京都産業大学 神山天文台

神山天文台の三つの顔、最終目標は「ひとづくり」

天文台といえば、望遠鏡で星をのぞく浮世離れした天文学者というイメージがあります。
しかし神山天文台では、天体観測だけにとどまらない様々な研究、活動を行なっています。
「天文台を通じて社会とつながる」という方針にもとづいて運営されている神山天文台では、どのように研究を社会に役立てようとしているのでしょうか。

充実した研究環境でトップレベルの観測装置を開発

京都産業大学 神山天文台

 神山天文台は、京都産業大学創設者の荒木俊馬初代総長が、宇宙物理学の研究者であったことから、創立50周年記念事業として2010年(2009年竣工)に設置されました。

 天文台を持つ大学は国立・私立含めて日本にいくつかあります。ただしその多くは大学のキャンパスから離れた場所にあり、学生が頻繁に利用できるところは少ないのが実情です。神山天文台は京都産業大学のキャンパス内に設置されているため、いつでも学生や近隣の人が気軽に足を運べることが大きな特徴であり、「大学は実社会から遊離してはならない」という荒木総長の建学の精神に根ざした活動を目指しています。

 神山天文台における活動には、大きく三つの顔があると考えています。

 一つ目は、学術研究の拠点としての顔です。天文学にも様々な領域がありますから、世界中の天文学者に対して、どの分野で最先端の成果を発信していくかが大切となります。神山天文台では、「世界最高レベルの天体観測装置を作ること」に力を注いでいます。天文観測では望遠鏡自体の口径や性能も大切ですが、それと同じぐらい、光の分析や性能向上のために望遠鏡に取り付ける 「観測装置」と呼ばれる機器が重要になります。観測の目的によって必要な装置も変わってくるため、どれだけ独創的で、優秀な装置が作れるかで、研究成果が大きく変わってくるのです。

装置の開発の実践により学生の知識とスキルを高める

京都産業大学 神山天文台

 二つ目の顔は、「観測装置の研究開発を通じて、学生への実践的な教育を行うこと」です。神山天文台では、最先端の装置を開発できる環境を整備しており、大学の天文台でこれだけの研究室と実験装置の開発機器を設置しているところは、国内にもそうないと自負しています。スタッフについても、それらの設備を十分に使いこなせる非常に優秀な人材が全国から集まっており、世界最高峰の研究が日夜行われています。

 こうした研究・開発には、学生たちにもチームの一員として加わってもらっています。学生と研究員たちが一丸となって、世界最高レベルの観測装置の完成を目指すことで「自分は天文研究の最前線にいる」とモチベーションを高めてもらうのと同時に、非常に精密かつ高性能な装置を開発するスキルを、学生達に身につけてもらおうと考えています。

 装置開発においては、私たちの天文台の中だけで全ての加工を行うのは不可能です。外部の企業に作業を依頼して、一緒に開発を進めることもよくあります。その経験を通じて、学生たちは企業との仕事の進め方や、ビジネスのマナーを実践的に学ぶことができます。

天文台は社会へとつながる一つの「窓」

 三つ目の顔が、天文台を通じて日本の産業界とつながりを作ることです。天文台の望遠鏡は京都の西村製作所製ですが、地元京都の企業にも我々が持っている開発機器を開放するなど、企業との連携を様々なところで行なっています。大学が社会の中の一員として貢献する方法としては、施設や設備を貸すだけでなく、研究で得た知識や技術をもとに製品を共同開発したり、コンサルティングをしたりといった協力の仕方もあるでしょう。この天文台の三つの顔を集約すると、「モノづくりを通じた教育によって社会とつながる道を目指す」と言えるでしょう。

 天文台は毎週土曜日に一般の人にも開放しており、来訪者の案内なども学生スタッフが担当しています。そこで「科学コミュニケーション」を学んだ学生たちの中からは、科学館や博物館へ就職する人たちが出てきています。神山天文台が実社会の一部となり、色々な方向で役立てる道を模索しているところです。

天文学は総合的な学問。様々な分野へ人材を輩出する拠点へ

 最終的な目標は「人づくり」です。天文学は様々な分野の複合技術の上に成り立つ学問です。非常に弱い星の光を捉えたり、ノイズが混ざった映像の中から鮮明な天体像を取り出す、そんな工夫を日夜行なっています。そこで得られた知見を医療分野に応用すれば、非常に少ない量のX線で鮮明なレントゲン像を撮影する技術を開発できるかもしれません。天文学というと「浮世離れ」した学問という印象があります。しかしその実践には、光学、数学、物理学をはじめ、物性科学や工学全般、コンピュータのプログラミングなど、世の中を動かすハイテクが必要となりますので、実は様々な分野に応用が可能なのです。日本の産業界では今、優秀な技術者がどんどん国外に流出し、高性能な機器を作ることができる人材が激減しています。例えば、アメリカのアリゾナ州立大学は天文学の研究が非常に盛んな大学ですが、卒業した学生が周辺でどんどん機器開発等に関連するベンチャー企業を起こし、地元の経済活性化に一役買っています。神山天文台で学んだ学生たちも卒業後、自分たちで起業したり、会社に入って技術者となったり、あるいは科学分野のコミュニケーターとなることで、社会に大きな貢献をもたらしてほしい。彼らが互いに協力し合って、学んだ技術を活かし、世の中に役立つモノを生み出していくようになった時こそ、この天文台ができた目的が達成されたと言えると思います。

神山天文台 台長 河北 秀世

1994年 京都大学大学院工学研究科修士課程(情報工学)修了
1994年 シャープ(株)に就職
1998年 群馬県立ぐんま天文台に転職
2002年 総合研究大学院大学より博士号(理学)取得
2005年 京都産業大学へ赴任、神山天文台設置を中心となって推進
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