総合生命科学部 生命システム学科 瀬尾 美鈴 教授

癌治療や再生医療にも驚異的な効果をもたらす「魔法の薬」。 細胞増殖因子の素晴らしい力を、病気に苦しむ人々に役立てたい。

現在、取り組んでおられる研究開発の内容について教えていただけますか。

総合生命科学部 生命システム学科 瀬尾 美鈴 教授

 細胞増殖因子(線維芽細胞増殖因子FGF)が人間をはじめとする哺乳動物の細胞の増殖と分化をコントロールしています。このメカニズムの解明が私の研究テーマです。増殖を促進する一方で、抑制する方向にも働くという細胞増殖因子の二面性に興味を抱いたきっかけは、'80年代の米国留学でした。ちょうどその頃、バイオサイエンスの分野で細胞増殖因子が発見され、世界的に注目されていました。
 私が最初に留学したハーバード大学医学部の付属病院マサチューセッツ・ジェネラルホスピタルの研究室は、癌の治療に役立てるために、末期患者の腹水などに含まれる細胞増殖因子を研究していました。その過程で同じ因子が癌の増殖と抑制に関与していることがわかってきたのです。これは非常に興味深い現象です。つまり、そのメカニズムを解き明かし、上手くコントロールできれば、癌の治療に活用できるわけです。圧倒的な効果があるかもしれません。これが私の現在の研究の出発点になりました。その後、細胞増殖因子の研究がさらに進んでいたチルドレンズ・ホスピタルの研究室に留学し、京都産業大学に戻ってからも研究を続けています。この研究においてもっとも重要なのは、細胞の中で何が起こっているのかを知ることです。細胞の表面にあるFGFレセプターがFGFを受け取ってからの細胞内部における情報の伝達、細胞の分裂、生存の維持などの仕組みがわかれば、癌治療だけでなく再生医療にも応用できます。

細胞増殖因子のメカニズムが解明できれば、画期的な新薬が開発できそうですね。

 私は広島大学で薬学を学びました。当時は医学部薬学科で医学部の先生方の授業も受講できました。ふり返ってみると、これがほんとうに役立っています。入学当初は薬剤師になって新薬を開発したいと思っていたのですが、講義を受けるうちに、病気の原因となっている部分に直接作用する薬を生み出さなければ、完治させることはできない。そのためには、機能が不全になっているターゲットを見出すことが大切だと考えるようになりました。これがわかれば、副作用の少ない新薬をつくることができるからです。たとえば、成功した事例として、白血病のグリベックという薬があります。ある種の白血病では劇的な効果が報告されています。ターゲットを明確に捉え、これに的確に働きかけたので、速やかに治癒させることができたのです。細胞増殖因子の情報(シグナル)が細胞内へ正常に伝わらない時に、人間は病気になるわけですが、異常になっている部分を突き止めることができれば、健康を取り戻すことができます。私の夢は細胞増殖因子の素晴らしい力を、病に苦しむ人々のために具体的に役立つようにすることです。  超微量の細胞増殖因子を細胞にふりかけると、神経繊維が伸び、細胞が分裂していきます。
 これらを目の当たりにすると、心から細胞増殖因子は「魔法の薬」だと感嘆します。そして、生命の不思議を実感し、その驚異的な仕組みに神秘的なものを感じます。私たちの研究はまだ途上ですが、やがてその成果を製薬会社との共同研究で実りあるものにしたいと願っています。また、これからの社会にこの分野で貢献できる人々を育てることも私の務めだと思っています。細胞増殖因子のメカニズムを理解し、これがどのようになれば病気になり、これを治すためのターゲットを見つけ出す方法を示すことができる人材を、世の中に送り出すことができればと思っています。  遠くない将来、医療はあらゆる領域で劇的な進歩を遂げると確信しています。

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