総合生命科学部 生命資源環境学科 山岸 博 教授

将来の食糧不足の時代に備え 雄性不稔の性質を持つ新しい作物を作り出す

山岸教授らの研究チームでは、植物のミトコンドリアゲノムが持つ雄性不稔の性質を利用することで、生産力の高い作物品種を生み出す育種方法を開発しようとしています。世界人口が増え続ける現在、食糧の増産は大きな課題となっています。世界中の人々の需要を満たす栽培植物の生産を目指し、日夜研究が行われています。

雑種の生物は動物でも植物でも強い

 私の研究のメインテーマは「作物における雄性不稔」です。雄性不稔とは、花粉ができない性質のことを言います。植物において雄性不稔が起こるかどうかは、ミトコンドリアゲノム中の雄性不稔を引き起こす遺伝子と、核に含まれる「稔性回復遺伝子」の相互作用によって決まります。

 人間はこれまで雄性不稔をイネ、トウモロコシ、タマネギをはじめとして多くの作物の育種に利用してきました。「雑種強勢」と言いますが、動物でも植物でも、縁の遠いもの同士で雑種を作るととても旺盛な生育を示す個体が生まれます。植物の場合ならば親を100とすると、その子どもは200ぐらいに収穫量が上がる場合もあります。ただし動物と違って、植物は一つの個体に雄しべと雌しべがあるので、自分自身で受精を行って子どもを作ることができます。そこで雄性不稔の植物を作り出すことで、確実に雑種のF1品種を作ることができるわけです。ただし、ある特定の雄性不稔遺伝子を持った植物だけが世界中に広がる可能性もあり、新しい病気が流行した場合、特定の遺伝子を利用した品種は全滅してしまう危険性が考えられます。それを防ぐためにも、新しい遺伝子を持った雄性不稔の植物を多数開発する研究が不可欠なのです。

雄性不稔の研究はこれからますます重要な時代に

 新しい植物の品種改良法として遺伝子組み換え技術を使う方法もありますが、私たちは細胞融合による体細胞雑種作出の実験を続けています。たとえばキャベツとシロイヌナズナを融合して新たな雄性不稔の性質を持つキャベツを作ろうとしているのです。このような世界で誰も取り組んでいないアプローチでも、新しい植物を生み出すことができます。ダイコンの雄性不稔は1968年に日本人の研究者が発見しましたが、それに着目して新たなダイコンの品種を生み出したのはフランスの研究者でした。彼らはその特許を取得し、今では日本のキャベツにもブロッコリーにも使われています。私たちも継続して研究を続けていくことで、将来、世界中の人々が利用できる新しい雄性不稔を生み出せるかもしれないのです。

 雄性不稔を利用したF1育種によって人類は20世紀に作物の収穫量を大幅に伸ばしました。しかし、この10年ほどの間は、新しい育種技術が生まれず、増え続ける世界人口に対して食物生産量は停滞したままになっています。これからますます人口が増えれば、食糧不足が現実化するかもしれません。将来の食糧危機を防ぐためにも、まだ雄性不稔が利用できていないマメ科植物の研究など、我々がやるべきことはたくさんあります。

総合生命科学部 生命資源環境学科 山岸 博 教授

1973年 京都大学 農学部卒(農学科)
1977年 京都大学大学院 農学研究科博士後期課程 中退
1978年 農林省野菜試験場 研究員(育種部)
1988年 京都産業大学 国土利用開発研究所 助教授
1995年 京都産業大学 工学部 教授
2010年 京都産業大学 総合生命科学部 教授
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