鳥インフルエンザ研究センターセンター長 大槻 公一 教授

世界の注目を集める鳥インフルエンザ研究の第一人者。
人への感染メカニズムを究明し、脅威となったウイルスの流れを断ち切る。
2006年10月に新設のセンター長に就任、社会貢献を担う。

鳥インフルエンザ研究センターは他に類をみない鳥インフルエンザ研究専門の機関として2006年10月に創設されました。

鳥インフルエンザ研究センターセンター長 大槻 公一 教授

 新しく設置した鳥インフルエンザ研究センターでは生態学、病原体解析、防疫の研究部門を置いて、鳥インフルエンザの発生を防ぐための調査・研究を行います。鳥インフルエンザ研究センターという名称の研究機関は、他にはないと思います。この研究センターの目標は、大きく3つあります。
 第一に、鳥インフルエンザを保有する渡り鳥の調査の範囲を、山陰地方から近畿、九州にいたるまでに広げること。渡り鳥が鳥インフルエンザウイルスを運ぶことは良く知られるようになりました。鳥インフルエンザウイルスを保有する渡り鳥がニワトリ等に直接あるいは間接的に接触してウイルスをニワトリに感染させるといわれています。2006年3月まで、私は35年間にわたって、鳥取大学で鳥の感染病や鳥インフルエンザの研究をしてきました。毎年、渡り鳥がやってくるのを待って、決まった場所で調査する定点観測を続け、採取した糞(ふん)等からウイルスの有無を調べています。関西には琵琶湖もあり、飛来する鳥の種類も変わります。もちろん水鳥だけでなく、陸鳥もいます。今後は調査の範囲を広げることで、本研究センターを鳥インフルエンザの西日本の研究拠点にしたいと考えています。すでに鳥取大学と本学との間で共同研究も始まっており、人的な交流も行っています。調査・研究の対象が渡り鳥ですから、飛来する場所は広範囲です。幅広い協力体制を築きたいと思っています。
 第二に、これからの大学は従来以上に地域貢献、産学交流をすすめる必要があります。そこから新しい成果も生まれてきます。例えば、ウイルス感染の危険性が高まってくると、抗菌性、抗ウイルス性の素材や材料が必要になってきます。そうしたものを共同研究で開発する、または産業界で開発されたものの評価や実験を行うなど体制を整えます。既にいくつかの案件が持ち込まれており、実用化に近い素材もあると考えています。いずれにしても鳥インフルエンザウイルスの感染を防ぐ手段を開発することで、社会に貢献したいと考えています。
 第三は、積極的に海外プロジェクトに参加していくことです。鳥インフルエンザは世界的に流行しています。特にアジアの国々ではかなりの広がりを見せています。ベトナムでは一千万羽以上のニワトリやアヒル等が死亡しており、また44名にも及ぶ死者が出ています。更に、被害は拡大する可能性も秘めています。そうした地域へ積極的に研究協力することで、鳥インフルエンザに対する対策を確立したいと思っています。自然界で起きていることは奥深いですから、多方面から解析することにより全体を捉えていく必要があります。日本とアジア、世界へと研究の範囲を広げていって、鳥インフルエンザの実態を解明できればと考えています。

鳥インフルエンザの世界的権威といわれるように、研究実績は35年以上にも及びますね。

 鳥インフルエンザがここまで世界的に猛威を振るうとは思っていませんでした。ニワトリのウイルスによる感染病の研究は、私のメインの研究ですが、ニワトリが感染する鳥インフルエンザの疫学も研究課題として始めました。30年ほど前に、WHO(世界保健機関)から人の新型インフルエンザ出現に鳥インフルエンザウイルスが関与する可能性のあることが伝えられ、鳥インフルエンザウイルスの人への感染が問題視されました。野生動物、特に渡り鳥が人のインフルエンザウイルスの感染源になっている可能性が提起されたのです。最初は半信半疑ながら、日本海側に飛来する渡り鳥の調査を山陰地方で始めました。幸いにも、山陰地方はユーラシア大陸や朝鮮半島からやってくる様々な渡り鳥の集積する場所です。鳥インフルエンザウイルスは鳥類だけでなくほ乳類にも容易に感染することも確認しました。こうして幅広い鳥インフルエンザの研究を続けてきました。
 既に鳥インフルエンザは中国、韓国、北朝鮮あるいはベトナム、タイ、インドネシア等の東南アジア諸国のみならずヨーロッパ、アフリカ、南北アメリカ大陸等でも発生しています。もはや世界中に鳥インフルエンザは蔓延しており、しかもウイルスは急速に性質を変化させ、いつ人間から人間に爆発的に感染する恐ろしいウイルスに変化するのか大変心配されています。日本国内での鳥インフルエンザは、大正14年(1925年)以来、発生していませんでした。それが2004年に山口県や大分県、京都府の養鶏場などで多くのニワトリが鳥インフルエンザで死にました。2007年の宮崎県及び岡山県の発生例は記憶に新しいところです。人間のインフルエンザウイルスはワクチン接種により毎年その性質を変化させています。鳥インフルエンザウイルスは本来の宿主である水鳥に保有されている限りは変化しません。しかし、ニワトリに感染した場合にはウイルスは変化することがあります。例えば、ニワトリ等の鳥類に対して弱毒であったものが強毒に変わるという変化です。鳥インフルエンザウイルスが人間に対して強い感染力と病原性を持つウイルスに変わるという変化が起きることも考えられますが、その変化が起きた時点で、人間にとって脅威となります。なにかのきっかけがあって変わるわけですから、それがわかれば感染を防ぐヒントが出てきます。世界的にも注目を集めている研究なので、なんとか結果を見出していく努力を重ね、調査・研究を続けている毎日です。

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