京都産業大学 構造生物学研究センター

研究者が学科の枠にとらわれることなく連携し、世界の最前線にたつタンパク質の構造研究を実施

私立大学戦略的研究基盤形成支援事業〜「タンパク質の生成と管理」

 細胞のタンパク質は、その生成から分解に至るまで、細胞の環境と生理状況に対応しながら管理されており、そのメカニズムの解明は現在の分子生物学の重要な課題とされています。

 このプロジェクトでは、5名の研究者が協力しながら、転写(RNAポリメラーゼ)、翻訳(リボソーム)、折れたたみ(シャペロン)、タンパク質の品質管理〜分解の各段階に掘り下げて解明します。タンパク質の機能や制御を具体的に知るためには、構造的な理解が欠かせません。そのために、最先端のタンパク質X線結晶解析装置を導入し、構造生物学の研究に取り組んでいます。

生命の働き手、タンパク質を立体構造から理解する

 平成22年、総合生命科学部が発足し、京都産業大学においても、生命の基本的な仕組みと個別のいとなみに関する研究と教育がはじまりました。そして、構造生物学研究センターは、私立大学戦略的研究基盤形成支援事業「タンパク質の生成と管理」の開始に伴い、タンパク質の構造研究に取り組むことを目的に開設されました。センターを構成する研究者は、総合生命科学部の教授5名と、若手のプロジェクト助教5名で、タンパク質の構造生物学を推進します。

 構造生物学とは、「重要な生命科学の事象を目に見える形で解明する」ことです。生命の設計図は、遺伝子の本体であるDNAに4文字(A,C,T,G)で書かれています。近年、DNAの文字を読み取る技術が劇的に進歩し、生物学は新たな飛躍を迎えようとしています。30億あるヒトのDNAの並びがすべて明らかになったのもその成果です。

 一方、生物の体の中で実際にいろいろな仕事をこなしているのはタンパク質です。タンパク質は、DNAの設計図に基づいて作られるミクロの機械のようなもので、研究をする上で重要なのはその立体構造です。細胞の中には何千、何万という種類のタンパク質がありますが、一つひとつ独自の立体構造を持っていて、そのおかげで、それぞれの機能を果たすことができているのです。ですから、タンパク質を理解するには、どうしても立体構造を原子のレベルで詳細に知る必要があります。

 そして、現在その一番有力な方法が、X線結晶構造解析です。あるタンパク質の構造解析が成功すると、その機能に関する詳細な解明に向けて大きく前進することができます。そうなれば、もっと強力な作用を持つタンパク質の設計や、そのタンパク質が関与する病気の新薬の開発につながります。

 総合生命科学部には、細胞におけるタンパク質の生成と管理の研究を活発に行っている有力な研究者や、X線結晶構造解析の研究者が所属しています。構造生物学研究センターは、これらの研究者が持つ知識や技術を活かし、「タンパク質の生成と管理」を行うタンパク質の研究に取り組んでいます。


ノイラミニダーゼ
 インフルエンザウィルスのノイラミニダーゼはウィルスが細胞内に侵入するのに必須の酵素で、タミフル(穴の中の分子)はこの酵素に結合して失活させるインフルエンザの治療薬として開発。

構造生物学に今、何が求められているか

ADPリボシル化毒素とアクチンの複合体結晶

 現在のタンパク質X線結晶構造解析の研究は、膜タンパク質、複雑巨大なタンパク質複合体、希少なタンパク質の構造解析に向かっています。例えば、細胞外の情報を細胞内に伝える膜タンパク質である一群のGタンパク質共役受容体(GPCR)の立体構造の解明があります。長い間、その立体構造の解明は世界の研究者の挑戦を退けてきましたが、現在はラッシュのように次々と解かれています。

 また、リボソームは40種類あまりのタンパク質とRNAからなるタンパク質合成工場のようなもので、これもX線結晶構造解析により、その構造が明らかにされました。さらにさまざまな応用研究も生まれてきています。その一つが創薬への応用です。GPCRや感染症因子のタンパク質の結晶構造に基づいて、これに結合する薬を設計し、効果を確かめる研究が進んでいます。この取り組みによりエイズの治療薬や、インフルエンザの増殖を抑制する薬などが生まれています。このように構造生物学研究センターは、重要なタンパク質の基礎研究から、応用研究へとつながる研究を推進していきたいと考えています。

世界が注目するセンターの研究者が取り組む研究活動

 構造生物学研究センターは、センター長である吉田賢右教授をはじめ、津下英明教授、永田和宏教授、伊藤維昭教授、嶋本伸雄教授の研究室から構成されており、それぞれが、世界が注目する研究を行っています。

 吉田教授は、ヒモ状のタンパク質がからみ合わずに正しい立体構造をとるための補助をしたり、構造が崩れたタンパク質を元の構造に直すはたらきも持つタンパク質のメカニズムの解明に取り組んでいます。

 津下教授は、「感染症の構造生物学」を主題にし、X線結晶解析を用いて、毒素の形やメカニズム、インフルエンザAウイルスRNAポリメラーゼの構造を明らかにする研究を行っており、将来的には感染症治療の創薬に役立つことが期待されています。

 永田教授は、『個々の分子が細胞という場の中でどのような振る舞いをするか』というテーマに基づき、タンパク質がどのように作られ、機能しているかという“細胞内のタンパク質の品質管理”についての研究を行っています。このメカニズムが分かれば、アルツハイマー病などの神経変性疾患や、肝硬変、動脈硬化を筆頭とする線維化疾患の治療に応用できると考えられています。

 伊藤教授は、大腸菌を用いて、新しく作られたタンパク質が細胞内の決まった場所まで運ばれる機能について研究し、その中で合成途上のタンパク質の成長過程の解明に取り組んでいます。

 そして嶋本教授は、大腸菌が栄養不足になったときに増殖を停止して、延命に好適な状態を保つメカニズムを研究しています。

 当センターでは、学内の連携はもちろんのこと、学外の研究者や企業との共同開発なども積極的に行っています。

用語集

X線結晶構造解析

 X線は電磁波の一種であり、波としての性質を持つ。分子が規則正しく並んだ結晶にX線を照射すると、干渉を起こし、ある特定の向きにだけX線が強くなり、他の向きではX線が観測されないということが起こる。こうして得られた回折像の位置や強さから、計算により、分子の構造についての情報を求める方法。

RNAポリメラーゼ

 インフルエンザウィルスはゲノムとしてマイナスRNA鎖を持ち、このRNAを鋳型としてmRNA合成を触媒する酵素、RNAポリメラーゼを持つ。3つのサブユニット、PA、PB1、PB2からなる。

リボソーム

 全ての細胞が持つRNAとタンパク質からなる複合体で、遺伝暗号に従いアミノ酸を結合することによりタンパク質を合成する。

タンパク質の品質管理

 変性したタンパク質を分解処理する機構。すべての細胞に備わっているが、特に小胞体における分解機構、小胞体関連分解(ERAD)が有名。

線維化疾患

 元々体内に多く存在し、組織や臓器の構造を保つ役割を担っているコラーゲン線維が、異常増殖することによって、体内の組織や臓器が硬化や正常な機能を果たさなくなることで生じる疾患の総称。有効な治療薬や治療法が見つかっていない疾患の一つ。

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