ミツバチ産業科学研究センター員
総合生命科学部 生命資源環境学科 准教授 高橋 純一

ミツバチの研究だけにとどまらず、社会とつながる活動を展開

 遺伝子レベルの解析を元にしたミツバチの品種改良をはじめ、養蜂関係者や農家を支援するさまざまなプロジェクトに携わっています。さらに養蜂関連産業の次世代を担う人材の育成などにも力を入れていきたいと考えています。

遺伝子レベルの解析に基づくミツバチの品種改良に取り組む

ミツバチのDNAジェノタイピング解析例

 センターでは遺伝子レベルの解析とバイオテクノロジーを利用した繁殖技術に基づいて、ハチミツの生産性が高い品種、病気に強い品種など、養蜂産業の活性化につながるミツバチの品種改良を行っています。養蜂がはじまってから長い歴史があるものの、今まで誰もミツバチの品種改良に成功したことがないだけに、非常にやりがいのある研究だと感じています。また将来的には、当センターの機能を活用して、改良したミツバチから採れたハチミツの効能分析や新しい農作物の受粉に利用できればと考えています。

 先ほど述べたミツバチ不足の原因は明らかになっていませんが、ウイルスや寄生虫などによる病気の蔓延、開発によるミツバチの食物となる蜜源植物の減少、農薬による影響など、さまざまな要因が複合的に関係していると考えられます。植物が減ると、それをエサにするミツバチが減り、ミツバチが減ると受粉ができなくなり植物がさらに減るという負のスパイラルが発生し、それは農作物の生産にも影響することから問題は深刻化してしまいます。

 事態を重くみた農林水産省はミツバチを安定的に確保するべく、養蜂産業の支援に取り組みはじめました。私もこの取り組みに参加し、養蜂産業に貢献していきたいと考えています。

 その他にも次世代の養蜂家の育成や、都市の緑化促進、地域活性化を目的とした養蜂などにも取り組んでいく予定です。

北海道のトマト栽培を支援する在来種マルハナバチの人工増殖に取り組む

人工増殖したエゾオオマルハナバチ

 日本での近代的な養蜂は明治時代にはじまり、現在ではハチミツの生産だけでなく、農作物の約70%がミツバチによって受粉されています。しかしながら、国内では養蜂産業を支援する専門的な研究機関がないため養蜂産業はミツバチ及び養蜂生産物の生産性向上や安定供給化に向けて様々な問題が山積しています。   しかし、数年前に起こったミツバチ不足をきっかけにミツバチの重要性が見直され、国も支援に取り組みはじめました。このような状況の中でセンターが開設されたことは、時代の要請に対応しているため、今後は重要な役割を担っていくことになるでしょう。

 私はセンター開設前から集団行動を行うハチを対象に、社会性進化のメカニズム解明と、農業分野で有効活用するための応用学的研究を行ってきました。また、絶滅が危惧される生物種の保全を目的とした研究にも取り組んでいます。

 代表的な研究の一例が、マルハナバチの人工増殖法の確立です。北海道ではトマト栽培をする際、受粉のためにセイヨウオオマルハナバチを輸入して用いていたのですが、ハウスから逃げ出して帰化し、在来種のマルハナバチの減少や在来植物との送粉共生関係の崩壊といった問題が発生しています。その解決策として在来種の一つであるエゾオオマルハナバチを人工増殖し、受粉に利用することが有効だと考えられています。現在、環境省からの支援を受け、この技術開発に取り組んでいます。また、この技術は、在来マルハナバチ類の保全にも応用することが可能であると考えています。

用語集

マルハナバチ

セイヨウ
オオマルハナバチの女王蜂

 ミツバチ科に属するハナバチの一種である。ミツバチよりも高緯度・寒冷地域を中心に分布し、世界で約250種類が知られている。近年、環境開発や温暖化などの影響により世界規模で減少し、多くの種の絶滅が危惧されている。日本には、16種のマルハナバチが生息している。1990年初頭から欧州原産のセイヨウオオマルハナバチがトマトなどの施設栽培用の受粉昆虫として輸入されるようになったが、ハウスから逃げ出した一部の個体が帰化し、在来生態系への影響が懸念されることから特定外来種に指定され、利用が制限されている。

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