第7回研究フォーラム(スタートキャンパス同時開催)

 

不思議の国フランス〜“共和国”の光と影 法学部 准教授 中谷真憲

 フランスの正式名称はすなわちフランス共和国です。そしてフランスでは政治家であれ国民であれ、(共和国)という語に相当の愛着を示しますし、フランスは共和国の代表である、という自負を持っています。しばしばというだけでフランス国家自体を指すほどです。  では共和国とは一体なんでしょうか?
 教科書的にいうならば、共和国とは共和制を採る国家のことです。そして共和制とは民主的に選出されたリーダーのもとに国政を運営する政治体制であり、一般的に言って君主制の対抗概念ということになります。多くの共和国はリーダーとして大統領をもちます。
 ですが、この制度論的な説明だけではフランス人の「共和国」に対する愛着や誇りを十分に説明することはできません。フランスもいまや数ある共和国のなかのone of them に過ぎないからです
。  フランスでは、「共和国」という語に、出自や民族や人種のしばりから解放された社会の姿を重ねます。またそうしたものから解放された個人が意志的に選び取る民主国家こそがホンモノの共和国だ、と考える傾向があります。そしてこのようなホンモノの共和国としての道を史上最も早い段階で歩み始め、いまなおそれをさらに発展させようとしている国こそがフランスである、として自国に誇りや愛着を抱くのです。
 開かれた国フランス、人権の国フランス、という国際的にも広く流布したイメージの源流にはフランス人自身のこうした自国理解があったということになります。
 しかし、その民族のしばりから解放されたはずのフランスでは、近年、移民系の若者たちと「フランス社会」との、しばしば大規模な暴力をも含む衝突が頻発しています。共和国であるのになぜこんなことが起きるのか、と問うこともむろん可能です。ですが実は、共和国だからこそ、衝突が起きている、という面も見逃せないのです。
民主主義を追求し、民族や肌の色にとらわれない国をつくろうとしたフランスが、むしろそれゆえにこそ、深刻な社会の分裂に苦しまざるをえないというこの矛盾。この謎を解き明かすために、さまざまな角度からフランス社会について考察を加えていきたいと思っています。

 

アルファベット4000年のルーツ  文化学部 准教授 竹内 茂夫

 私たちが今使っているローマ字は,いったいどこから来ているのでしょうか?そもそもローマ字つまりアルファベットとは何なのでしょうか?  現代のアルファベット(ラテン文字)の歴史をさかのぼると,もともと のような文字に補助記号が付くものがなかっただけでなく,古くは大文字小文字の区別も,JやWなどの文字もありませんでした。
 ラテン文字は,キリスト教の宣教などによってかつてローマ帝国だった欧州各地に広がりましたが,ローマ人が発明したのではなく,彼ら以前にイタリアで先進的な文明を築いていたエトルリア人から採り入れられました。
 エトルリア人はGやFの文字を発明し,この時点までは右から左に書かれることさえありました。エトルリア人の地にはギリシア人の植民地活動を通じて,西方型のギリシア文字が伝えられました。ギリシア人は,今のレバノンを拠点にして地中海貿易などで競っていたフェニキア人からアルファベットを採り入れ,そこで初めて母音を表す文字が割り当てられました。
 フェニキア文字は右から左に書く22の子音だけを表す線文字で,そこから生まれたアラム文字と,その子孫であるアラビア文字や(現代)ヘブライ文字も,補助記号で母音を表しても文字は子音しか表しません。フェニキア文字をさかのぼると絵文字になり,今のイスラエルから出土した現カナン文字と,エジプトから出土した原シナイ文字となり,それらが最も古いアルファベットであると20世紀末までは考えられていました。
 ところが,ナイル川中流の「王家の谷」近くで前1900年頃のワディ・エル=ホル碑文が発見され,そこに書かれている現シナイ文字に似た文字が,ヒエログリフの簡略版であるヒエラティック(神官文字)をアルファベット的に使った文字であり,最古のアルファベットと考えられるようになりました。このアルファベットの4000年の歴史を一緒に見ていきましょう。

 

鳥インフルエンザから新型インフルエンザへ 工学部生物工学科 教授 大槻公一

1.はじめに

 鳥インフルエンザとはインフルエンザウイルスが感染することにより引き起こされる鶏等の家禽類(家で飼う鳥の総称)を含む鳥類の疾病の総称です。病の重さから本病は2型に大別されます。まず、高病原性鳥インフルエンザと呼ばれ、鶏を含む家禽類に激烈な臨床症状と高い死亡率をもたらす疾病があります。もう一方は、死亡率の低い、臨床症状も高病原性鳥インフルエンザに比較するとはるかに軽微な、多彩な病性を示す疾病です。
 インフルエンザは、鳥類の他、人を含む様々な種類の哺乳類が本ウイルスに感染して発病します。高病原性鳥インフルエンザの病原体がA型インフルエンザウイルスであることが1955年に判明して以来、鶏以外の外見上健康な各種鳥類が、さまざまな種類のインフルエンザウイルスを保有していることが知られています。カモなどの水鳥等の鳥類が保有している大部分のインフルエンザウイルスは、鶏等の鳥類に対して激烈な病原性を示すことはありません。

2.新型インフルエンザの発生に果たす鳥インフルエンザウイルスの役割

 分子遺伝学的研究の進展から、すべてのA型インフルエンザウイルスの本来の宿主は人等の哺乳類ではなく、鳥類、特にカモなどの水鳥であることが知られるようになりました。このような鳥類を固有宿主としてきたインフルエンザウイルスが、何らかの変異を起こして人に容易に感染して、人に大流行を引き起こした事もあったと考えられています。今、アジア、ヨーロッパ、アフリカで猛威を振るっているH5N1亜型ウイルスがそのような変異を起こす事が懸念されています。1968年の香港型インフルエンザウイルスの登場以来新型インフルエンザウイルスが現れていないところに、世界に広く分布してしまったH5N1亜型鳥インフルエンザウイルスが、多くの人に感染していることが報告されています。このウイルスが新型インフルエンザの原因ウイルスに発展することが恐れられています。
 鳥インフルエンザウイルスに対して豚が強い感受性を持っている事は良く知られています。したがって、豚の体内でH5N1亜型ウイルスと現在人の間で流行しているインフルエンザウイルスの間で作られる、パンデミックを起こし得る「遺伝子再集合体」の出現する事も念頭に入れておく必要があります。この場合、ウイルスの亜型は必ずしもH5N1亜型とは限りません。
 現在、鳥インフルエンザの発生し続けているアジア地域での、一刻も早い鳥インフルエンザの撲滅への取組が求められています。私たちも長崎大学熱帯学研究所、鳥取大学農学部附属鳥由来人獣共通感染症疫学研究センターと共同で、鳥インフルンザ流行地域のベトナムにおいて、鳥インフルエンザ浸潤状況の把握と防疫対策の確立に向けて鋭意取り組んでいるところです。

 

地震予知へのアプローチ コンピュータ理工学部 教授 筒井 稔

 以前から地震予知の必要性が指摘されていたにも拘らず、1995年の阪神淡路大震災でも、それが実現しなかった。それは地震に繋がる予兆現象として確固たるものが見つかっていなかったためである。
 本研究者は1998年に京都産業大学構内に深さ100mの穴を掘り、その中に電磁波検出用センサーを挿入して、連続観測をしていたところ、2000年7月から9月に掛けて、地殻変動に関係したと思われる電磁波パルスを検出し、この研究の重要性を示した。
 そこで、地中電磁波パルスの到来方位検出装置を新たに開発し、観測を続けていたところ、2004年1月6日14時49分に熊野灘沖で地震が発生し、それと同時に観測用コンピュータはその到来方位を即座に画面上に表示した。そして波形データの理論に基づいた解析から、その伝搬距離を算出したところ、その発生場所はその地震の震源域内にある事が分かった。これは「地殻変動に伴って電磁波パルスが発生する」という世界で初めての証拠となった。
 そこで、この電磁波パルスの発生場所をその検出と同時に決定するためのシステム作りを開始した。すなわち、到来方位検出装置を地理的に異なった複数の場所に設置し、それぞれの観測点で同時検出した電磁波パルスの到来方位データをインターネットで基地局に集め、地図上で交点を結ばせ、発生位置を決定しようとするものである。
 この実現の第一ステップとして、2地点観測を行うことになった。第2観測点として、三重県津市美杉町の山中にある名古屋大学大学院の地震観測施設の深さ98mの穴の中にセンサーを挿入し、2008年1月から京都産業大学でのデータとで波源の位置決めを開始した。その結果、地震に関連したとおもわれる電磁波パルスの発生位置を表示し始めている。
 発生場所の位置精度の向上には、観測点の数を増やす必要があり、現在、白浜にある京都大学瀬戸臨海実験所の敷地内に地中電磁波観測専用の穴を掘り、第3観測点の建設を進めている。
 このように複数観測点で得られるデータから、地中電磁波パルスの発生位置を精度良く決定すると、地殻変動との時間的・位置的関係が明らかになり、両者の発生傾向から、地震発生の予測も可能と考えており、これが実現すれば地震防災に画期的なものになると考えている。
 この研究では、センサー開発、コンピュータによるデータ収集、電磁波パルスの到来方位表示、その発生位置の算出プログラムの開発など、学生と一緒になって築き上げてきており、その夢の実現に向けて努力する若者の最適の研究テーマとなっている。