ミツバチ産業科学研究センター員
総合生命科学部 動物生命医科学科 教授 竹内 実

センターでの研究活動でハチミツの新たな可能性を探る

 私が従来から取り組んでいる大きなテーマである「喫煙と天然成分による免疫機能への影響について」の研究を進める過程で、「ジャングルハニー®」というハチミツに出会ったことがきっかけとなり、今回センターの設立に伴い「ハチミツによる生体の免疫機能に及ぼす効果の検証」という課題を掲げました。

喫煙による肺の免疫機能についての研究過程で「ジャングルハニー®」の効果に注目

「ジャングルハニー®」の
好中球に対する走化活性

 センターでの取り組みの一つとして「ハチミツによる生体の免疫機能に及ぼす効果の検証」を行っていますが、これは私が以前から取り組んでいるタバコ煙による免疫機能、およびがんとの関係を個体、組織、細胞、遺伝子レベルで解明する研究と密接につながっています。

 “タバコは健康に悪い”と言われていますが、喫煙者の中には健康を害する人とそうでない人がいます。これは、体内に入った有害物質や細菌・ウイルスなどの病原性微生物を排除して、病気になることを防いだり回復させたりする「免疫系」がはたらいていることを意味しています。

 肺の免疫系の代表的な細胞に「肺胞マクロファージ」があり、喫煙者が肺がんなど肺の病気にかかる割合が高いのは、煙に含まれる成分が肺胞マクロファージに悪影響を及ぼしている可能性が高いと考え、マウスと自動喫煙装置を用いた実験を行ったところ、喫煙によって肺胞マクロファージが損傷し、免疫機能が低下していることが分かりました。また、肺胞マクロファージがバクテリアなどを殺すときに出す大量の活性酸素が人体に悪影響を及ぼすことも明らかになりました。傷ついた遺伝子を修復する際に間違った遺伝子ができ、そこから生まれた異常細胞が、がん細胞になるのです。

 喫煙が免疫機能の低下に関連していることが分かり、次に考えたのが低下した免疫機能を回復させることでした。そこで注目したのが、ナイジェリアで採れるハチミツ「ジャングルハニー®」です。「ジャングルハニー®」は現地ではケガや病気の治療に用いられており、効能を検討したところ、白血球の一つで殺菌作用のある細胞である「好中玉」の活性化を促進し、また肺胞マクロファージの活性化も確認されました(図)。

センター産ハチミツの効能と成分を解明することで医療方面での活用も視野に

 センターの研究では、センター産やその他の国産ハチミツに「ジャングルハニー®」と同じような効果があるのか、また効果があるとすれば、どのような成分が作用しているかなどを明らかにしたいと考えています。その他にも蜜源の異なるハチミツの作用について調査することが、新しい発見につながるかもしれません。そうなればハチミツが食品関連だけでなく、医療方面でも活用できる可能性も生まれるでしょう。

 センターは、ミツバチを対象とした研究とハチミツの研究を並行して行う貴重な研究機関です。ミツバチとハチミツ両面からのアプローチをとることで、品種改良したミツバチから採れるハチミツの成分と効能を調べるなど、特定の効果があるハチミツを作り出すミツバチに品種改良するなど、さまざまな面で連携できるのではないかと期待しています。

※「ジャングルハニー®」は(株)日本オリジンズの登録商標です。

用語集

はちみつの種類

国産単花はちみつ
(左からソバ、トチ、レンゲ、アカシア)

 特定の花を中心にミツバチが集めてきたはちみつを単花はちみつ、蜜源が多様な種類の花に由来する場合を百花はちみつと言う。日本は南北に長い地理的特徴により地域ごとに多様な蜜源植物が生育していることから、たくさんの単花はちみつが生産されている。日本の代表的な単花はちみつには、レンゲ、アカシア、モチ、トチ、ミカン、ソバなどがある。

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