京都市×京都産業大学 共同シンポジウム開催

これを聞けば安心!〜京都市と京都産業大学による感染症対策〜

2012.12.9(日)京都産業大学 むすびわざ館

市民の感染症への意識を高めるため共同研究の成果を報告

 京都市と京都産業大学による共同シンポジウム「これを聞けば安心!〜京都市と京都産業大学による感染症対策〜」が、2012年12月9日 本学むすびわざ館で開催されました。今回のシンポジウムは、2011年3月に締結された学術協定「感染症及び食品の安全の研究に係る相互連携に関する協定」を機にスタートした、総合生命科学部および鳥インフルエンザ研究センターと京都市衛生環境研究所との共同研究の成果を報告すると共に、市民の感染症対策に対する意識を高めるきっかけになることを目的としており、2015年に迎える本学設立50周年の記念事業のひとつとして位置づけられています。

 京都市には鴨川など渡り鳥が飛来する場所があり、まわりを囲む山々など感染症の病原体を保有する昆虫などが生存できる自然環境が残っています。また世界的な観光都市で人や物の流れが多く、国境を越えて病原体が移動するリスクがあるため、今回のシンポジウムは関係者だけでなく市民からも注目され多くの方にご参加いただきました。

国内および世界における感染症の現状とその対抗策

 シンポジウムは門川大作 京都市長、本学 藤岡一郎 学長の開会挨拶によって始まり、両氏は国際観光都市である京都における感染症対策の重要性を指摘され、京都市と本学との共同研究によって遂行される京都市及びその周辺の人の健康をそこなう病原体の分布解明、感染症発生リスクの評価、その予防対策の確立への期待を述べられました。

鳥インフルエンザの解明はヒトのインフルエンザ撲滅の第一歩

第1部 基調講演

 第1部では、まず鳥インフルエンザ研究センター長 大槻公一教授が基調講演として『身近に潜む危険な病原体への対抗策』をテーマに講演。日本では1957年以降発生していないものの、世界中で頻繁に発生している狂犬病を例に挙げ、発症した場合ヒトや動物に現れる症状、アライグマやコウモリなど犬以外の狂犬病媒介動物、海外旅行の際の予防策などを紹介。参加者は遠い存在だと思っていた狂犬病などの感染症にも感染する危険性があるという話に緊張感を持って聞き入っていました。

 話題はインフルエンザに移り、中国や台湾をはじめ世界における近年の発生状況を交えながら鳥インフルエンザがすべてのインフルエンザのルーツであり、鳥インフルエンザを 解明することがヒトのインフルエンザの撲滅につながることを訴えかけました。

 大槻教授の基調講演に続き、『今年のトピックス』として京都市衛生環境研究所 食肉検査部門の男成良之氏が、食肉衛生の健全な食生活を営む上での重要性を解説した後、食肉を安全に提供するための流通と検査内容を紹介し、さらに現在注目されている生レバーなど生食用食肉の規制や食中毒の予防策について解説しました。

京都市と本学の共同研究の成果を報告

第2部 調査研究報告

 第2部は調査研究報告として、最初に『かゆいだけじゃない!蚊と病気の微妙な関係』というテーマに沿って、総合生命科学部の前田秋彦教授、京都市衛生環境研究所 衛生部門の池永充宏氏、伏見区役所 保健部衛生課の近野真由美氏の3名による講演が行われました。


身近にいる蚊と感染症の関係に迫る

 前田教授は、感染症の病原体を伝搬する蚊と病気の関係について講演。蚊が伝搬する代表的な感染症として日本脳炎、デング熱、チクングニア熱、マラリア、フィラリア症を取り上げ、媒介する蚊やウイルスの種類、症状の紹介に加え、ワクチン接種や外出時の服装など蚊による感染の対処策をレクチャーしました。

 池永氏は蚊の生態や種類の他、現在取り組んでいる京都市に生息する蚊を調査研究するための捕獲活動について話され、近年ではデング熱やチクングニア熱を伝搬するヒトスジシマカが多くなっていることを説明し、参加者から高い関心が寄せられました。

 近野氏は京都に生息する蚊が持つ病原体と病原体検出の検査方法を紹介すると共に、2011年と2012年に実施された京都市内で捕集したヒトスジシマカのデングウイルス、チクングニアウイルス、日本脳炎ウイルスの検査結果を報告(ウイルスは検出されず)。

 このように共通のテーマに沿って3名が講演する形式によってそれぞれの専門性を活かし、分かりやすく蚊と感染症の関係について参加者に説明がされました。

鳥インフルエンザの感染メカニズムを解説

 続いて鳥インフルエンザ研究センターの桑弘樹准教授が『インフルエンザウイルス 知られざる真実』というテーマで講演。インフルエンザウイルスは、構成するHA(ヘマグルチニン)とNA(ノイラミニダーゼ)の性質の違いによってHAは1〜16、NAは1〜9の亜型に分類され、144種類のウイルスがあり、カモはすべてのウイルスに感染する動物であることを紹介。カモの場合は感染しても症状が出ない低病原性鳥インフルエンザであるため広範囲に移動(渡り)することができ、何らかのかたちでニワトリに感染し、ニワトリ同士で感染を繰り返すうちに病原性の高い高病原性鳥インフルエンザに変わり、他の動物やヒトに感染するようになるメカニズムを解説しました。

 そして、国内での高病原性鳥インフルエンザの発生事例や感染経路、今後高病原性鳥インフルエンザに変わる可能性のある低病原性鳥インフルエンザの発生状況、東南アジアにおけるワクチン接種の実情などを交えながら鳥インフルエンザの感染の実態に迫っていきました。

 講演の後、参加者から寄せられた感染症に関する質問に講演者が答える総合討論会を実施。一般の方々が感じる疑問や不安に分かりやすく回答することで、インフルエンザをはじめとする感染症予防対策についての具体的な知識、たとえば抗インフルエンザウイルス作用機能を持つマスクの有用性あるいは石鹸での手洗い、うがいがウイルス感染予防に役立つことを参加者は習得することができました。今回のシンポジウムは、市民の方々に感染症に関する正確な情報を伝えることで感染症に対する意識を高め、効果的な予防・対策につなげる意義のある交流の場となりました。

  • 京都産業大学 鳥インフルエンザ研究センター センター長
    (総合生命科学部 教授)
    大槻 公一

  • 京都市衛生環境研究所
    食肉検査部門
    担当課長 男成 良之

  • 京都産業大学
    総合生命科学部 教授
    前田 秋彦

  • 京都市衛生環境研究所
    衛生部門 担当係長 池永 充宏

  • 伏見区役所保健部衛生課
    主任 近野 真由美

  • 京都産業大学 鳥インフルエンザ研究センター 兼務所員
    (総合生命科学部 准教授)
    髙桑 弘樹

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