総合生命科学部 生命システム学科 黒坂 光 教授

植物に有用タンパク質を作らせる試み タンパク質の解析で研究をサポート

黒坂教授が専門とするのはタンパク質の解析。研究センターで日々培養・栽培されているさまざまな植物が、目的通りのタンパク質を合成しているかを分析しています。将来的には、医療などに役立つタンパク質を植物に作らせることを目指しています。

植物をタンパク質合成工場に 安全なタンパク質の合成を目指して

 私が主に担当しているのは、この研究センターで作り出した植物に含まれるタンパク質の解析です。寺地教授や研究員の方たちが細胞融合や遺伝子組換えによって作り出した植物が、目的のタンパク質を合成しているかどうかを分析しています。もともと私は、動物の神経発生の過程で重要な役割を果たす酵素の研究をしており、タンパク質の検出や機能を解析する生化学的な技術を持っていたことから、こちらのセンターの研究に加わることになりました。

 これまでの研究で取り組んだテーマの一つが、アルブミンという人の血液に含まれるタンパク質を植物に作らせるというものです。アルブミンは血液成分の6割を占め、100種類以上ある血漿タンパクの中でも最も量が多いタンパク質です。アルブミンは血液製剤の一種で、哺乳動物の培養細胞で作ることができますが、万が一でもヒトに感染するウィルスや、抗原タンパク質などの不純物が混入すると、重篤な副作用を引き起こす可能性があります。

 その点、植物細胞にアルブミンを作らせることができれば、感染性ウィルスを含まない安全なタンパク製剤を合成することができます。実験では、ヒトの細胞からアルブミンの遺伝子を取りだし、それを遺伝子銃でタバコの葉緑体に撃ち込んで遺伝子組換え植物の作出を試みました。結果的には、ヒトのタンパク質を葉緑体で作らせるのが思いのほか難しく、期待する成果は残念ながら今のところは得られていません。しかし、今後も研究する価値のある研究だと思っています。

失敗を恐れずチャレンジしよう 考えつく実験はすべてやることが大切

顕微鏡で遺伝子組換え植物体を観察する

 その後、アルブミンの他にも、創傷の治癒に使われるFGF2というタンパク質の合成も試みました。現在は、鉄原子を吸収するタンパク質であるフェリチンの解析が主なテーマです。これは植物の栄養を高めることの他に、土壌中の過剰な鉄を植物に吸い上げさせることで、環境浄化することを目的としています。植物の個体内にフェリチンがきちんと発現していて、本当に鉄と結合する力を持っているかを測定しています。この他にも植物ゲノム科学研究センターでタンパク質に関する測定・分析が必要になったときにサポートするのが私の役割です。

 研究室では学生ともども毎日遅くまで研究に取り組んでいますが、期待する成果は簡単には得られません。しかしごく稀に予想した通りの結果が出るときがあります。そのときの興奮や感動は言葉に表すことができません。それが研究の醍醐味ですが、それを味わうためには失敗を繰り返さなければならない。学生たちにも「考えられる実験は全部やってみなさい」といつも言っています

総合生命科学部 生命システム学科 黒坂 光 教授

1986年 京都大学大学院 薬学研究科博士後期課程 修了
1986年 京都産業大学 国土利用開発研究所 講師
1986年 薬学博士(京都大学)
1994年 京都産業大学 工学部生物工学科 助教授
2001年 京都産業大学 工学部生物工学科 教授
2010年 京都産業大学 総合生命科学部 教授
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