022
宇宙の謎世界の研究者

国内私立大学最大の望遠鏡で世界中の研究者と宇宙の謎と対峙する、未来の研究者

  • 理学部 4年次
    中尾 信之介さん
  • 理学研究科 博士前期課程1年
    渡瀬 彩華さん

京都産業大学 神山天文台は、国内私大最大の望遠鏡を備えた研究施設。研究者や企業、国際的な研究機関との協働でさまざまなヒトがむすびつき、未知なる宇宙の謎と対峙している。
観測機器を自ら開発していく過程や研究活動を通じて学生たちは成長し、最先端の技術や知見をうみだしていく。

神山天文台とはどういった施設なのですか?

河北先生:もともとこの天文台をつくったコンセプトが、いろんな方がここに集まり、新しいものを生み出していこうということでした。ここには大学の教員、学生、研究者、企業の方などさまざまな人々が集います。いろんな方が自分の得意なものを持ち寄って、「協働」というかたちで、天文学を一つのコアにして活用される新しい技術の開発を一緒に目指します。天文学の世界は、宇宙を相手にしているので、国内も国外も遠い隔たりはありません。その中で、いろんな人が「むすんで、うみだす。」というキーワードをまさに体現しています。学生にとって、学内の先生だけではなく、他大学や企業、海外の天文学者のスタッフから学べるというのは、それだけ学びの世界が広がるということであり、大きなメリットだと思っています。

学生のみなさんはここでの研究にどういう風にかかわっていますか?

渡瀬さん:私は観測装置の開発をしています。実際の図面をひきながら、機械やレンズの設計をしています。オリジナルな観測機器はレンズからオーダーメイドでつくるので、既製品はほとんど使えないんです。開発チームは学生がメインで、時には研究員の方からいろんなアドバイスをもらいながら、一から設計を行っています。この夏もチリに行って観測をしますが、その時もまた装置の細かいところをどんどんアップグレードしていきます。

河北先生:天文学の世界は競争です。同じものを使い続けていると、同じようなことをやりだすライバルがでてきたり、他に後れを取ってしまったりするので、常に自分たちの装置をアップグレードしなければいけないんですよね。

中尾さん:私は装置をつくる側ではなく、実際に観測したデータを分析しています。神山天文台で観測した星のデータを解析して、その星にどんな原子や分子があるかを調べています。私が天体に興味を持ったのは、小学生の頃の星の授業がきっかけ。初めて自分から遠出して見に行った星空がすごく綺麗だったことに感動して、もっと知りたいなと思うようになりました。天文学系は勉強できるところがあまりないので、京都産業大学に天文台があるというのは進学を決めた理由の一つです。

2016年末に、開発した観測機器をチリに移設したのはどういった経緯ですか?

河北先生:まずは場所が良かったんです。チリは日本に比べて、非常に晴天率が高く湿度が低い、天体観測に最適な条件でした。次に、チリには大きな望遠鏡がありました。望遠鏡は大きい方が、たくさんの光を集められるので、より遠くの天体を観測が出来たり、同じ天体でもより詳しい分析ができるんです。また南半球の国に行くことで、日本から見えない星もみることができます。例えば、天の川の一番星が多く集まる中心部分は日本からだと夏の時期の限られた時間帯しか見ることができませんが、チリに行くと一晩中観察できたりします。
そんな好条件での観測データを持ち帰り、神山天文台で天体スペクトルの分析をしています。南半球のチリに行ったことは、我々の研究にとって非常に大きなステップアップになっています。

渡瀬さん:私はこの冬にチリに行ったメンバーだったのですが、チリに装置を持って行って、届いた部品の組み上げや調整を行い、観測をして日本に戻ってきたときは達成感がありました。すごい大きなチームではなくても「ここまでできるんだ」というのが証明できたと思います。

実際の研究を通して自分自身にプラスになったことや成長したポイントはありますか?

渡瀬さん:やはり外部の企業の方や他大学の研究者の方、学生も見学に来るので、その際にいろんな意見交換をすることで、自分の世界が広がったのを感じます。また、みなさんがどんな勉強をしているのかを知ることができるのも刺激になっています。成長できたところはたくさんありますが、一番は、今まで勉強してきた物理学が、実際の勉強に実感を持って還元できていることです。よくわからないままに暗記していた公式を、「実際にそれが活かされてこういうふうに使われるんだ」とか「本当にこの公式は成り立つんだ」というように実践に落とし込むことができたと思います。

中尾さん:私は、研究で扱う論文が全て英語なので、英語が得意になったと感じています。また、データの解析にパソコンを使うので、パソコンの扱いもうまくなりました。プログラミングなど、いろんな技術が必要なので、天文学の知識以外にもいろんなスキルを伸ばすことができていると思います。また、仮説をコンピューターでシミュレーションをするときに、入力したデータが完成した波形とうまく合った時は感動しますね。地上の実験データを使って宇宙空間にあるガスの成分の分子の種類を調べているのですが、それが宇宙にあるとしたらこういうふうに見えるはずだ、と何回も何回も値を変えて合わせていっても、なかなか合わないものなんです。その分、期待通りの値が出たときにはとても達成感があります。

中尾 信之介さん
渡瀬 彩華さん
河北 秀世 天文台長(理学部長)

今後の目標について教えてください。

渡瀬さん:私は、装置が望遠鏡から離れたところにあっても、光ファイバーを使うことによって、望遠鏡で集めた天体の光を装置まで導き、観測データがが得られるような方法を検討することです。修士のテーマとして取り組もうと思っています。

河北先生:今後はもっと大きな望遠鏡にも装置をつけたいと思っています。その際光ファイバーでつなぐことができればもっと大きな望遠鏡でも観測が可能になる。そうなると我々は人類で一番遠くのものが見えるはずです。まだ先の話ですが、常に未来を見据えて研究を進めていきたいですね。

中尾さん:私はもっと複雑な分子のモデルシミュレーションに取り組みたいです。説明が難しいですが、宇宙には100年以上も正体が解明されていない“光を吸収する分子”が存在するんです。それがどんな構造の分子なのかシミュレーションしていきたいです。

河北先生:天文台長としては、神山天文台をもっともっとオープンにしていきたいと思っています。京都産業大学の中の研究所で、さまざまな学生さんが来てたくさんのことを体験し、成長し、それを将来社会に還元する。それができて神山天文台は完成したといえるのではないかと思います。すでに、東京大学の先生がたやメーカーの方との共同研究を行っていますが、それがもっとオープンになってほしいと思います。多様な人が集まって何か新しいものをうみだしているというのが非常に大事なことで、将来学生さんが社会に出てそんな場を再生産してくれれば、少し世の中の形も変わってくるのではないかなと思います。

※掲載内容は取材当時のものです。

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