮した時、 我々から見てTタウリ星の表面や惑星の横切る様子がどのように変化するか、モデルの一例が示されています。またこのモデルが予想する減光の様子が、過去の観測データに重ねてあります。

図2:神山天文台荒木望遠鏡に搭載された可視二色同時撮像装置ADLER。
図3:ADLERの観測データをもとに作成した、PTFO 8-8695とその周辺天体の三色合成画像(赤:Gunn-i' フィルター、緑:Gunn-r' フィルター、青:Gunn-g' フィルター)。この画像の領域は、オリオン座のほんの一部分を拡大したものになります(右図の星印の箇所)。

図4:実際にADLERによって観測されたPTFO 8-8695の明るさの時間変化(横軸が時間、縦軸が明るさを表します)。過去の観測データから得られた3つの異なる歳差周期をもつ理論モデルの予想が重ねて あり、明らかに歳差周期199日のモデルが観測を良く再現しています。

補足説明

Tタウリ星とは、恒星が星間ガスから形成される際の途中段階に相当する天体の一種です。その中心は恒星になる寸前にあり、核融合反応ではなくガスが重力収縮する際に放出されるエネルギーを赤外線などで解放する事で輝いています。またその周辺を、まだ中心部に落ちきっていないガスが取り巻 いているとされています。

トランジット現象とは、ある恒星を我々が観測しているとき、たまたまその視線上をその恒星の周りを公転している惑星が横切ることで、恒星からの光が遮られ暗く観測される(減光する)現象のことです。地球上で観測する日蝕のようなものですが、太陽系外惑星が恒星の前を横切るときに遮られる光の量がほんの僅かであるため、この現象の検出には誤差1%、あるいはそれ以下の高精度で恒星からの光を観測する必要があります。
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