コンピュータ理工学部 インテリジェントシステム学科 荻野 晃大 講師

よく遊び、よく学べー感性工学とは、そこから人々のニーズを捉え、感性豊かな生活を支援する学問

日本発祥の感性工学は“よく遊べ、よく学べ”がキーワード。
日々の生活にアンテナを張り、そこから人々のニーズを捉え、
それをモノやサービスとして具体化することで、
人々が感性豊かな生活を送れるように支援をする。

コンピュータ理工学部 インテリジェントシステム学科 荻野 晃大 講師

感性に適するモノを探したり、新たに作ったりする仕組みを開発

感性工学の流れ

 感性とは、絵画や洋服、家具などの“モノ”に関して人が感じる「楽しい」や「きれい」などの印象のことであると捉えています。そして工学とは、モノを作ったり、サービスを提供したりするための仕組みを作ることです。この2つを組み合わせた感性工学とは、モノに対して人々が抱く感性をコンピュータで真似し、人々の感性に適する新しいモノの制作や、現在あるモノの中から検索する仕組みを開発することです(図1参照)。
 世の中にはモノが溢れているのに、「自分に適するモノがない」や「欲しいモノが見つけられない」と感じたことはないでしょうか? これは、「きれい」や「かっこいい」などのモノに対して抱く感性が、昔のように年代や性別で同じではなくなり、多種多様化してきているためであると考えられます。人々が多種多様な各自の感性を満たせるような生活を送れるようにするためには、以前のような同じようなモノを大量生産・大量消費のような生産方式ではなく、人々の感性を反映させたプロダクトデザインや製品生産、新商品開発を行っていく必要があります。また、現在のような大量にモノが氾濫している状況では、多くのモノがあるのに自分に最適なモノが見つけられないということも起こります。そのため、その人の感性に適するモノを探してあげる必要があります。感性工学は、「人々のニーズに適する新しいモノの制作支援」、「人々のニーズに適するモノを探す支援」という2つの側面から、多種多様な感性を満たせるような生活を支援する学問なのです。
 また感性工学は、日本が発祥の新しい分野の学問で、英語でもKANSEI engineeringといいます。感性工学を研究する人が集まっている日本感性工学会は、設立されてまだ10年ほどです。このように新しい分野なので、まだまだ未知なことが多く、これからの学問であると言えると思います。

人それぞれの、普段の感じ方や興味に合った情報が得られるよう手助けする

 第1に、感性工学は情報を調べるという情報検索の分野で生かすことができます。感性工学を用いたサービスによって、人々は各自の感性に適するモノを探すことが出来るようになります。例えば、「フェラーリが欲しい」と明確な目的がある人にとってインターネットが発達した現代は、検索サイトで調べるだけでフェラーリに関するいろいろな情報が取得できるため、買いやすいと思います。しかし、「格好いい車が欲しい」のようにあいまいな状態でインターネットを調べても、自分の抱く“格好いい”という印象に関係のないものが出てきてしまいます。これは、“格好いい”の概念が人によって違うためです。したがって、「この人がいう“格好いい”はこういうイメージだ」いうことを感性工学の技術を利用してコンピュータ上で模倣することにより、明確な目的をもっていない人でも適切な情報に達することができます。このように感性工学は、明確な目的を持っていない人、あいまいな目的で情報を探したい人に対して、自身の感じ方や興味に適する情報を獲得する手助けになり得ます(図2参照)。
 第2に、感性工学はモノを生産するという製品製作の分野で生かすことができます。現在の消費者の感性を反映させたデザインを持った商品を制作することが出来ます。以前は機能さえ良ければ売れていましたが、今は機能が良くても売れない時代になりました。消費者の感性に適するようなモノを制作するために、感性工学がその手助けになるかもしれません。以前は20代の男性はこんなモノ、30代の男性はこんなモノと、おおよそカテゴライズができていました。今は20代でもきちんとした格好が好きな人もいれば、50代だけれどもダボッとした格好が好きな人もいます。50代だから、20代だからこうだという世界ではなくなり、企業のマーケティング担当者もカテゴライズ(セグメント)ができなくなってきました。このような問題を解決するために、同じような感性をもっている人で分類することにより、人々のニーズを的確に捉えた分類を行えるようになります(図3参照)。そして、この人々の感性の傾向を分類した情報を「世の中はこんなふうに言っています」とプロダクトデザイナーに伝えることによって、人々の感性に適した製品を作るためのサポート行うことができます。だからこそ、最近注目を集めてきている学問なのだと思います(図4参照)。
 第3に、感性工学は人と人をつなげるコミュニティー創造の分野で生かされます。これにより、モノに対して抱く印象が同じような人と人をつなげるために役に立つことが出来ます。現代は、近くにいる人が本当に自分に合う人とは限らない時代になりました。そんな中で、インターネット上で自分の興味と会うような人を探すことが出来るmixiやmyspaceなどのソーシャルネットワークサービスも広がってきています。感性工学は、趣味や職業などのつながりだけではなく、同じようなモノに関する感性を持つような人とつながり会える世の中を作るための手助けとなると考えています(図5参照)。

人々の感性が豊かで和やかな社会を目指すのが感性工学の究極目標

 感性工学は、人々のモノに関する感じ方、印象を感性として捉え、その感性を利用した仕組みを作ることにより、人々の生活を豊かにする支援を行う学問です。そのため“常に人を見て、時代を見て、今世の中がどうなっているかを捉える”ことが必要となります。「人のニーズをいかに捉えて、それをどのように具体化するのか」ということが、感性工学で一番重要な部分です。シーズ(アイデアやコンセプト)のみに基づいたモノやサービスを作るのではなく、常に日々の生活にアンテナを張り、そこから人々のニーズを捉える努力をしています。感性工学は、研究室でコツコツやっているというより、いろいろな人やモノに出会って、それらの利点や欠点を見分ける必要があります。そのため感性工学をより理解するためには、人々の生活をよく知るという意味で「よく遊び、よく学べ」ということを行わなければならない、ちょっと変わった学問なのかもしれません。
 感性工学は、「人々が感性豊かな生活を送れるように支援を行うこと」を目指しています。感性工学には、感性に適するモノを作成したり、探したり、感性が似ている人と人を繋げたりする側面があると同時に、人の感性に変化をもたらす側面も持ち合わせいると考えています。感性工学は人の生活を支援するための学問として位置していると私は考えています。例えば、自分にはこれが似合うと思っている人に対して、「こちらも似合いますよ」といつもとは違ったモノを気づかせてあげられたら、その人の感性がより豊かなものになるかもしれません。感性工学は、人のコピーをつくるのではなく、モノに対して感じる印象や興味の感度を高められる手助けをできる学問になって行けたらよいと思っています。コンピュータが上に立つのでなくて、人々がより望む次のステップへ行けるような支援をする。これが感性工学の目指すところだと思います。そして皆が感性豊かな人になって、ひとり一人が満足して生活できるような社会に感性工学が寄与できたら幸いだと思っています。

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