本橋健教授と桶川友季研究助教の植物光合成に関する研究が英国科学誌「The Plant Journal」に掲載

2015.10.16

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ニュース研究総合生命科学部
総合生命科学部生命資源環境学科の本橋健教授と桶川友季研究助教は、植物変異体を用いた解析から、植物の光合成におけるカルビンサイクルの活性化機構の機能欠損が植物体の成長に大きく影響することを明らかにしました。

 本研究成果は、英国科学誌「The Plant Journal」に掲載されるのに先立ち、2015年10月15日付でオンライン版に公開されました。

掲載論文名

Chloroplastic thioredoxin m functions as a major regulator of Calvin cycle enzymes during photosynthesis in vivo.
DOI: 10.1111/tpj.13049
 葉緑体m 型チオレドキシンは、光合成においてカルビンサイクル酵素の主要制御因子として機能する。
 著者:桶川友季(京都産業大学)、本橋 健(京都産業大学、責任著者)

背景

植物の光合成は、葉緑体と呼ばれる細胞内小器官でおこなわれます。光合成の反応に関与する多くのタンパク質は太陽の出ている昼間だけ働くように分子内に制御スイッチを持ちます(図1)。 このスイッチ機構の実体は、タンパク質内にあるジスルフィド結合と呼ばれる化学結合であり、そのスイッチのオン・オフを制御しているのがチオレドキシンと呼ばれるタンパク質です。

これまで、葉緑体のチオレドキシンは、光合成の際にCO2固定を担うカルビンサイクルの酵素を活性化することが知られていました。また、植物の葉緑体には非常に多くの種類のチオレドキシンが存在することも分かっています。たとえばモデル植物であるシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)では、5グループ10種類ものチオレドキシンが存在します。しかし、そのメカニズムの研究は、主に試験管内で行われた実験結果を元にしたものであり、実際の植物体内で、数多くのチオレドキシンがどのように酵素の活性化に働いているかは明らかでありませんでした。

研究概要

本研究では、シロイヌナズナの突然変異株を用いて、実際の植物体内でのチオレドキシンの生理機能を解析しました。はじめに、シロイヌナズナ葉緑体に存在する5グループのチオレドキシンの存在量を比較すると、m 型チオレドキシンが最も多く存在することがわかりました。そこで、4つあるm 型チオレドキシンのうち、大部分を占めるm 1, m 2, m 4の三重変異株であるtrx m124変異株を取得し、解析を行いました。この変異株では、m 型チオレドキシンの蓄積量が減少しており、その蓄積量にしたがって植物の成長阻害が観察されました(図2)。これまで、m 型以外でのチオレドキシン変異体では成長に影響する表現型は観察されず、m 型チオレドキシンが植物の生育に重要な役割を担っていると考えられます。

三重変異株のうちのひとつは、光合成の電子伝達反応は正常ですが二酸化炭素固定能力が低下していました。この変異体を使って様々な酵素の活性化状態を調べたところ、カルビンサイクル酵素のひとつであるセドヘプツロース-1,7-ビスホスファターゼ(SBPase)の活性化が顕著に抑制されていました。 SBPaseは光合成の律速因子だと考えられており、植物の生育に大きく影響します。これらの結果からtrx m124三重変異株ではカルビンサイクルの活性が抑制されることによって植物の生育阻害が観察されたと考えられます。
これまで、植物葉緑体でのチオレドキシンによる酵素活性制御機構の研究は、試験管内での実験結果をもとに議論されており、SBPaseはm 型ではなく f 型チオレドキシンによって制御されると考えられてきました。また、その他の酵素もf 型によって優先的に制御され、f 型チオレドキシンが酵素活性制御で中心的な役割を担うと信じられてきました。しかし、本研究の植物変異体を用いた解析で、実際の植物体内でSBPaseはm 型チオレドキシンにより制御されていることがわかりました。このことは、in vivoで植物体を用いてこの分野の研究を行うことの重要性を示しています。今後、シロイヌナズナのチオレドキシン変異株をさらに解析することで、チオレドキシンによる新たな制御機構を発見できる可能性があります。

葉緑体内でのチオレドキシンによる光合成の制御システムを明らかにすることで、植物の光合成機能制御の理解を深めることができます。また、将来的には、光合成機能を改変することによって作物の収量を増加させる技術の開発につながる可能性もあります。

本研究は、文部科学省科学研究費 基盤研究C「高等植物葉緑体におけるチオレドキシンファミリータンパク質の機能分担解析」、日本私立学校振興・共済事業団 学術研究振興資金「植物の光合成を制御するメカニズムの解明」、および私立大学戦略的研究基盤形成支援事業「植物における生態進化発生学研究拠点の形成 -統合オミックス解析による展開-」の支援を受けました。
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