文化学部 西川 信廣 教授

教育制度の見直しによって義務教育が変わろうとしている。
これまでの6・3制という区切りから、小中一貫教育へ。
学校現場との接触から問題点をとらえ、小中教育の将来、地域と学校の在り方を模索する。

小中一貫教育が注目を集めています。長く続いてきた日本の6・3制の義務教育は、どのように変わっていくのでしょうか。

文化学部 西川 信廣 教授

 私の専門は教育制度学で、学校をはじめとして塾や予備校、家庭教育も含めた幅広い学問です。もともとの研究領域はイギリスの教育史でとくに教師教育学を専門とし、1990〜91年にはケンブリッジ大学で在学研究をしていました。帰国してからは、日本の学校をもっと良くするにはどうしたらいいか、学校の現場に入りこんで、学校の先生方といっしょに教育臨床学の観点から研究を進めています。具体的には学校の校内研修会に参加したり、研究会の講師をやったり、教育委員会の審議会などの委員や座長をつとめています。

 そうした中で最近興味をもって研究を進めているのが、小中一貫教育です。日本はご存じのとおり、1947年以降6・3・3・4制となり、義務教育は小学校6年、中学校3年の9年間です。私立や一部の公立高校では中学校と高校の教育を一貫して行う中高一貫教育が広まっていますが、これらの学校の多くのものは、難関大学への進学を目標にしています。小中一貫教育は目的がまったく異なっていて、義務教育の9年間を再編成しようというものです。背景には、最近の子どもたちの肉体的・精神的発達の早期化が著しく、6・3という分け方がそぐわなくなったということです。やはり、発達段階に即した教育内容や指導方法をとることで教育効果をあげるべきだと考えられています。

 ただ、そこには大きな問題がありました。これまで小学校と中学校の交流がほとんどなかったということです。小学校は一人の担任の先生が複数の教科を教える学級担任制、中学校は教科で先生が変わる教科担任制です。たとえば、小学校の算数と中学校の数学では、その連携がほとんどなかったのです。そればかりか、隣同士にある小中学校でも学校間の交流もなく、お互いの校長を教員たちが知らないという現状であったわけです。

 学校間の連携を進めることが急務なのですが、子どもの発達の観点から言えば、6・3制のままで良いのかという議論が当然必要になります。では、6・3制をどうするか。たとえば、4・3・2制という再編案では、小学4年までを前期課程、5年、6年、中1を中教育課程、そして中2、中3を後期課程に分ける考え方です。他にも5・4制という考え方もあります。これまでの教育環境、地域の事情、いろいろなことを含めてまだまだ議論の余地が残されています。しかし大切なことは、学校制度をどうするかということよりも、義務教育に関わる全ての教職員が、子どもたちの15歳の学力に責任がもてるような教育を進めることだと考えています。

日本の教育制度が大きな転換期を迎えているわけですね。日本の教育の現状と、これからの展望をお聞かせください。

 OECD(経済協力開発機構)の学習到達度調査(PISA)が2000年から3年おきに実施され、その結果が世界的に公表されています。日本は毎回順位を落としていて、文部科学省も「世界のトップレベルとはいえない」と厳しい現状認識をしています。

 PISA調査でいつもトップクラスにあるのがフィンランドで、知られているように福祉国家です。義務教育は7歳から16歳までの9年間を一貫教育で実施されています。最近、学習指導要領を簡素化して、教育内容の自由度が高いといわれています。大学も含めて、授業料も給食費も無料です。一方では教師に対する保護者の評価も制度化されており、大学院を出てないと教師になれないという現実もあります。同時に、韓国もPISA調査ではトップクラスにあります。東アジアの国は、日本の教育制度と同様に6・3制のところが多く、韓国も6・3制です。また、韓国は日本以上の受験大国です。この異質な2つの国がPISA調査ではトップクラスとは、どういうことでしょうか。私は富士山に登る道は一つじゃないのだ、と思います。

 イギリスでは義務教育は5歳から16歳までの11年です。最近18歳まで期間を延長しようという議論が進んでいるようですが、その中の学校段階の区切りはかなり自由です。私立学校の中には13歳からしか入学させない学校もあります。学校選択制も浸透していて、基本的にどこの学校でも選べるという制度になっています。こういう制度ですと、学校が競争原理にさらされ小規模学校は淘汰されるという側面もありますが、人気のない学校は様々な努力をして、結果的に全体的な教育力は向上しているといわれます。

 要は制度と運用なのです。学力実態調査も大切ですが、それも間違って運用すると学校の序列化につながります。地域と密着した公立学校作りを目指して、学校運営協議会をつくっても、間違うとボス支配が横行します。

 日本でも学校選択制を導入する地域が出てきました。最初は生徒が激減した学校でも、その後の努力によって数年間で元の人数以上に戻したという例もあります。入学者が激減したある学校では、夏休みに先生と生徒が校舎のペンキ塗りを始めました。そうすると落書きが消える。生徒が、落書きをしようとした生徒に注意するようになります。こうした自主的な取り組みをして、学校はその地域で評判を上げていくのです。私自身は、学校選択制は理念的には正しいと思いますが、日本において全国的に実施するのは時期尚早だと思います。まずは、成功事例を検討し、その可能性を探るべき段階だと思っています。

 東京都品川区の小中一貫教育校日野学園などは好事例です。学校ができたために周辺の環境が変わりました。風俗店がなくなって、高級マンションが立ち並ぶ街並みとなりました。これからの都市再生の道は、新しい学校をつくること学校が街づくりの核になることは間違いないと思います。(資料は日野学園のコンセプト図)

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