鳥インフルエンザ研究センター センター長
総合生命科学部 動物生命医科学科 教授 大槻 公一

鳥インフルエンザ研究の充実を図ると共に多くの方に正確な知識と情報を伝える啓発活動に尽力

 鳥インフルエンザの研究はこれから大きく発展し、社会に貢献できる可能性を持った分野です。私はセンター長として、質の高い研究をスムーズに行うためにセンター全体のマネジメントを行うと共に、鳥インフルエンザに関する知識と情報を伝える啓発活動にも積極的に取り組んでいます。

30年に渡る鳥インフルエンザの研究を当センターでさらに発展させて社会に貢献

 今から約45年前、コロナウイルスの一種で鳥類が気管支炎を引き起こす鶏伝染性気管支炎ウイルスの研究に携わることになりました。当初は多くの研究者が取り組んでいたのですが、解明することが非常に難しいウイルスで、なかなか成果が出ないために、ほぼすべての研究者が手を引いてしまう状態になってしまいました。私たちの研究チームも行き詰まり、まずコロナウイルスに似た鳥インフルエンザウイルスの研究をすることで進展の糸口を見つけることになりました。また、当時WHO(世界保健機関)がヒトの新型インフルエンザの発生に鳥インフルエンザが関与している可能性があると伝えたことも研究をはじめる大きな要因になりました。

 当初は、鳥インフルエンザとヒトのインフルエンザとの関連について分かっていなかったのですが、北アジアから飛来する渡り鳥は鳥インフルエンザウイルスを保有し、そのウイルスはほ乳類にも感染することをつきとめました。そして2004年の国内での鳥インフルエンザ発生によって鳥インフルエンザ対策の確立の要望が高まり、2006年に開設された当センターでさらに研究を発展させることになりました。

センターの優れた知識と技術を活かすため学内外問わず積極的に活動

  現在は、次の4つの活動をメインに、センター全体のマネジメントを行っています。

(1)質の高い研究を行うための体制づくり

 生態学研究部門・病原体解析研究部門・防疫研究部門の3部門がそれぞれの専門性を発揮しながら効果的に連携できる体制を備えています。また、外部機関とのネットワーク構築にも力を入れています。

(2)プロジェクトのコーディネート

 国や自治体、企業などから共同研究や素材の検証を依頼された際に、目的や内容に合った研究の方向性を決め、効果的にプロジェクトを進めるためのコーディネートを行っています。特に行政機関との連携に関しては、今までの経験やネットワークを活用することで独自の貢献ができるのではないかと考えています。

 代表的な例として、現在、京都市と連携して賀茂川で越冬するカモやカモメなどの調査・研究を行っています。京都市内には賀茂川のように鳥インフルエンザウイルスの自然宿主である渡り鳥が飛来する場所があります。国内だけでなく世界各国から訪れる数多くの観光客の安全性が確保され安心して滞在できるためにも、市も鳥インフルエンザに対する認識が高く、共同研究の進展が期待されています。

(3)研究データの解析・評価

 センターで行うさまざまな研究についてのデータを検証・評価します。豊富な経験と長期間に渡るデータや世界規模のデータに加え、BSL3施設での実験で得たデータを活用することで世界的に見てもトップレベルの検証・評価を行うことが可能です。

 企業が開発する抗ウイルス作用を持つ製品の評価もその一つで、感染を防ぐ薬剤や衣服の開発など、大きな可能性を持っています。

(4)鳥インフルエンザに関する情報発信

 一般の方々の鳥インフルエンザに関する認識は以前に比べて高くなりましたが、まだまだ充分とはいえません。少しでも多くの方に正しい知識を持っていただけるよう啓発活動にも力を入れており、センターが開設されてから200以上のシンポジウムやセミナーで講演を行っています。

 鳥インフルエンザの研究は自然が対象であるため、長いスパンで取り組むことが重要です。そのためには人材育成と長く研究をつづけられる環境が重要です。今後はこのような環境づくりにも取り組み、研究活動の充実につなげていきたいと考えています。

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