ミツバチ産業科学研究センター長
総合生命科学部 生命資源環境学科 教授 野村 哲郎

困難とされるミツバチの品種改良を行い、養蜂産業の活性化を目指す

 センターでは、これまで取り組んできた黒毛和牛などの品種改良で培ったノウハウを活用し、ハチミツの生産性が高い品種をはじめ、病気に強い品種などの品種改良を目的とした研究を行っています。

遺伝的多様性の観点から黒毛和牛の品種改良などに従事

 これまで主に家畜を中心とした動物の品種改良と野生動物の保護・増殖について、遺伝学を応用した研究を進めてきました。これらの研究が成功するには、対象となる生物群(集団)の中に遺伝的多様性が存在すること、すなわち様々な特徴のある遺伝子を持った個体が存在することが前提となります。
 代表的な例として挙げられるのが和牛の問題です。牛肉の輸入自由化以降、黒毛和牛(黒毛和種)の生産者が安価な輸入牛肉に対抗するため、霜降り肉の生産に力を入れるようになった結果、今では全国の和牛のほとんどがわずか数頭の種雄牛の子孫になってしまい、遺伝的多様性が急激に低下しました。このような状態では品種改良に支障をきたすだけでなく、将来の経済状況や自然環境の変化に和牛が十分に対応できなくなる可能性があるため、関連機関と協力して遺伝的多様性の維持・拡大に取り組んできました。

国内畜産別生産額
(データは(社)日本養蜂はちみつ協会より)

今まで培ったノウハウを活用し、ハチミツの生産性が高い新品種の開発に挑む

 センターでは、今までの活動を活かして、ミツバチの品種改良に向けた研究を行っています。ミツバチは、牛や鶏とは繁殖の仕方や性(雄と雌)の決まり方が大きく異なるため、まずは1年以内にミツバチの品種改良に応用できる理論を構築して、研究の方向性を決めたいと考えています。そして、コンピュータを使ったシミュレーションにより、品種改良の成果と遺伝的多様性への影響を予測します。動物による実験はコスト、場所、時間などの問題があるため、コンピュータによるシミュレーションは品種改良において大変有効な研究手段となります。ハチミツの生産性が高い品種を作ることを最初の目標としていますが、将来的には病気に強い品種、人を刺さない大人しい品種作りも試みたいと考えています。

 もう一つ取り組まなければいけない課題は、作り上げた品種の維持です。ミツバチは、自然条件下では女王バチが不特定多数の雄と交尾する習性があるため、作り上げた品種が持つ特徴を長く維持することが困難です。そこで、人工授精などの交配を人為的にコントロールする技術を応用して、品種を維持する方法を開発する必要があります。このような課題の解決のために、DNA育種方法を用いた品種改良に取り組む高橋准教授と協力して研究を進めていきます。

 私の研究は養蜂産業や食品産業などと密接に関係してくるため、今後、関係者のニーズや意見などを取り入れながら、産業活性化に貢献していきたいと考えています。

用語集

家畜(産業動物)

 生産物を人が利用するために飼育する動物のことである。日本では、カイコとともにミツバチも家畜の一種とされている。そのため飼育者が適正な管理を行い、生産性を向上させるために養ほう振興法及び家畜伝染予防法といった法律が施行されている。

花粉交配

イチゴハウスで
受粉をしているミツバチ

 植物の受粉のことでポリネーションとも言う。ミツバチが訪花する性質を利用して果樹や施設栽培作物の受粉に利用されている。

PAGE TOP