ミツバチ産業科学研究センター員
総合生命科学部 動物生命医科学科 教授 松夲 耕三

急増する糖尿病と肥満の関連をテーマに大きな可能性を秘めたハチミツを研究

 日頃取り組んでいる「肥満が糖尿病を誘発する原因遺伝子の解明」に向けた研究の一環として、センターではハチミツの糖尿病改善の作用について研究しています。

糖尿病と肥満の関連を探る研究からハチミツの糖尿病改善作用の研究に発展

 私の専門は、「肥満が糖尿病を誘発する原因遺伝子の解明」をテーマにした研究です。近年、体内の血糖値をコントロールする仕組みが低下して発症する2型糖尿病が急増しています。これは、栄養過多、運動不足といった生活スタイルの変化による肥満の増加と密接に関連していると考えられています。日本人は肥満に対するすい臓の抵抗性が弱く、インスリンの働きが低下しやすいために、明らかな肥満体型でない人でも注意が必要とされています。

 もう一つ糖尿病の原因となっているのが遺伝です。肥満の人でも、糖尿病を発症する人としない人がいることからも、何らかの遺伝子が関連していることは間違いありません。肥満にともなって活動が顕在化する糖尿病遺伝子を特定することができれば、予防や治療の手がかりになるでしょう。

グルコース、フルクトース、ハチミツの血糖値への影響を調べて原因究明へ

ハチミツ摂取後の血糖値の変化

 センターのメンバーに加わったのは、ハチミツが糖尿病の改善に効果があるといわれていることを知ったことがきっかけでした。世界中の文献を調べてみると、糖尿病患者がグルコース、フルクトース、ハチミツそれぞれを摂取した後の血糖値の変化を調べたところ、ハチミツが最も低かったという研究結果を見つけました。ハチミツにはグルコース、フルクトースの両方が含まれているので、普通に考えれば血糖値はこの二つの中間になるのですが、結果は違いました。もしもそのデータが本当であれば、ハチミツにはグルコースやフルクトースにはない、血糖値を下げる何らかの成分があると考えられるのです。

 センターでの取り組みの一つのテーマである「ハチミツを利用した糖尿病への効果の検証」では、マウスを用いて、グルコース、フルクトース、ハチミツを投与した場合の血糖値の変化や、長期投与した場合の効果などを調べ、ハチミツと糖尿病の関係を明らかにするだけでなく、ハチミツに含まれる成分の分析もできればと思っています。成果をあげることができれば、将来的には創薬はもちろんのこと、さまざまな検査システムの開発に役立たせることが可能です。こうした研究を行う上で、センターにはミツバチやハチミツに詳しい研究者が所属しているため、協力し合うことでより質の高い研究を行うことができると期待しています。

 センターの特長は体制や設備だけではなく、「サイエンスと自然や産業を結びつけた研究」を基本姿勢としていることだと私は感じています。人と自然の共生が大きな課題となっている今、センターの基本姿勢は重要な意味を持っています。私自身も今まであまり機会がなかったフィールドワークにも携わることができ、非常に楽しみにしていますし、学生にとっても魅力的な取り組みになると思っています。

用語集

はちみつ

 ミツバチが花から集めてつくりだす天然の甘味物質で果糖とブドウ糖を主とする数種類の糖類からなり、それに加えて有機酸や酵素などから構成されている。一般的な花はちみつ(Blossom Honey)または花蜜はちみつ(Nectar Honey)は、植物の花蜜に由来するはちみつのことである。甘露はちみつ(Honeydew Honey)とは、種として植物の生組織上で植物の汁液を吸うアブラムシやカイガラムシなどの昆虫や植物の生組織上からの分泌物に由来するはちみつのことである。

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